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てんかん発作予知は心拍数の変動だけで本当に可能なのか?

てんかん発作は予期せずに発生することが多く、親御さんは子どもがどこで発作を起こすかわからないという不安を常に抱えています。特に発作の持続時間が長くなったり、呼吸が止まったりするケースでは、命に関わる可能性もあり、親として強い恐怖感を抱えることが一般的です。

親御さんが期待するてんかん発作予知機能には、発作の前兆を検知する早期警告システム、発作パターンの可視化やトリガー要因の分析、医療チームとのデータ連携、簡単な操作性、通知のカスタマイズ機能などがあります。これにより、子どもの安全が確保され、不安が軽減されることが期待されていることから我が国でも数多くの大学がてんかん発作予知の研究が進んできたがどの研究も商品化するまでには至っていません。

◆我が国での「てんかん発作予知研究」の歴史(2015年から現在まで)

2016/3/4
熊本大学大学院先導機構・大学院自然科学研究科の山川俊貴助教

熊本大学 大学院先導機構・大学院自然科学研究科

熊本大学は3月4日、脳波ではなく心電図をもとに算出した「心拍変動」という指標からてんかんの発作を高精度で予測することに成功したと発表した。

同成果は、熊本大学大学院 先導機構・大学院自然科学研究科 山川俊貴 テニュアトラック助教、京都大学大学院 情報学研究科 藤原幸一 助教、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 宮島美穂 助教らの研究グループによるもので、2015年12月24日付けの米科学誌「IEEE Transactions on Biomedical Engineering」オンライン版に掲載。
【中略】
今回、同研究グループは、多変量統計的プロセス管理(MSPC:Multivariate Statistical Process Control)という工学的手法を用い、てんかん検査のために入院した患者14名の心電図データを解析した。この結果、91%という高い精度で発作を予知することができ、発作が起こる約8分前に予知することが可能であることがわかった。報道機関用プレスリリース詳細は”心拍数の変動からてんかん発作の予知に成功~ウェアラブル予知デバイスの開発が進行中~”

2024/6/8
世界初、てんかん発作直前に知らせるアプリ AI予知、名大など2026年度実用化目指すー国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の藤原幸一 准教授

『心拍変動解析に基づくてんかん発作警告機(仮称)』

てんかんの発作が起きる予兆を人工知能(AI)がつかんで患者に警告するスマートフォン用アプリの開発に向け、名古屋大を中心とした研究機関とスタートアップ(新興企業)が、2024年度中に臨床試験(治験)を始める。26年度中の実用化を目指しており、医師が処方する。発作が起きてから知らせる端末は既にあるが、発作が起きる直前に警告するアプリは世界初だという。
アプリは豊田通商が開発した心電データを測定できる小型端末を利用。


良い成果を上げられない理由
私はてんかん専門医ではありませんが、海外で脳外教室(Neurosurgery Dept.)に籍を置いたこともありそれなりの知識はあります。そもそもてんかんは一つの病名というよりも「脳の異常な電気活動によって引き起こされる反復性の発作」を指す症状の総称であり、その原因や背景は多岐にわたります。つまり、てんかんは「単一の疾患」というよりも、複数の異なる疾患や状態が共通して引き起こす症状群と考えることができます。本来「てんかん症候群」として分類するのが正しい訳ですが、わが国では「てんかん」=病名と錯覚している親御さんも数多いようです。下記にてんかん発作が随伴する要因を簡単ですがまとめてみました。

てんかんが随伴する異なる要因
てんかんを引き起こす要因は、個々の患者によって異なります。以下はその例です。
遺伝的要因:特定の遺伝子変異がてんかん発作を引き起こす要因になることが知られています。家族性のてんかんや、特定の遺伝性疾患(例:ドラベ症候群など)では、てんかんが主症状として現れます。

構造的要因:脳の構造異常(脳の一部の形成異常や脳腫瘍、外傷など)もてんかんの原因となります。例えば、頭部外傷や脳梗塞、腫瘍などによって特定の部位にダメージが生じると、その部分が異常な電気活動を発生させ、発作が誘発されることがあります。

代謝的・免疫的要因:代謝異常(例:低血糖症や電解質異常など)や自己免疫疾患によってもてんかん発作が引き起こされることがあります。たとえば、自己免疫性の脳炎などによる神経系の炎症も発作の原因です。

感染症や周産期の問題:新生児期や周産期の脳の感染症(例:髄膜炎や脳炎)や、出生前後の脳への酸素不足などによっても、てんかん発作が起きやすくなります。

誘発性てんかん(反射性てんかん):光刺激、音、特定の行動などがきっかけで発作が誘発されることがあり、特定の環境要因が関連しています。

発作の要因はさまざまで、海外でも心拍数の変動だけで発作を予知しようとする研究は200件以上行われてきましたが、いずれも商品化には至っていません。今回が「世界初」と言えるかもしれませんが、結果が少し心配です…。

InsightX てんかん発作予知への期待

異なるてんかん症候群


てんかんは「てんかん症候群」として分類され、数多くの異なるタイプが存在します。例えば、小児特有のウェスト症候群やレノックス・ガストー症候群、成人期に多い側頭葉てんかんなど、各症候群は発症の時期、原因、症状、治療法が異なります。これらを包括的に一つの疾患や病態として捉えることは難しく、「症候群」の分類でもカバーしきれないほど多様であるため、「症状群」として捉える方が適切と考えられます。
それらの症状群を安全が確保できる、発作前アラートを来ることが可能なのか物理的時間を想定してみました。

  • ウェラブルデバイスからモバイル本体に送る所要時間   1-2秒

  • モバイルアプリからクラウドAIサーバーに送る時間    2-4秒(データー量に比例)

  • クラウド側の演算時間                約2-4秒

  • モバイルアプリ側にクラウドからプッシュアラートの送信 約2秒

合計7秒から12秒となります。発作時の転倒などを予防する事を考えると
最低3分前(理想的には10分前)に予知処理が完了してなくてはなりません。
つまり、予知には、発作の3分15秒前までに心拍の乱れが検出される必要があります。しかし、臨床的には発作の約10秒前に特定の脳波パターン(スパイク波など)が現れるのが一般的であり、心拍の乱れが脳波の変化よりも先に起きると考えるのは難しいです。

発作の兆候をリアルタイムで検知し、すぐにアラートを送信できるかどうかも性能のポイントです。遅れが生じると発作予知の価値が下がるため、処理速度も重要です。

まとめ

てんかん患者を持つ親御さんは、発作予知機能に対して早期警告システムやデータの可視化、使いやすさ、医療機関との連携、安心感の提供など、多くの期待を寄せています。これらの機能が実現することで、日常生活の質が向上し、親御さんの不安も軽減されるでしょう。InsightXも2027年の完成を目指し、現在ヨーロッパを中心にビッグデータを解析しており、心拍の乱れを活用した発作予知の可能性を再検証する予定です。

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