見出し画像

09 地域サービスを考える

 以前、「地域食支援」の実践について次の3要件があると述べた。

  1. 生活支援の視点で実践する

  2. 本人、家族のみならず、地域の様々なサービスを適切に利用して食支援を行うこと

  3. 最期まで口から食べられるための社会づくり

 今回は地域サービスについて考えてみる。

 私の地域サービスを考える原点は食支援ではない。

 訪問診療を始めて一番戸惑ったことは、患者さんが亡くなるということだった。「何を今さら」と言われそうだが、まだ若かった勤務歯科医師にとって患者さんの死は当たり前ではなかった。歯科は死と疎遠で、高齢患者さんが亡くなったという話を後で聞く程度だった。訪問診療を始めると、つい先日まで訪問していた方が亡くなるということが多くある。そこで初めて人の死を考えるようになった。
 その当時、死生学の第一人者、アルフォンス・デーケン先生とお付き合いがあり、先生の本を頂いたりしていた。そこで、先生が作られた「生と死を考える会」に入会することにした。その会の1つのグループとして地域活動部があり、定期的に参加していた。そのグループで出会ったのが石川左門(1927~2016)さんだった。
 左門さんは穏やかで、優しいおじいちゃんって感じだった。私(当時30歳代前半)のことをとても可愛がってくれて、すごく期待をかけてくださった。その左門さんが、とても熱心な地域活動家だったことは、お付き合いを始めてから知ることになる。
 ご長男が4歳で難病、筋ジストロフィーと診断されて以降、会社も辞め、「だれもが人間らしく生きられる社会を」という視点から、様々な在宅ケア事業を実践されていた。ご長男が亡くなって以降も活動を続け、愛隣舎という難病の方の預かり施設まで作られ、地域ケアの拠点になっていた。介護保険が始まるはるか昔から、地域包括ケアシステムを実践していた強者である。今考えても素晴らしい方と知り合えて幸せだ。

 その左門さんが口を酸っぱくしていつも言っていたことがある。

行政サービス(いわゆるフォーマルなもの)には「落ち、モレ、谷間」が絶対にある。それを地域活動で埋めていかなくてはならない

石川左門

 初めて聞いてから20年以上経つが、この言葉は全く色褪せない。自分自身が地域食支援活動を始めて、まさにそのとおりだと思う。

 食支援の範囲は広い。まさに生活支援。本当に多方面から考えなければならない。家族や介護者だけでは負担が大きくなりすぎてしまう。そこで各種サービスを利用していかなければならない。しかし、介護保険などのフォーマルなサービスだけでは「落ち、モレ、谷間」は絶対に出てくる。それを埋めるのがインフォーマル(私的)な地域活動である。
 地域活動として配食弁当のサービス(会社がやっていたり、ボランティアグループでやっていたり)、食事や食材の出張販売、お食事会や地域のカフェなどもある。もちろんそれだけでは足りない。地域に多種多様なサービスが生まれてこないとならないし、流行りでいうと持続可能性がなければならない。さらに、そのサービス量もさらに多くしていかなくてはならない。

 地域食支援の実践者としては、自分が活動する地域のフォーマル、インフォーマルなサービスを把握し、適材適所で利用していかなくてはならない。それと同時に、地域サービスをバックアップしていくことも重要である。

 石川左門のようには生きられないが、影を追って生きていきたいと思うこの頃だ。

#フォーマルサービス #インフォーマルサービス #石川左門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?