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重積てんかん症状の危険度

1.重積てんかん症状が何故危険か


小児の重積てんかん(けいれん重積、英語では「status epilepticus」)は、けいれんが30分以上続くか、けいれんが繰り返されて意識が回復しない状態を指します。この状態は神経学的緊急事態とされ、迅速な診断と治療が必要です。

特に小児の場合は、危険度が高く下記のようなリスクがあります。

  1. 脳損傷のリスク
    長時間のけいれんは脳に酸素や栄養を送る血流を妨げ、神経細胞に不可逆的な損傷を与える可能性があります。特に、未熟な小児の脳は成熟過程にあるため、ダメージを受けやすいです。

  2. 低酸素血症
    けいれん中に呼吸が乱れることで酸素供給が不十分になり、低酸素血症に陥るリスクがあります。

  3. 代謝性異常
    けいれんによりエネルギー消費が増加し、体内の代謝バランスが崩れることで、低血糖や電解質異常(特にナトリウム異常)が生じる可能性があります。

  4. 多臓器不全
    けいれんが重度になると、心臓や肺、肝臓などの臓器機能が低下するリスクもあります。

  5. 死亡リスク
    特に原因が感染症や急性脳症の場合、適切な治療が遅れると致命的な結果を招くことがあります。

2.重積てんかんの3つの危険

1.悲劇は遠い話ではない:ある家族の体験から考える

少し前のことです。ある患者さんのご家族からご相談を受けました。
ご子息が外出中に突然けいれんを起こし、救急搬送されたものの、残念ながら3時間後に病院でお亡くなりになったというお話でした。

そのご子息は幼少期に肺門リンパ腺炎を患ったことがあったそうですが、それまでにてんかんの症状が出たことは一度もなかったとのことです。

死亡診断書には、

記載があり、亡くなられてから2年以上が経過していますが、ご両親は今もなお医療制度に対して強い不信感を抱いている様子でした。

2.3つの危険とは?

2-1.危険その1 救急搬送の時間

外出先で重積てんかんが発症した際にまずは救急搬送を消防庁へ連絡し救急搬送を依頼する訳ですが、都市部地方によって差はありますが都市部で救急車の現場到着まで10分~30分。
到着後、トリアージの時間が5分から10分。
そして、状態によって二次救急か三次救急施設への搬送を受け入れ先候補の医療施設と交渉する訳です。その交渉時間が10分から長い場合は20分。
重積てんかん発作の場合、二次救急施設(一般的な救急対応が可能な病院)に搬送されることが多いようです。
これでの時間が最短で20分、最長で50分ほど掛かる訳です。搬送先が決定して救急病院までの走行時間が10分から30分ほど掛かるとすると、119番へ通報してから到着までにすでに最短で30分、最長だと1時間20分となります。

では、夜間や休日で救命士が重篤だと判断して三次救急施設への搬送を行う場合、救急車の現場到着から病院搬送までの時間が都市部では平均10~20分、地方では30分以上かかることがあります。
ただし、忙しい時間帯や医療資源が逼迫している場合、受け入れ先の確認に時間がかかることがあります。一般的に、15~30分程度で調整が行われることが多いですが、混雑時は1時間以上かかることもあります。

つまり8歳以下の小児の場合、重積てんかんで病院搬送までに2時間かかった場合、けいれんが長時間続くことで低血糖状態になるリスクがあります。けいれん中は脳や筋肉は通常よりも大量のエネルギーを消費します。このエネルギーは主に血糖を利用して供給されるため、けいれんが長時間続くと血糖値が急激に低下する可能性があり、非常に危険な状態です。

2-2.危険その2 搬送先施設の医師スキル

地域の医療体制は、施設間で医療の質に差が出ないように整備されています。しかし、夜間や休日に二次救急へ重積てんかんの患者が搬送される場合、通常時よりも医療体制が手薄になることがあります。

その結果、適切な診断や治療が行われないリスクが発生する可能性があります。たとえば、二次救急の担当医がてんかんの専門家でない場合、適切な抗てんかん薬の選択や神経学的検査の判断が遅れることがあります。特に、重積てんかん発作は迅速な治療が求められるため、専門性の不足が治療の遅れを招き、患者の予後に深刻な影響を与える可能性があります。

さらに、深夜や休日にはMRIやCTなどの検査機器が緊急用としてしか使えない場合があり、必要な神経学的検査がすぐに実施できないことも問題です。このような状況では、診断や治療が後手に回ってしまうケースも少なくありません。

2-3.危険その3 重積てんかん患者対応プロトコル

二次救急施設の多くは日本救急医学会や関連学会の推奨する標準的なプロトコル(例:日本小児科学会の「小児けいれん重積に関するガイドライン」)を参考に、院内で対応手順を整備しています。正確な割合は不明ですが完備率は地域や施設によりますが、約70~90%の二次救急施設が何らかのプロトコルを有していると推定されます。

重積てんかん患者対応プロトコルの課題

小児の重積てんかん患者に対応するためのプロトコルは、神経内科医や脳外科医など、多くの有能な専門家によってこれまでに下記のように300編以上が作成されています。しかし、現場で使用されるプロトコルの形式や実用性には大きな課題が残っています。

特に救急医療現場の処置室で確認する際、その内容やフォームが実務に適しているとは言いがたく、正直なところ、現場のニーズに合わないお粗末な状態であると感じることもあります。こうしたプロトコルが更新されておらず、現場での即時対応に役立てられていないことは、大きな改善の余地があると言えるでしょう。

重積てんかん患者対応プロトコルの課題

日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_08.pdf
日本小児神経学会学術集会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/47/3/47_235/_pdf/-char/ja
名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄附講座
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/38/6/38_S208/_article/-char/ja
総務省消防庁https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento121_05_119banprotocolv1.pdf

3.まとめ

日本における小児けいれん重積の死亡率(1~3%)は、欧米先進国(1~2%)とほぼ同程度です。一方で、発展途上国では医療資源の不足により死亡率が10~15%と高いケースも報告されています。
確かに日本での小児重積てんかんでの死亡率は低いが発作で倒れてから三次救急施設へ搬送されるに2時間近くかかる場合が5割強とすると小児重積てんかんで迅速な治療が行えず、発作が2時間近く続く場合、死亡率は低いとしても、重篤な後遺症を患うリスクが大きくなります。
けいれんの持続時間と予後の関係をみても、けいれんが開始から30分以内に収束すれば、後遺症のリスクは低いとされていますが、1時間以上続く場合、神経学的後遺症(認知機能低下、発達遅滞、難治性てんかんなど)のリスクが増大し、2時間以上続く場合、脳細胞の損傷が不可逆的になりやすく、重篤な後遺症が残る可能性が高まります。

発作から病院到着までに2時間以上かかるケースが50%以上ある現状では、重篤な後遺症のリスクは否定できません。医療体制の整備、搬送時間の短縮、そして救急隊による早期治療の普及が、重積てんかんの予後改善に重要です。国や地域レベルでこれらの対策を推進する必要があります。

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