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日本における”てんかん治療Treatment Gapの実態

てんかんのTreatment Gap(治療を必要としているにもかかわらず適切な治療が受けられない問題)は、発展途上国だけでなく先進国の日本にも存在します。
2015年からWHO総会にて日本のてんかん医療のTreatment Gapが指摘され厚労省もてんかん治療拠点病院を全国に拡大する方針を打ち出しましたが地域差の解消にはまだ至っていません。
進捗状況は厚労省の報告書を下記のご覧ください。
 ▶2021年度てんかん全国支援センター報告書(厚労省へLINK)
 ▶2022年度てんかん全国支援センター報告書(厚労省へLINK)
 ▶2023年度てんかん全国支援センター報告書(厚労省へLINK)

2023年07月24日にてんかんおよびその他の神経疾患に関するWHOの部門横断的世界行動計画 (IGAP : Intersectoral Global Action Plan) が発表され、部門を越えた包括的で調整された対応を通じて、神経疾患を抱えて生きる人々のケアと治療へのアクセスを改善するために必要な行動を定めています。

神経疾患は障害調整生存年 (Disability-adjusted Life Year ; DALY) の主な原因であり、2020年のランセット論文では、神経疾患が世界で 2 番目に多い死因として挙げられており、年間 900 万人が死亡しています。 世界的に神経疾患による負担が大きいにもかかわらず、これらの疾患に対するサービスとサポートの両方へのアクセスは、特に低所得国および中所得国では不十分です。

この行動計画では、5 つの戦略目標を掲げています。 すなわち、政策の優先順位を高め、ガバナンスを強化すること、効果的でタイムリーかつ迅速な診断、治療、ケアを提供すること、プロモーションと予防のための戦略を実施すること、研究とイノベーションを促進し、情報システムを強化すること、そして、てんかんに対する公衆衛生のアプローチを強化することです。

2031年までの目標達成を追跡するため、測定可能な指標とともに10の世界目標が設定されています。 これらの目標を達成するために、この計画では、医療部門をはじめとする関係者間の緊密な協力が必要であること、また神経疾患患者やその介護者、家族の参加とエンパワーメントを支援する必要性についても概説しています。
詳細はWHOのウエブサイトをご覧ください。

厚労省の報告書から読み取れること

1. 医療従事者の教育と専門性の強化

a. 一般医療従事者への教育

  • てんかんは多くの場合、初診が一般医や小児科医で行われます。しかし、てんかんの診断や治療に関する専門的な知識が不足している場合があり、適切な治療が遅れる原因となります。

  • 対策:一般医、救急医、小児科医を対象に、てんかんの診断と初期治療、専門医への適切な紹介に関する教育を強化する必要性があります。

b. てんかん専門医の育成

  • 日本では、てんかんの専門医が地域によって不足している場合があります。特に原因治療が脳外科医のてんかん領域のスペシャリストの育成が必須です。

  • 対策:てんかん専門医の育成プログラムを拡充し、診療ネットワークを整備します。


2. 地域医療の強化と連携

a. 地域でのアクセス向上

  • 地方や離島などでは専門医の不足が深刻です。

  • 対策:遠隔医療(IoT利用など)の導入により、患者が遠隔地からでも専門医の診療を受けられるようにします。また、定期的な訪問診療や専門医の巡回診療を拡大し確実な治療の実現。

b. 多職種連携

  • てんかんの診療には、医師だけでなく看護師、薬剤師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどの多職種が関与します。

  • 対策:ここの地域でその地の特性にあった地域医療チームを編成し、患者の包括的なケアを提供目指します。


3. 患者と家族の教育と支援

a. 患者教育

  • てんかんに関する知識が不足している患者や家族は、適切な治療を求めることが難しくなります。てんかんと云う言葉だけで身体的、精神的、そして社会的な負担をもたら為に自己憐憫に陥り一層治療を難しくする場合もあります。

  • 対策:てんかんの症状、治療法、生活管理についての情報提供を行い、患者が自身の病気を理解し、治療に積極的に参加できるようにします。

b. 家族支援

  • 家族の理解とサポートが、患者の治療継続や生活の質向上に重要な役割を果たします。

  • 対策:家族向けの教育プログラムやサポートグループを提供し、心理的・実務的なサポートを強化します。


4. 社会的偏見の解消

a. 啓発活動

  • てんかんに対する社会的偏見や誤解が、患者が適切な治療を受ける妨げとなることがあります。

  • 対策:学校や職場での啓発活動を通じて、てんかんに対する正しい知識を広め、偏見や差別を減少させます。

b. メディアを通じた広報

  • 広報キャンペーンを活用し、てんかんが管理可能な病気であることを強調します。患者の成功事例を紹介することで、社会全体の理解を促進します。


5. 政策の改善と支援体制の強化

a. 診療体制の改善

  • てんかん診療の均質化を図るために、診療ガイドラインの遵守を徹底させることが重要です。

  • 対策:てんかんの診療に関する標準的なプロトコルを全国で導入し、診療の質を向上させます。

b. 経済的支援

  • 経済的な理由で治療を受けられない患者も存在します。

  • 対策:医療費助成制度を拡充し、患者が経済的負担を気にせず治療を受けられるようにします。


6. リサーチとイノベーション

a. 新しい治療法の開発

  • 難治性てんかんの患者に対して、新しい治療法(手術、ケトン食、VNS(迷走神経刺激療法)など)の開発と普及を進めます。

b. AIとビッグデータの活用

  • InsightXのようなAIを活用して、発作予測や個別化医療を提供するシステムを開発します。また、全国規模で患者データを収集し、治療の最適化が不可欠です。

まとめ

日本国内のてんかん治療Treatment Gapを解消するためには、医療提供者、患者、社会全体が協力して取り組むことが必要です。医療の質を向上させるだけでなく、患者が偏見なく治療を受けられる環境を整えることで、てんかん患者の生活の質を大きく改善できます。

てんかん治療における地域差が依然として大きいことは、厚生労働省の報告書にも指摘されています。特に、私立病院がてんかん拠点病院として認定されている数(予定を含む)が少ない現状は非常に残念です。

この状況を改善するためには、レセプトシステムの改正など、私立病院の参加を促進するための具体的な施策が求められると感じます。


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