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(没)BURN IT DOWN

『我が子威吹よ、汝を指したる凡ての預言に循ひて、我この命令を汝に委ぬ。これ汝がその預言により、信仰と善き良心とを保ちて、善き戰鬪を戰はん爲なり』
 そう水瀧楓みずたき・かえで紅威吹くれない・いぶきの耳殻に呪いを吹きかけた。
「ほらはやく」
 楓は傍らに立つ威吹の手首を掴み、その指先をビルの一つに合わせる。
 閃光がはためく。毒々しい赤紫色の花を開く大火球が眼窠の中で燃えた。生きとし生けるものを焼き払う劫火の嵐。眼前の超高層ビルの中腹が三分の一ほど、途轍もなく巨大な刃で切り取られたように瞬時に消え失せた。
 ビルの上体が宙に浮いたまま静止している様は悪夢さながらの風景だ。常時の倍ほどにも嵩が増し、膨れ上がって見える。壮大な積み石さながらに幾千万の破片と化して崩壊する直前の一瞬だ。
 壁面に走った無数の亀裂。崩壊に先んじて爆圧が襲来、激烈な爆風が荒れ狂う。付近の空間は破片が舞い飛ぶ狂乱の場と化した。
 次いで宙に投げ上げられたビルの崩壊が起こった。数十万tの質量による激動が繰り返し大地を突き上げた。
 威吹は滂沱の涙を流し、慟哭する。
 誰か俺を、俺を殺してくれ。俺を殺してこの悪夢を終わらせてくれ。
 破壊の饗宴は続いた。
 眼前の都市は威吹の指先から放たれた紅蓮の暴威によって全てが残骸と化し、物凄い黒煙と真っ赤な炎を中天高く立ち昇らせていた。
 目も眩む陽炎が、灼熱の路地に波打っている。焼けつくような炎暑の巨大廃墟には焼殺された死体が夥しく散乱し、大量殺戮の痕が早くも熱気の中で歴然と異臭を放ち始めていた。燃えて黒煙を上げ狂い回った死者たちの作り出す影が黒々とわだかまり、動かない。
 威吹は虚になった目でそれらをなぞった。

「よくできました」
 楓は──天樹に纏わりつく蛇を主体とする汎次元生物は、硬直して動かぬ威吹の両頬を手で包み込むと深く接吻した。その長い舌が威吹の唇をこじ開け、口腔と、荒廃した精神をさらに蹂躙する。

【続】

没理由:いちばん好き。だけど描写に文字を割きすぎて話があまり進んでいない。

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