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薬剤抵抗性てんかん(DRE)治療でVNSが少ない理由‼

薬剤抵抗性てんかん(DRE)とは、2種類以上の抗てんかん薬を適切に処方・使用しても発作が続くてんかん。一般的には難治性てんかん、治療が困難なてんかん、コントロールできない発作とも呼ばれます。

この治療方法は海外では小児を中心には結構適応例が多く韓国でも患者数が日本の半分以下なのにVNS対応例は日本の倍以上、つまり4倍の患者さんがVNS治療を受けていることになります。

では、何故少ないか?

それはあるレポートが原因しているようです。レポート自体内容はそれなりの貴重なレポートです。「CQ10-1 詳細版 - 日本神経学会」と題され2016年に学会向けの資料として作成されたようです。
レポートの副題なのでしょうか?「薬剤抵抗性てんかんにおいて迷走神経刺激 (VNS) を薬物療法に加えて行うべき. か?」タイトルです。

CQ10-1 詳細版 - 日本神経学会より

日本死刑学会2016 CQ10-1 https://insightx.jp/pdf/CQ10-1.pdf

このレポートは全30ページにわたり、日本における迷走神経刺激(VNS)の難治性てんかん患者への適応が低い原因について考察しています。しかし、私個人としては、これは海外で行われたVNS治療に関する再評価の側面が強いと感じています。以下に、レポートの要点を抜粋してまとめました。

  1. エビデンスの質が低い

    • 薬剤抵抗性てんかんにおけるVNSの有効性を検討したランダム化比較試験(RCT)は1件しか存在せず、その結果、全体的なエビデンスの確実性が「非常に低い」と評価されています。

    • さらに、このRCTは参加者不足とスポンサーの意向で早期終了されており、アウトカムの検出力が不足している可能性が示唆されています。

  2. 治療効果と副作用の不確実性

    • 発作頻度50%以上減少における相対リスク(RR)は1.34(95%信頼区間0.59~3.04)で、臨床的な有効性が明確ではありません。

    • 副作用(声帯麻痺や短時間の呼吸停止)は一過性で後遺症はありませんが、重篤な有害事象のリスクが示唆されています。

  3. コストと負担

    • VNSには全身麻酔を伴う植え込み手術が必要で、数年ごとにジェネレーターの交換が必要です。これに伴い追加のコストが発生します。

    • 日本ではこの治療が保険適用であり、手術自体の費用は抑えられていますが、コストが「中等度」と評価されています。

  4. 施設や専門医の限界

    • 過去には植え込み実施施設が限られていましたが、基準の緩和によってアクセスは改善されたとされています。それでも依然として一部の地域では課題が残っている可能性があります。

  5. 患者の価値観と好みの多様性

    • 発作頻度の減少を重視する患者と、副作用リスクを懸念する患者が存在し、個々の価値観が多様であることが指摘されています。

総括すると、日本でのVNS適応率が低い原因として、エビデンスの限界、副作用の不確実性、コストの負担、施設の制限、患者の多様な価値観が絡み合っていると考えられます。

私的な総括

このレポートではPUBMEDからVNSに関する文献をシステマティックレビューとして取り上げていますが、以下の点で私なりの懸念が妥当だと思われます:

1. 出版バイアスの影響

  • 米国や他の国々では、特にポジティブな結果を持つ研究がアーティクルとして採用される傾向が強いです。VNSのような新しい技術や治療法では、アウトカムが良好である例が選ばれやすい「出版バイアス」が起こり得ます。

  • レポートにも「RCTが1件しかなく、それに基づいたエビデンスの確実性が低い」と記載されています。これは、出版されているデータが十分に包括的でない可能性を示しています。

2. レポートの対象範囲とケース選択

  • このレポートがPUBMEDを基にしていることから、そもそもそのデータベースに登録された研究に依存しています。そのため、すでに選別された情報の中でさらに特殊なケースが取り上げられた可能性があります。

  • 特に、単一のRCTを重視しながらも、それ以外の非ランダム化試験や観察研究を「エビデンスが低い」として排除した背景には、ケースバイケースの臨床経験が反映されていない可能性があります。

3. VNSの特殊性

  • VNSは低侵襲とはいえ外科手術を伴うため、他の治療選択肢がない場合に初めて選択されることが多い治療です。このため、アウトカムが良好なケース(いわゆる「成功事例」)以外は臨床現場で十分なフォローや発表が行われていない可能性があります。

4. 「特殊ケース収集」への懸念

  • ユーザーが感じる「特殊なケースだけを集めたのでは」という視点は、このような背景を考えると一理あります。このレポートの文脈では、発作頻度の50%減少が「有意でない」とされる一方で、介入群での重篤な副作用(例えば声帯麻痺など)が特筆されているため、VNS否定的な印象を与えやすい構造にもなっています。

著者がどのような目的で作ったのか意図は判りませんが、もう少し個人的に検討はしたいと思っています。
まずは米国はじめ欧米での臨床データベースや実施施設の非公開データに着目し、日本での導入実績との違いを明らかにするなどの方法を考えています。

おまけ(VNSの保険点数と開頭術等との比較)

  • VNS植込み術
    24,350点(=約24万3500円、患者負担額は3割負担の場合約7万3000円)

  • ジェネレーター交換術
    4,800点(=約4万800円、患者負担額は3割負担で約1万2000円)


開頭術(てんかん外科手術)の保険点数

  • 病巣切除術
    47,000点(=約47万円、患者負担額は3割負担で約14万1000円)

  • 側頭葉切除術
    約55,000点(=約55万円、患者負担額は3割負担で約16万5000円)

  • 機能的脳手術(脳深部刺激術など)
    約52,000点(=約52万円、患者負担額は3割負担で約15万6000円)


比較と特徴

  • VNS

    • 点数が比較的低いため、患者負担は少ない。

    • 外科的侵襲が少なく、安全性が高い。

    • 継続的にジェネレーター交換が必要なため、長期的にはコストが加算される。

  • 開頭術(てんかん外科手術)

    • 一度の手術で大きな効果が期待できる可能性がある。

    • 侵襲が大きく、手術リスクも高い。

    • 保険点数が高く、患者負担額も大きい。

VNSにより、薬剤抵抗性てんかん患者の約50%が発作頻度の50%以上の減少を経験することが報告されています(ただし、個人差があります)。発作が50%減少したという事実は、てんかん患者にとって抗てんかん薬の副作用から解放される可能性を示唆しており、多くの方にとって興味深い内容だと思われます。今後、さらなる情報が入り次第お知らせします。


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