見出し画像

医師解説!知能は遺伝が8割というウワサは本当か?

頭の良さは遺伝する?

東大医学部を卒業して医師として働いていると、学生時代から現在に至るまで、「両親も東大卒ですか?」「身内も医者が多いんですか?」と聞かれることがしばしばありました。また、私の娘の知育の成果が表れ始めると、「ママに似て頭がいいのね!」と言われることも増えました。こうした質問や反応の背後には、頭の良さは遺伝するというウワサや思い込みが根強く存在していると感じます。

では、果たしてこのウワサは本当なのでしょうか?もし知能が遺伝子の良しあしによって大部分が決まってしまうのであれば、知育のような後天的な取り組みはあまり意味がないものなのでしょうか?


ウワサの出所

遺伝 > 環境 ?

知能指数(IQ)は遺伝によって80%決まる」という説を耳にしたことがある方もいるかもしれません。このウワサの出所の一つとして有名なのが、1960年代にアーサー・ジェンセンという心理学者が行った一卵性双生児を対象とした研究 (Jensen, A. R., 1968, 1969 a) です。この研究結果は、その解釈の正当性や、倫理的な問題もあって当時大きな議論を巻き起こし、現在でも知能と遺伝の相関性に関する議論の土台となっています。

また、この遺伝と環境の影響はあくまで集団に対して行われた研究が多く、個々人にそのまま当てはまるとは限りません。すなわち、遺伝が知能の80%を決定するというのは、少し大袈裟かもしれないのです。

遺伝 < 環境 !

その後の1970年代以降の研究では、環境要因の重要性が強調されるようになり、知能は50%程度が遺伝、残りの半分は環境要因であるとする説が有力となっています。このことから、遺伝が知能に与える影響は確かに存在しますが、それだけでは決定的な要因にはなり得ないことがわかります。

行動遺伝学の研究を進めた著名な心理学者、ロバート・プラミンの研究 (Plomin et al., 1997) では、知能の遺伝率は成長とともに増加 (50%〜80%) する傾向にあるが、特に幼少期においては環境要因の影響が大きいことが示されています。つまり、知育を通じて幼少期に思考力を鍛えるような経験は、その後の知能の発達にも良い影響を与える可能性が高いと言えるのです。


賢さとは何か

話を戻して、自身の経験を振り返ってみます。私は東大医学部出身ですが、実のところは両親は東大卒でも医者でもありません。親族に範囲を広げても、難関大学出身者はほとんどいません。私がこのような経歴となったのは、学問を重視する家庭環境が大きかったと思います。

賢さ≠学力

いろいろな出会いの中で実感していることですが、「賢い」ということが必ずしも「高学歴」と結びつくとは私は考えていません。親が難関大学卒でも、必ずしも子供が同じ道をたどるわけではありませんし、その逆もまた然りです。仮に学力の8割を遺伝が決定するとしても、少なくとも残りの2割は環境や努力によって変えることができるということです。

そして、真の賢さとは学力などではなく、自分の好きなこと得意なことを知っていて、それを活かして道を切り拓く力があること、そしてその結果、自信に満ち溢れた人生を愉しめる能力だと考えます。現代日本社会では子どもの幸福度や自己肯定感の低さが問題になっていますが、これは、「東大にあらずんば人にあらず」という極論に代表されるような学歴至上主義のなれの果てではないでしょうか。この現代をうまく生きぬき、幸福な人生を楽しめてこそ、真に「賢い」知性を持っているといえます。学力や知能はこれらを支えるための手段となるでしょう。


可能性は無限大

知育のすすめ

このように、真の賢さは知能指数では測れません。子どもの成長は、生まれてから大人になるまでの過程でどのような体験をするかによって、いくらでも変化できます。とりわけ、幼少期にどれだけ良い環境を与えられるかは親の影響が大きく、その後の伸びしろを決定づけます。

医学的には、脳の発達は3歳までに約80%、6歳までに約90%が完成すると言われています。この「ゴールデンタイム」にあらゆる経験をさせ、多くの選択肢を提供し、興味や得意分野を引き出すかが、親の役割として非常に重要であり、これが私の考える「知育」の本質です。

子どもが自分の頭で考えて行動し、様々なことに挑戦することで、副次的に知能指数も向上しますし、学習の意義を理解することで学力も自然と向上するでしょう。知育は親が子どもに何かを強制するものではありません。子どもの無限の可能性を引き出すための手段が「知育」であり、決してその可能性を狭めてしまうようなことがないように気を付けたいですね。


賢い子を育てよう

知育の目的は、子どもが自分らしく、幸福な人生を歩むために親がサポートすることです。親として知育に取り組む際、子どもの能力を最大限に引き出し、可能性を広げることを意識しましょう。そして、何よりも重要なのは、親が子どもの成長と可能性を信じることです。

学力の向上は、人生の選択肢を広げるための一つの要素に過ぎません。難関大学に入学し、有名企業に就職するのは確かに素晴らしいことです。しかしそれだけではなく、その先に自分の夢や目標を持ち、それに向かっていきいきと輝く人生になるように伴走してあげることが、親としての役割であると考えます。

知育に取り組んでいると、周囲の子たちと比較したり、ネットの情報や発達基準にとらわれて焦ることもあるでしょう。私自身、娘が他の子と比べて何かができないときに、イライラしてしまうことも時折あります。しかし、そんなときこそ「何のために知育をしているのか」を自問自答し、目的を見失わないようにすることが大切です。

今回みてきたように、確かに知能には遺伝の要素が影響するかもしれません。しかし、子どもの無限の可能性を信じ、時には立ち止まって成長を待ちながら、焦らず着実に知育の取り組みを継続していきたいですね。子どもの未来を応援しながら、ぜひ賢い子を育てましょう!

では!あゆより「医師解説!知能は遺伝が8割というウワサは本当か?」をお届けしました。「スキ」していただけたら励みになります!最後までお読みいただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?