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医師のキャリアアップを考える:番外編・大学院進学について
医師の中で大学院に進学し、博士号を取得する人はどのくらいいるでしょうか。
少し古いデータにはなりますが、50歳以上の医師で医学博士号(以降、学位)を取得しているのは約6割という報告があります(現在は少し減っているかもしれません)。
一方で医師のうち3割は学位取得にまったく興味がないという調査結果もあります。
ちなみに私は学位を取得しておりません。
大学院進学の方法と進学経緯
医局において教授もしくは指導医から大学院進学を勧められるケース、自分の意志で大学院を選択し進学するースなど様々だと思います。
学位を取得する方法として最も一般的なものは医学博士号取得コースを有する大学院進学です。また大学院に進学せず論文の審査を受けて取得するパターンや、働きながら研究を続ける社会大学院という制度が大学によってはあるようですが、最近でも通常の大学院進学が王道のパターンのようです。
一般的な大学院進学の場合、6年間の医学部を卒業し、初期研修の2年間を終え、専門医取得に最低3年、その後に大学院に進学する頃には多くの人が30歳を超えていると思います。
中には既に家庭を持ち、医師としての収入が世帯収入のほとんどであることもあるでしょう。その中で再度学生の身分となり、研究を行いながら生活費としてアルバイトや当直業務を行うことは大変なことだと思います。
大学院進学・学位取得の意義
目的も動機も多様ななかで、医師にとっての大学院進学・学位取得にはどのような意義があるのでしょうか。
まず、医師にとっての学位取得は臨床医として診療を行っていくことに対しては直接的なメリットはありません。学位を持っていても給与が増えるわけではありませんし、学位の有無で業務の違いがあるわけではありません。
なぜ学位取得を目指すのか?
学位が必須なキャリアがあることは一つ理由として挙げられます。
まずは大学医局(この場合は大学病院としてではなく、大学組織としての講座)に残り、大学教員として肩書きを得るためには必須となります。
大学の医局は教授をピラミッドの頂点として、准教授・講師・助教といった職階があり、どの大学でも講師以上のポストを得るには学位は必須と思われます。
つまり、教授になるためには博士号がなければいけないわけです。
ただほとんどの人は教授になろうと思っているわけではないでしょうし、なろうと思ってなれるわけではありません。
次に学位が必要なケースは、大学医局が握っている関連病院の主要ポスト(○○科部長など)につくのに必要な場合です。これには大学医局で出世レースからこぼれたスタッフの天下り先としての役割もありますが、医局に貢献したからこのくらいのポストに就けてあげますよ、といった後付けの理由になるのかもしれません。
それ以外では、海外への留学に学位取得を医局が課しているケースや、研究職に軸足を置いている人が学会活動を続けるのにあたり必要に応じて取得するケースもあるかと思います。
一般臨床医が学位取得するメリットは
ほとんどの臨床医には学位取得は大きなメリットを見いだせないのが現状です。私より上の世代では、大学医局に籍を置き、大学院で研究をして論文を書き、学位を取得して一定期間大学で勤務した後に開業をする、というキャリアパターンがありました。
クリニックの待合室に堂々と【学位記】と記された証書が額に入れられて飾られているのを目にしたことが何度かありますが、最近の新しいクリニックではほとんどみることはありません。
病院勤務医であっても、前述の一部の基幹病院の主要ポストに就く場合を除いて、学位を持っていることで入職時や昇進時に優遇されるようなことはありません。
大学院へ進学した人の話
学位を取得した友人に聞くと、
「臨床から離れて一定期間研究をすることで論理的思考が出来るようになった」
「これまで1-2年ごとの転勤がつらかったので、4年ずっと大学にいられたのはよかった」
という感想を聞きましたが、実際は研究にどっぷりと浸かることができるのは後半の1-2年だけで、それ以外の期間は臨床と研究(+学会活動)に忙殺され、プライベートの時間もままならないといった悲鳴や愚痴をよく聞きました。
生活のために週末の当直バイトはほぼ必須、平日は日中の診療終了後から研究を始めて終わるのは深夜といった具合。
その上、研究の成果が出ずに論文が仕上がらないと学位は当然取れずに留年になります。
そこまでして学位取る意味ある?
と横目で大学院生の日常をみながら私は思っていました。
ただ大学院生ではない私も大学病院勤務時代は臨床と学会活動と当直バイトに明け暮れていたことに変わりはなく、忙しい日々のわりにつらいことの多い毎日だった気もします。
給与面では大学院生とそうでない自分はどっちがよかったのか?
当時も今も全く分かりません(大学病院の本給自体が薄給だったことはたしかです(泣)
結論としては、
「大学院で自分がやりたい研究内容や方針が明確で、学位取得後の方向性が定まっている人以外に学位取得を勧めない」
ということでしょうか。
特に大学の教員を目指していない臨床医指向の方、将来開業を目指している方はお勧めできないと思われます。
あくまでも個人的な意見ではありますので、ご参考までに。