理系的 写真レタッチの類型
写真のレタッチというものを、「写真的な情報」がどれだけ書き換わるかという、理系的な側面でまとめています。
また、レタッチのテクニックなどはありません、これはそういう文章としてご了承ください。
類型
画像全体への調整
部位を任意に選択して調整
別の画像のデータなどで上書き
となります。これが下に行くほど「強く段階が変わった」レタッチということになります。なぜそのように類型したか、それぞれ説明していきます。
視点
この文章に貫くものは「写真的な情報」がどれだけ書き換わるかということです。
「情報」ではなく「写真的な情報」ということが重要です。純粋に「情報量」なんてしてしまうと、背景と同色の服を着た人を消すレタッチをしても、情報量(シャノン情報量)にあまり差はないということになってしまうからです。
別の言い方をすると、「画像の意味」的な差がどれだけあるかに、焦点をあてている、と言ってもいいと思いますが、上記の「写真的な情報」という言葉で統一します。(そのため、以下の文章で「情報」とあっても、「写真的な情報」という意味です。)
画像全体の調整
これは画像全体にフィルターをかけたということです。この範囲をターゲットにしたフィルターはレタッチの中では最も弱いものです。画像全体に効果を及ぼしますが、画像の中から何かを恣意的に選ぶことがないからです。
私たちの見ているデジカメ画像はすでに調整されたもの
世に出ているほぼすべての画像データが、何らかの調整がされています。そのため、「フィルターは弱いレタッチ」としています。まず、カメラのデータと人間の目の見え方は全然違います。LinuxのコマンドラインでのRAW現像ソフトウエア"Dcraw"を使って、データをダンプしてみてください。あまりに暗くて「ねむい」画像が出てきてびっくりすると思いますが、これが撮像素子の見えている世界です。
言い換えると、一般のデジカメから出てくる画像は、必ずフィルターがかかっています。言い換えると、RAWデータそのものの数値データは人間が見れたもんではありません。
フィルター自体の強さについて
フィルター自体にも類型ができますが、大きく2種類だけ紹介します。
1つのピクセルだけで閉じたもので、画像全体処理の中でもさらに弱いものになります。
明るさ、ガンマ値をいじるだけなら、この弱いフィルターに相当します。
あるピクセルの周辺情報を利用するものは、フィルターの中で少し強いものになります。
ぼかしや輪郭抽出は、1つのピクセルの周辺情報を利用したフィルターになります。
部位を任意に選択しての調整
この部分を調整したい、と、何かしらの選択をすることは、いわゆる「恣意的」な側面が出てきます。
そのため、選択した特定の部位だけにフィルターをかけることは、画面全体にフィルターをかけるより、強い段階のレタッチということになります。
また、特定の部位を任意に選択をしますが、同じ画像の中の情報をある程度利用していることにも注意してください。これは「データの置き換え」ではなくて、「調整」で済ませている程度を指しています。
どういうものが相当するのか
人物写真なら肌の部位だけを選択加工、体型の加工、ほくろの除去などが挙げられます。風景写真の場合は、空だけ選択して明るくしたり、コントラストをよくする、などが挙げられます。
部位の選択には、自分の手で実施しても、機械学習の結果からでもいずれも「部位を任意に選択」したことには代わりありません。(フィルターのプログラムをかけたつもりでも、実は内部で特定の部位が選択されている場合もあるかもしれませんが、そういったものも含めることとします。)
フィルターだけで直すのは極めて難しいから部位選択
特定の部位にだけよく「作用」するフィルターを作成することはできると思います。しかし、たいていの場合は、その「作用」させたい部分以外にも影響があります。部位の選択を行えば、そういった問題からも解放されます。
ただ、何重にもフィルターをつなぎ合わせて、目的のものを出力することもできるでしょう。しかし、きわめて膨大な数のフィルター数になります。(さらに、そうやって作ったフィルターは、その画像だけにしか使えません。)
部位を選択して加工する場合の強さについて
部位を選択したところを、フィルターで補正するのが弱い部位選択加工になります。
ほくろの除去など同じ画像の別の部分を移植するや、体型を補正したりする歪みツールを使うことは、強い部位選択加工になります。
強い部位選択加工と「調整」の範囲
強い部位選択加工は、その部位の情報が、どれだけ保存されているかにかかっています。つまり、「調整」で済むことが重要です。
ほくろの除去は、その人の肌の上書きに相当するため、ほくろが無かったことになりますが、同じ肌であることに変わりはありません。
体型の補正などは、そのピクセルの位置の情報で見れば、もともと体の一部だったものが、歪んでよせられた背景に置き換わっているなどの違いありますが、トポロジカルに見て、同じものになります。伸ばす、曲げるの操作を必要としますが、元の画像の配置関係に差はないということになります。
このように、画像の一部を、無から有、逆に有から無にしたとしても、情報を完全に上書きしたわけではなく、画像の他の場所から引用するように調整したということです。
部位を選択することによる問題
このあたりのレタッチ分類から、やりすぎると情報の一貫性のなさから、不自然なところが出てきてしまいます。
別の画像のデータなどで上書き
これはとてもわかりやすいと思いますが、別のデータで上書きすることに相当します。
その中の情報が丸ごと上書きされるので、まさに強いレタッチになります。
具体例
ポートレートでは、髪の毛のつぎ足し、などがそれにあたります。風景では、人や鳥などのつぎ足し、空をまるごと入れ替える、などがこれに相当します。
生成AIなども、これに相当すると言ってもよいでしょう。
情報を上書きすることによる問題
このレベルのレタッチは、他の部位との整合性をとるのが大変と思います。
オブジェクトを追加しても影がなかったり、光源となるキャンドルを追加したとしても、キャンドルの光が別のオブジェクトを照らしてなかったりすることもあるでしょう。
つまり、他の部位の情報との一貫性を保つために、逆に思い切ったことができない処理になるでしょう。
少しだけ、活用例
繰り返しですが、この文章は、レタッチについて、「写真の情報がどれだけ変わったか」について類型を与えたいだけです。
なので、あまり同じテキスト内で書きたくはないのですが、個人的備忘録として残すだけではしっくりとこないので、ちょっとだけ例を載せます。
レタッチの類型についてまとめましたが、どのレベルまで許容できるかは、どういうシチュエーションかによります。
1つだけ例を載せます。
部位を任意に選択して調整がほんの少しだけで、画像全体へのフィルターが極めて強くかかっていた場合は、強いレタッチがかかっていると言っていいかもしれません。しかし、その画像はピクセルの位置情報的にはほぼ正しいとは言えます。
この位置情報的に正しいことが、許容されるかどうかについてですが、完全にシチュエーションによります。天体観測の写真であった場合、画像全体に強いフィルターがかかっていても許されます。これはフィルターによる画像加工がないと、あまりいいものに見えないのが一般的でしょう。実際、この天体観測写真の分野では、フィルターだらけになっていると言っていいでしょう。しかし、星の位置関係がずれていたらどうでしょう。これは天体観測の写真としては大問題になると思いますがいかがでしょうか。そして、一部の部位を選択したレタッチも、撮像素子に埃がついていて、その部分だけ選択して補正した、としたら許せるのではないでしょうか。(もちろん、そんな埃の跡の修正をすることになれば、撮影者は悔しいでしょうし)