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【極・短編小説】アングリーハングリー

【腹減り男】
僕は機嫌が悪い。
時計を見ると18:00を過ぎている。
朝から何も口にしていない。
この苛立ちは腹が減っているせいだろう。
忙しいはずではなかったのだが、なんやかんやと作業をしていたら食事を摂る暇がなくこの様に時間が経過してしまった。

【悪質営業マン】
俺は今日も朝から絶好調!!
行く先々で契約をとれている。
今月も成績はNo.1で間違いないだろう。
俺はこの仕事が天職だと信じている。
玄関のピンポンを鳴らし家に上がり込むことさえ出来ればあとは簡単だ。
時間をかけてゆっくりと相手を説き伏せて契約へと導く。
俺には相手の心の弱さに付け込む能力がある。
相手の気の弱さだったり人の良さだったり、もっともそいつ自身の頭の悪さにつけ込むのだ。
おかげで年収は1000万円を超えた。
ありがたい話だ。
人を騙して食う飯は美味いか?と言われたこともあるが……。
もちろん美味いに決まってる。
馬鹿なやつに似合うバカな商品を俺がアテンドしてるだけで何も悪くないだろう?
さあ今日は最後にもう一軒、呼び鈴を鳴らすとするか。

【古びた一軒屋】
古びた一軒屋であるが、それがいい。
金がなく追い込まれているやつ程、儲け話に乗ってくる。
目先の儲け話にしか目が行かず裏も取ろうとしない。
良く言えば純粋で、悪く言えば馬鹿だ。
俺に言わせると頭が悪い事は罪だ。
つまり騙す俺は悪くない。
騙されるやつこそが悪いのだ。

【作業の中断】
ビィーーッ、ビィーーッ!!
耳障りなブザー音が鳴り響く。

「クソッ!!誰だっ!!」

僕は朝から何も食べていないことに加え終わらない作業、そしてそれを邪魔するブザー音に苛立つ。
僕は乱暴に手袋を外し床へと叩きつけた。
そしてイライラしながらも玄関へと向かった。
苛つく気持ちを抑え、玄関の扉を開ける。
扉を開けるとスーツ姿の男がニコニコと笑顔で立っていた。

「どうも私、○☓△っ〜…の者で不動産の……で伺いました。お話宜しいでしょうか?」

ん?よく聞き取れなかったが不動産?
以前、台所の修理を頼んでいた件か?

「早速ですが、中に入ってお話しても宜しいでしょうか?」

「えっ、ああ……」

僕の返事も曖昧なまま男はづかづかと玄関の中へと入って来た。

【カモを見つけたと喜ぶ営業マン】
クククッ、見るからに気の弱そうな男だ。
これなら契約までそう時間もかかるまい。

【カモを料理する男】
僕はしつこい奴が嫌いだ。
何度も説明したのに理解せず自分の理屈ばかりを押し付けてくる。
僕は必要ないと言ってたのに。
いくら話をしても契約しろと拉致があかない。
おかげで仕事が増えた……。



あれ?ここはどこだ?
俺は馬鹿な男に説明を繰り返してたはず……。

「あっ?目覚めました?しつこかったのであなたも処理することにしました」

えっ?あっ?コイツは何を言って……。
ッ痛っ!!
目が覚める意識がはっきりしていく内に腕に痛みを感じる。
腕の方に目をやる。
俺の!俺の腕がない!?
肩から下、両腕ともに切り取られている。
がっ!!あっ!!
とたんにとんでもない痛みを感じる。
しかし声が出ない。

「あーー。うるさいと嫌なんで舌と声帯も処置しましたので」

「本当、人間って色々ですよね。
賢い人もいればあなたのように物わかりの悪いバカもいる。
でも僕は助かりますけどね。
そんなバカから近づいてくれて、これで、またしばらく狩りをしなくてもすむんだから」

男はそう言うとナイフを手に取り俺の眼球へと刺し……。

【食卓】
男は一人食卓に着く。
テーブルの上には皿が置かれ、捌かれたばかりの肉が美しく盛り付けられていた。

男は椅子に座るとナイフとフォークを手に静かに肉を口へと運んだ。
肉の旨味に思わず笑みが溢れる。
男は空腹で苛立つ心がスッと消えていくのを感じた。

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