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14 食支援は誰にする?誰にできる?

 前述したように食支援の定義は以下のように定めた。

本人・家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して①適切な栄養摂取 ②経口摂取の維持 ③食を楽しむことを目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと。

五島朋幸:最期まで食べられる街づくり.静脈経腸栄養.Vol.30,No.5,P1107-1112,2015.

 まずは食支援の対象者とはどのような人たちであるのか。「本人・家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人」という定義から具体的な対象者を考えてみる。

  • 口から食べていない(食べさせてもらえない)

  • 口から食べているがその量が十分ではない

  • 口から食べているが望むべき食形態ではない

  • 口から食べているが美味しく感じない(美味しくない)

  • 口から食べているが食事時間が明らかに長い

  • 口から食べているがむせがひどい

  • 食事を楽しめていない

  • 本人が口から食べる意欲があり、家族が食べてもらいたいと思っている

  • 口から食べている、代替栄養に限らず栄養状態が悪い

  • 意図的でない体重減少がある

 これらの条件の1つ以上当てはまれば食支援の対象となる。一方、対象ではない、もしくは対象として難しい条件を考えてみる。

  • 食べる意欲がない

  • 家族が食べさせようとしていない

  • 本人、家族は望まないが他者が食べさせようと思っている

  • 本人が食べられるようになると思っていない

  • リスクを受け入れない本人または家族

 本人が望まないことをするのは支援ではない。本人に食べる意欲がないのに食支援はできないが、なぜ本人に食べる意欲がないのかは確認しなければならない。例えば、医師に「口から食べたら死にます」と告げられたために食べることを諦めた人もいたし、嚥下食を食べたが、あまりにも不味くて食べる意欲がなくなった人もいた。このように、改善できる可能性があるのに食支援を受けられずに終わっているケースも多くある。
 また、重要なのは本人と家族の意向だ。本人は食べる意欲も、食支援を受ける気もあるが、家族が否定的であったり、逆に家族は食べてもらいたいと思っているが本人は意欲がないケースもある。このようなケースでは介入することも成果を出すことも難しい。
 以前、本人から口から食べたいという希望を聞いて、ケアマネジャーが私に訪問依頼していただいたことがある。家族は「食べると死ぬ」と思っており、完全禁飲食となっていた。結局私は初回訪問でお話を聞いて終了。ちなみに本人は家族に隠れて水やジュースを飲んでおり、食支援ができれば十分な成果が出せたと思う。
 そして難しいのはリスクの捉え方だ。これは価値観なので良い、悪いではないが、人によって大きく異なる。私自身は、何かのチャレンジをすれば大なり小なりリスクは有るだろうと考える人間だが、人によっては少しでもリスクが有るのなら絶対やらないと考える人もいる。しかも、医師からリスクの話などされていればなおさらだ。家族がそう思うのならば介入できないが、「リスクはそんなに大きくないし、やれば大きな成果が出るだろう」というケースでも食支援に至らなかったケースはいくつもある。

 このように考えると、食支援の対象者は目に見えているものよりも多いと考えられる。潜在的な食支援対象者だ。せめて食支援を受けられるようになるためには、食べることの意義と、リスクに対する正しい理解を社会に広めなければならないだろう。

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