”Tough Tech Summit" ーMITディープテックカンファレンスの学びと日本への示唆
先日ボストンでThe EngineというMIT発のディープテックアクセラレーター/VCが主催するカンファレンスに参加してきました。VCとして初ボストン&初ディープテック特化カンファレンス、とても面白かったです!!The Engineの方からは日本VC/企業初参加者と伺ったので(本当かわかりませんがw)、日本エコシステムに微力でも参考になることがあればと想い、記憶が新しいうちに感じたことをまとめたいと思います。
The EngineとTough Tech Summitとは?
The Engineは2016年にMIT発技術の商業化を推進するために設立されたディープテックアクセラ/VCで、行政・アカデミア・VC・企業等様々なプレイヤーを巻き込んだエコシステムを構築しています。現状支援領域としては50%ライフサイエンス、20%クライメートテック・エネルギー、20%がAI・ロボティクス等といった内訳です。VCのファンド期間は17年、ファンド規模はPitchbookによると$200M程とのこと。アクセラとVCは独立して運営しており、アクセラに採択された100社がMIT内の施設に入居しているうち、20社程度が投資も受けているとのこと。
VC現地でも色々な方にお伺いしたところ、ボストンエコシステム内での認知度はそれなりに高く、全国的にも”ディープテックといえば”というポジションとのことです。
今回参加したTouch Tech Summit 2024は、Engineが主催する今年で4回目、800名規模の招待制ディープテックカンファレンスです。Tough TechはThe Engine独自のディープテックの呼び方で、ディープテックはサイエンス、社会実装、必要な資本、すべてが複雑で大変=”tough”なので納得のネーミングです。“8 years ago(=Engine設立時), everyone thought tough tech fund was just impact fund”とパネルで議論されており、大学発ディープテックスタートアップの環境はアメリカでも比較的新しいのかと正直驚きつつ、8年でこんな盛り上がるエコシステムが出来るのかと感銘を受けました。やっとbest practiceも一周してきたよねというような論調でした。
詳細アジェンダが気になる方はぜひこちらからご覧ください→
https://www.toughtechsummit.com/
★ディープテックスタートアップの方が読んでくださっていたら:
Blueprintという5週間のアクセラプログラムを提供しているとのことで、もしご関心ある方はホームページを見てみてください。基本はUSの会社が対象と明記してありましたが、その他の事例についてはメールで個別相談してねと書いてあるので、もし参加にご関心があればご相談ください。日本のエコシステムとも連携する機会を作れたらなと個人的にも思っているので、可能な範囲でチームにお繋ぎしたり出来ます!
大きい絵を描き大きく投資し大きく産業を変える
改めて、すべてのステークホルダーの目線から見て、日米で議論のスケールの大きさには差を感じました。久しぶりのアメリカで目線を思い出せてよかったです。地球全体/世界が直面する課題を解決し未来の産業構造を根本的に変えるようなスタートアップをどう作るか、投資できるか、支援していくべきか、どうすれば未来が実現可能になるのかという論調が中心で、業界を変えるんだ!!という気概を強く感じました。ヘルスケア・ライフサイエンスの産業を変えるぞ!という想いでVCになった私にとっては、気持ちを強く持ち続けようと初心に返ることができたのも、ありがたい機会でした。
20社ほどのピッチも聞きましたが、シードからチェックサイズが$10M等大きく、どうせ当たれば大きいし当たらなければ失敗という世界なのであれば、大きく構えて投資ししてトップ人材を雇って質高くスピーディーに開発を進める重要性を感じます。エコシステムが違うとはいえ、国内でもより大きく難しい課題を大きく解決しようとするスタートアップが描く未来にもっと大きくベットするためにはVCとして具体的にどうすればよいか、日々考え続けたいです。議論したい方、ぜひご連絡ください!
市場と研究の適切なマッチング×マイルストーン設計
起業家も投資家もが大きく張ってリスクを取るために、一方では大きな夢物語を描きつつもう片方でら現実的でシビアに考えている一面も強く感じました。
中でも最もシビアに評価されるのは市場と研究のマッチング。“You cant run into an undergrad at MIT speaking about a company they want to build”と MIT学長Sally Kornbluth氏が講演中におっしゃってい他のが良い例です。MITでは学部生ですらみんながどんな会社を作りたいかを常に念頭に置きながら研究をしているとのこと=社会実装・会社が成立するためのビジネスモデルも早くから想定している。
鶏⇔卵ではありますが、目の前の研究がどんな課題解決に使えるのか考えて創業するより、市場・課題を一定見据えて研究を進めたり、場合によっては特定の課題をベースに創業しそれを解決する最適シーズを時には複数選択して組み合わせて社会実装していく、といった思考プロセスの重要性を改めて感じます。(複数のシーズを組み合わせるケースの例として、直近ではライフサイエンスでity Therapeutics等の例が最近出てきていますよね)
この際大きくバットを振るには当然市場が大きくある必要もあるのですが、特に今後市場を作っていく場合は変革のステップや巻き込むステークホルダーの理解等、解像度高い市場変化仮説が強く求められていたのも印象的でした。
もう一点は適切なマイルストーン設計。Capital-intensiveなディープテック領域だからこそ、資金調達の階段を上っていくためのマイルストーン設計は必須です。サイエンスリスクを軽減する間はバーンを最低限にすることが何度も強調されていたのが印象的でした。
闇雲に大きい市場に張ったりなんとなく有名なシーズに投資するのではなく、ここまでしっかり設計・仮説を立てるからこそ、大きくリスクを取ることが出来るのだと具体例から感じることができたのは大きな収穫でした。
国の強みは敵同士も産業のために集められること
今回登壇者の中には州政府リーダー・国政の政策アドバイザー等もおり、USエコシステムの中での行政の役割についても改めて理解が深まりました。そしてなによりも、官民の人材の行き来が盛んなのが本当にう羨ましいと感じました。官の人材も投資やスタートアップの仕事をしたことがあったり、研究者としての実績があったり。(逆にEngineのVCには政策アドバイザーをしてきた方がいらしたりします。)エコシステムが必要としている支援への解像度が相当高く、税金のROIを高めながら国の産業として育てるぞという強い覚悟を感じました。日本も官民の人材交流をもっと活性化させるべきと強く強く思いました。
特に印象的だったのは上記にコメントを引用もしているYvonne Hao氏。マッキンゼー→Bain Capital→Pill Packというデジタル薬局スタートアップに参画しAmazonへの売却を先導という経歴の方で、お話全部が業界への優しさにあふれつつキレキレでかっこよかったです。政府だから"敵"同士を同じ部屋に集めて"Team Massachusetts"として一丸になれるというお話や、州政府主導で立ち上げたKendall Square(ボストンの有名なバイオテックエコシステム)をほかのディープテック領域にも横展開していきたいお話などが大変参考になりました。
下記写真の通り、初Kendall Squareで結構テンション上がりました🤩
人材と資本の流動性をもっと上げたい
ディープテックは本当にあらゆるステークホルダーと知見が求められtoughな領域だからこそ、フェーズによって活躍できるプレイヤーが異なるという当たり前の事実をもっと受け入れるべきだと改めて感じました。
まずは人材について。もしかすると本カンファレンスで最も印象的だったこととして、CEO交代が大きなテーマとしてメインステージで当たり前のように議論されていたことです。フェーズが変われば会社が必要とする人材も変わってくる。創業チームの功績をさらに成長させていくための組織変革過程はハードシングス(特にハードな会話)も多いですが、VCとしてもどう支援していくか、考えさせられました。
マネジメントチェンジのほかには、アカデミア・スタートアップ・VC・行政を行き来する人の多いこと・・・!日米で人材の層の厚さの差が大きすぎるというのはすぐに解決することでもないので嘆いてもしょうがないのですが、厚さのカギとなる高い人材流動性は日本でももっともっと強力に後押ししたいです(という想いもあってユートラストさんに投資させていただいたり・・・)
資本面でもフェーズに合った投資家間のバトンタッチが増えると良いなと思います。創業期は政府・大学の助成金やシードファンド→一定の投資期間を経たらM&A、セカンダリー、リストラクチャリング等。Toughな課題の解決を推進するからこそスタートアップ同士のM&Aや、複数シーズを組み合わせた創業など、より自由な設計が増え、多様な選択肢が支援される環境になるとよいなと思います。
まとめ:大きな絵を描くマインド×人材流動性
最後に・・・やっぱり日本でももっと大きな絵を描くマインドを増やしたい、人材流動性を高めたいというありきたりなことを改めて感じるカンファレンスでした。ディープテック領域に限らずスタートアップエコシステム全体としての課題ともいえますが、より変化のスピードを加速させるために個人として出来ることも日々の活動の中で意識していきたいと思います。
また、女性が多いのが素晴らしかったです!!参加者も体感3割、登壇者も全員女性のパネルもいくつかあり、皆さんお話もかっこよく、日本にもこんなにたくさん仲間・ロールモデルがいたらもっと励まされるな、、、と思いました(下ツイート)。個人的にはJHIHを起点として、ライフサイエンス領域の女性リーダーコミュニティを動かかそうかなと思っているので、ぜひご関心ある方は連絡ください!
最後まで書いてみて、ディープテック領域で活動される方にとっては聞いたことあるような論点ばかりになってしまってつまらないかもしれないなと思いつつ、せっかく書いたので公開します(笑) とはいえ、久しぶりのアメリカで改めてスケールの差を体感することで喝を入れられたのが個人的には非常に良かったです。これからも業界を前進させられるよう頑張りましょう🔥
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