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没噴射小説詰め合わせセット v2024

こちらは逆噴射小説大賞の没作品群となります。
お手すきの方はぜひ。



亡国の星条旗

 燃え立ったキノコ雲を中心に広がる爆風が、万物を薙ぎ払った。
 サウスダコタ州ラシュモア山。五人の大統領の巨像が、眼前に連なるキノコ雲の群れを見下ろしている。
 その頭上に、巨鳥の如き翼を広げた巨人──白堊館󠄁ホワイトハウスが降り立とうとしていた。

「クソ!」
 白堊館󠄁の執務室コクピットに座すエデンは悪態を吐いた。そして滑る操縦桿を離し、手甲で額の汗を拭う。
 全てがクソだ。このクソ操縦しづらいクソ白堊館󠄁の設計者も。クソ役立たずの国軍も。クソ消失した首都も。クソ虐殺された市民も。そしてクソ悪辣なるクソ侵略者どもも。
 だが諦めるわけにはいかない。かつて先住民から強奪した偉大な土地を、異邦人に渡すわけにはいかないのだ。
 なぜなら彼は、合衆国大統領プレジデントなのだから。
 ラシュモア山に着地した白堊館󠄁は、その五指を合金の像の頭蓋に押し当てる。禁が解かれる音と共に、表面に走った亀裂から粉塵を上げ、ポートが開かれた。
 白堊館はそこに下肢を差し込み、ラシュモア山と接続した。

 間を置かず、彼方の空に無数の光点が瞬く。
 敵である。

「来たか!」
 エデンはその蒼の双眸で、白堊館めがけて飛翔する倭人の有人搭乗式反陽子ミサイルを、モニター越しに睥睨した。
 そして十字を切り、飽くほど繰った聖書の一節──合衆国最終決戦大量破壊殺戮兵器〈ラシュモア山〉の起動コードを呟いた。

『視よ、白き馬あり、之に乘りたまふ者は「忠實また眞」と稱へられ、義をもて審きかつ戰ひたまふ』

 山を震わせる国歌が一帯に轟きはじめる。
 激烈な地響きと共に、十の腕が地中から土砂を押し除け、天高く伸び上がった。
 ラシュモア山の十のまなこが煌めく。
 起動完了──。
 結ばれた口々が解かれ、喉奥から三重螺旋砲身が伸張する。
 のたくる紫電が吹き出し、蛇の如く砲身を取り巻いた。
 そして──閃光。

 放たれた赤青白トリコロールの光条が、空を薙いだ。

つづく

没理由:
何も書いてないのと一緒。



シスターフッド

 瑠衣はアホだ。
 それは小学二年生の時に配布された新品教科書の文字を全てマジックペンで塗りつぶし、
「見て見て月光げっこう。墨塗り教科書〜」
 とわたしに教科書としての機能を喪失したケツすら拭けない紙ゴミを見せつけて憚らぬくらいのアホだ。
 算術のテストで100点満点中-20点を取ったこともあるし、徒歩二分の通学路で迷子になって警察に保護されたこともあるし、食事の時に空腹のあまりスプーンごと飯を飲み込んで救急搬送されたこともある。
 何が悲しくてこんなのと幼なじみをやらにゃいかんのか甚だ遺憾いかんだったが、同じ病院に三日差で生を亨け、実家も二軒しか離れていないとあらば一心同体、腐れ縁で結ばれるのも宜なるかなと半ば諦観していた。
 昨日も公園で鳩に餌を与えていたと思いきや、いつの間にか一緒に空を飛んでいた。
 そう、鳥の如く自由気ままに宙を飛び回っていたのである。色々と観念していたが、流石にこれは常軌を逸している。私の制止にも耳を貸さぬ。
 このままだと死にかねなかったため、公園近くのマンションから中空の瑠衣に決死のダイブで飛び移り、地上に引きずり下ろして事なきを得た。
 わたしは着地した際の衝撃で足を挫いたが、そんなことはどうでもよい。
「お前死んだらどうすんだこのアホ!」
 瑠衣にビンタを食らわせた。自分でも疲れていたと思う。
「ふえ?」
 引っぱたかれた瑠衣はアホゆえに何故はたかれたか理解できずギャンギャン泣きわめき、その後泣き止ませるのに30分は要した。
 この噂はねじ曲がってこの町中に広まった。足を引きずって帰宅する頃には、わたしが瑠衣をマンションから突き落としてビンタを食らわせたことになっており、話を聞いて待ち構えていた両親は「殺人を企てるようなガキに育てた覚えはない」とキレて殴りかかってきた。
「うるせー!」
 両親にカウンターをキメてシバいたわたしは、窓をぶち破って家出を開始した。
 向かう先は瑠衣の家だ。

つづく

没理由:
完全にノリだけで書かれている。



陽炎の都市

 人工太陽による朝焼けが、惑星級構造物の天蓋に覆われた〈都市〉を照らし出していた。
 ぼくはその中でも一際高い楼閣ビルの屋上に、片膝を立てて腰かけていた。
 吹き荒ぶ風は寒く、飛ばされそうなほどに強い。でもぼくにとっては低次な瑣末事に過ぎなかった。煮え滾る憎悪の意志が、ぼくをあらゆる苦痛から隔絶していた。
 〈都市〉はまだ寝静まっている。
 それがこの後阿鼻叫喚と化すことを、ぼくだけが知っていた。

 ──滅ぼせ。

 ふと、あの世に消えた“彼女”の言葉が蘇る。
 言われなくとも。
 ぼくは屋上の淵に足をかけて立ち上がり、眼下を睥睨する。
 そしてそこから身を投げた。

 落下のさなか、ぼくの身体が頭頂から八重螺旋状にほどけていく。まるでぼくという糸で縒り合された紐が解けるように。
 その糸はぼくの頭上に伸び、空高くで新たな身体を織り始めていた。ぼくの身体が3次元的には失われていくのと対照に、虚像が頭頂から順に形成されていく。周囲の楼閣を遥かに凌駕する大きさだ。
 陽炎相に質量──加速進化症候群A.E.Sを発症しているぼくの肉体──を与えることで、そこに蔵された虚像と兌換し、現世に引き出しているのだった。
 それはやがて、山の如き威容を放つ巨人を召喚した。

 一連の経過の後、〈都市〉がぼくを検知したのを感じた。
 直後、機械仕掛けの空から、漁火の如き光の柱が降り注いだ。形成された光の円筒が、ぼくの身体を囲繞しようと試みる。
 ぼくは嘲笑した。こんなもので止められるわけがない。
 ぼくは巨腕を振るった。そこで生じた凄まじい風圧に、全身の表皮から分泌した玉蟲色に輝く鱗粉を乗せ、柱に放った。
 鱗粉を受けた柱は力場を失って収束を解き、光速の砲弾となって散乱した。それは周囲の楼閣を破壊し、瓦礫に変じさせた。
 多分、今ので500人くらい殺した。
 でもまだ足りない。あの世から──陽炎相から彼女を取り戻すには、この星を浚うくらいの死と質量を要した。

つづく

没理由:
今となってはこっちを投稿した方が良かった気もする。



RED BAND

 鎧扞鬼パワーアーマー=赤1號、跳躍──斜陽館五階の窓を突き破る/中に滑り込む。
 内部──複数の無政府主義者テロリスト達=電磁軌条銃を携行/人質一名。
 いずれも困惑の面持ち。
「なん…」
 赤1號、発声=ぐぐもった電子音声。
《成敗!》
 赤1號、疾走=電子加速──室内を刹那の内に滑走/縦横無尽=足裏の管足による流水の如き移動/首元の赤い襟巻きレッドバンドが翻る──無政府主義者を殺戮=頭蓋を粉砕成敗!四肢を破砕成敗!臓器を爆砕成敗!──床面が血の海と化す。
 赤1號、停止──赤熱した背面装甲を開放──電子加速で生じた熱を放射=排熱。
 青白い光条──赤1號の頭部に飛翔する──被弾=弾ける火花/激しい金属音──無傷──弾は跳弾/明後日の方へ。
 赤1號、発射元に視線を向ける──一人の無政府主義者と人質=モダンガール。
 無政府主義者が震え声で怒鳴る。
「動くんじゃねぇ!さもな──」
《成敗!》
 赤1號、疾走=韋駄天の如き速度──眼前の二人を通過・・──敵と人質、肩から下を喪失=死亡──停止──装甲表面に付着した全血液が飛ぶ=慣性──壁面に描き出される、機体の歪な輪郭。
「ひでえな。これが民間憲兵PMP様のやり方ってか?」
 聞き慣れぬ声≠聞き慣れた声──視線を射向ける──一人の女=黒のハット/外套トンビコート──片膝を立て、窓枠に座っている──何者?≠知己。
 女の笑み。
「なあ、兄さん?」
 驚愕──赤1號内部=着装者・・・の感情が揺らぐ。
 が。
 赤1號は製造&運用元=新興財閥〈爆天〉からの下達に憑依される──着装者の意識を深層に幽閉。
 赤1號、籠手ガントレットを新手に射向ける──手甲部が変形=無数に装填された極小の手裏剣が露出。
《成敗!》
 手裏剣を射出。
 が。
 女は左腕を翳す──黒装を突き破って現れる異形の橈骨=刀の如く研ぎ澄まされている──隈なく叩き落される手裏剣。

つづく

没理由:
電文体?ってのをやってみたかったが、いまいちルールがわからず没。



剣客転校生

 斬撃は、二年一組の担任教師の前に鎮座する教卓を真っ二つにし、その背後の黒板を両断して霧散した。
 教室中で悲鳴。
「こんなものか……」
 そこで逸器いつきは溜息を吐いた。
 細身だが強靭な肉体、成長曲線からみて高めの身長、そして世にも珍しい美貌が光る。その手に握られた魔刀が異様な存在感を放った。
 雑魚どもが──逸器は落胆していた。
「まったく、センセイも何を思って俺をこんな軟弱共の巣窟に送り込んだのだか」
 虫ケラに向ける目で失神した教師を見る。
 刃物を持参して登校した逸器に暴行で制裁を加えようとしたこの教師は、断たれた教卓と黒板の間に位置していたにもかかわらず無傷だった。
 これこそが延刀流の奥義にして刀剣武術の至高である。
 わずか七つにして剣士の頂きに行き着いてしまった彼が、刃を通してしか人と交わることを知らぬ彼が、生への渇望を刃に乗せ、自らの命を賭けて打ち合うことを知らぬ連中に失望するのも是非ないことである。
 もうここに用はない。逸器は教室の入り口に向かった。弱い奴らと絡んで生きていくつもりは毛頭なかった。
 その時、
「遅刻っす」
 すでに声変わりを終えた声で、戸を引き開ける少年。
「おぉん?」
 教室の異様に、少年の目が細められた。
 全身の筋が強く引き締まり、鋼を形成しているかのようだった。身長は逸器より遥かに高く、紫に染色された前髪から覗く青と灰の虹彩が、涼んでいる獣を想起させた。
 そいつを見た瞬間、逸器の背筋に悪寒が走った。
 何だこいつは。
 彼の思考が脳裏を走るより早く、背中の柄に手が伸びていた。
 制動の暇はなかった。
 危機を察知したのだろうか、少年は大喝した。
「お前ら横に逃げろ!」
 それはあまりにも真に迫っていたために、教室中の児童を左右に突き動かした。
 同時に大上段に振り下ろされた魔刀の一閃が教室を両断した。風が縦に薙ぎ、亀裂から粉塵が吹き出て、逸器を中心に一つの扇を形成する。机の群が左右に吹き飛ばされた。

つづく

没理由:
ネタ被り。



姉切り

 ぼくには存在しない姉がいる。
 なんというか、ぼくは幼い頃からなんとなく「自分には姉がいそうだ」という感覚を抱いていた。
 実際学校の友人にも「姉切あねきりってなんかお姉ちゃんいそうだよな」と散々言われたものだ。実際はひとりっ子なのにもかかわらず。
 そういうことが積み重なって、どうやらこの世界と重なり合う謎のどこかにぼくの姉がいるに違いないと考えるに至った。イマジナリーフレンドのような視覚的実態は持たず、ただ概念を抜き出しただけの存在だ。
 だからぼくはそれをなんとか実体化させようとした。
 こんなのはたから見れば狂人の所業だろう。でもぼくにとって、自分の現実に姉が存在するのは確かな事実だった。
 だからぼくは人を殺すようになった。
 ……ごめん、少し端折りすぎた。
 順を追って説明すると、姉を実体化させるにはその依代となるものが必要だ。だけどぼくの考える姉を正確に体現している女性は、はっきり言って存在しなかった。当たり前だ。だからこそ存在しない姉なのだから。
 だから道行く女性で、少しでも“姉”を感じる部分を見つけたら、その人から姉の部分を拝借するようになった。
 ひとつひとつの“姉”を組み合わせていけば、いずれパズルのように姉が顕現するはずだ。
 問題は、その際に抵抗を受けるのでもっぱら殺す羽目になることだ。
 
「だから大人しくしてれば死ぬことはないよ。あと警察にも行かないと約束してくれるなら」
 そう言って俺を誘拐した男はスピーチを結んだ。
 なるほど、この女ウケしそうな涙ボクロが特徴的な美青年の行動原理はよくわかった。
 いや、全くわからねぇ。
 そもそもそれがなんで姉なんぞという概念とは程遠い齢85の貧乏ジジイをハイエースで誘拐することに繋がるのかがわからねぇ。
「ったく最近の若者はよ。いいからさっさと家に帰せよ。俺はまだまだ五体満足で長生きしてぇんだよ」
「そうはいかない。君には他の人から得難いものがある。“姉の魂”だ」

つづく

没理由:
二本投稿後に思いついたから。



履帯男

 鉄葦だって、軍事転用可能だ。
 鉄葦は農牧民である。汚染された土を耕し、双頭牛と戯れて生活している。
 今日の作業が一段落着いたところで、広角探知機に“薄肉ベーコン”の群れが引っかかった。奴らは薄肉のように薄い装甲を持つことからそう呼んでいる。ロールアウトから二百年以上経っても懲りずに畑を荒らしにやって来る。鉄葦は、これまでざっと二千以上の薄肉を駆除してきた。
 鉄葦は根城にしている超大型ランドクローラーに戻ると、自らの身体をフックで宙吊りにし、履いていたゴム履帯を外し、壁に掛けてある鉄履帯に履き替えた。起動輪に履帯の端を装着し、ガタガタと空転させて各々の動輪に巻き付け、締めにピンで固定する。
 最後に〈子供たち〉を装填した砲台を肩に担ぎ上げると、単履帯をカタカタ鳴らしながら侵入者の群れに向けて走った。履帯の左右を伸縮して身体を傾けることで、旋回が出来るのだ。
 土の上を爆走する。時速60km。
 現場に到着すると、球体の機械が土を踏み荒らしていた。球の対蹠からそれぞれ一本の手を生やしている。薄肉どもだ。これが空からデイジーカッターやクラスター爆弾をばらまく“七面鳥”などだったらもっと厄介だった。
 鉄葦は照星を薄肉どもに向け、中に装填された〈子供たち〉を叩き起す。
 〈子供たち〉は眠りから叩き起されて不満げだったが、すぐに別れを惜しんで悲しげな信号を送ってきた。鉄葦は無視して引き金を引く。
 〈子供たち〉は薄肉へとすっ飛んでいく。鉄葦の誘導に従って薄肉に着弾するとその内部を羽でズタズタに切り裂いた。
 薄肉は沈黙した。もう〈子供たち〉も信号を寄越さなかった。
 鉄葦は薄肉の中から使えそうな部品を引っこ抜いて背中の籠に放り込み、帰路を辿った。
 その道すがら、鉄葦は、路傍に転がっていた頭蓋骨を踏み砕いた拍子に、自分が人間だった頃のことを思い返していた。

つづく

没理由:
なんでこんなものを書いたのか著者を問い詰めたい。 



──以上。

つづく

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