見出し画像

13 食支援と摂食嚥下障害のリハビリ

 食支援と摂食嚥下障害のリハビリテーションは同じなのか?

 この分野に身を置く人たちは誰もが頭の片隅にこの疑問があると思うが、正面からこの質問に答えたものは見たことがない。同じなのか?それとも似て非なるものであるのか?多くの人は、全く同じものではないが、重複する部分が多いものと捉えているのではないだろうか。
 個人的には同じであれば理想的だと考えているが、現実的には同じではない。その差異が生まれた1つの要因は「リハビリテーション」という言葉の理解ではないだろうか。
 摂食嚥下障害に対するリハビリテーションを学び始めた今から25年ほど前、藤島一郎先生をはじめリハビリテーション医やリハ職(セラピスト)の先生方は「リハビリテーションとは何か」という話をよくされていた。だからセミナーなどに参加すると「全人的復権」などという言葉をよく聞いていた。その頃はかなり食支援に近かったと思う。(以下、参考)

リハビリ=専門職による機能回復訓練ととらえられることも多いですが、「リハビリテーション」ということばには広い意味があります。「リハビリテーション」(Rehabilitation)は、re(再び、戻す)とhabilis(適した、ふさわしい)から成り立っています。つまり、単なる機能回復ではなく、「人間らしく生きる権利の回復」や「自分らしく生きること」が重要で、そのために行われるすべての活動がリハビリテーションなのです。

京都府HPより

 しかし、最近はその話題が抜け落ち、「リハビリテーション=訓練」として語られることが多いと感じる。実際、一般の方たちはリハビリという言葉は訓練だと思っている。そうなると、「リハビリの目標=機能向上」となってしまい、どっぷり医療分野になってしまった感がある。
 もちろん医療分野が悪いわけではない。EBM(Evidence-Based Medicine)なので、しっかり証拠を積み重ね、信頼度を増していく手法は重要である。

 一方の食支援。誤解を恐れずに言うならば結果が全てだ。その現場で、その方が食べたいと言っている時に何をどうすれば良いのか。単に食事形態の問題だけではなく、いかに美味しいもの、本人の好きなものを提供できるかであったり、なんとか工夫して椅子とテーブルの位置関係を改善するかであったり。食支援は生活支援なので、機能のみならず、環境の因子が大きく関与する。

 摂食嚥下障害分野は、その方が食べられるうかどうか、またどの程度の形態のものが食べられるかを評価し、安全に食べてもらうことが目標である。その中で、「この機能では安全には食べられない」という人を多く作ってしまっている。
 食支援は「ご本人の食べる喜びを回復する」ということがスタートである。今の現状を打破し、その方が食べる喜びを取り戻すためにできることを考える。包括的な支援と言えるだろう。

 先日、興味深い症例を見せていただいた。ある病院で摂食嚥下機能が低下した方が入院しており、機能評価をしたところ誤嚥が多く見られ、口から食べることは難しいということになった。その後、口から食べることを目標にした病院に入院され、その病院に到着してすぐに(リハビリなど何もしていない状態で)口から食べていただいたところ安全に食べられたという症例。ビデオも見せていただいたが、転院先の病院は食事姿勢や食事介助も卓越しており、まさに食支援だった。

 どちらが良くてどちらが悪いという話ではない。まだまだこの国で、「口から食べられる喜びを回復する」ためにできることがあるという話だ。そのための第一歩は、機能評価時に食事環境(姿勢や食事介助、食具など)を徹底的に良くするということだと考えている。まさに、食支援と摂食嚥下障害分野の融合である。できることはたくさんある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?