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医療爆発

「マジ最悪っ!」
 リサは怒りを露わに、グレーチング張りの廊下を疾走していた。
リ…さ…
 彼女の後を追うように、巨大な何かが骨折音を鳴らしてゴロゴロと転がってくる。
 逃げ場はない。『ジェイル病院』で発生した医療分子の暴走──ナノハザードは今や病院全体に波及していた。怪物化した患者達が看護師を襲い始めて40分が経過し、病院内は完全に封鎖されている。
 だが、もうどうでもよかった。
 
 マキ。
「最新医療が売りの病院だから、給与も破格だよ?」と甘言を弄し、リサをこの地獄へ引き込んだ友人のマキ。
 彼女を、殺さねばならない。

 リサは廊下の先、目的の部屋にたどり着いた。中に患者がいたのだろう、『集中改造室』と表示された扉は既に大破していた。
 彼女は室内に飛び込み、明滅する白色照明の下、手術台や不気味な機器、沈黙するモニターを見回した。
 その下、床に広がる破片と共に、目的の品が散乱していた。
 リサはその一つを拾い上げた。医療分子を投与する注射器だ。豚骨ラーメンの如くこってりとした液体が充填されている。
 その時、
り゙…サ!
 背後で声が彼女を呼んだ。
 マキの声だ。
 リサは一瞬躊躇したが、覚悟を決めて振り返る。
 
 怪物が、そこにいた。
 
 それは無数の眼球を散りばめ、幾多の肉体を無理やり継ぎ接ぎした球状の肉塊──元患者の成れ果てだった。マキや他の看護師たちを無差別に取り込んだことで、足で自重を支え切れなくなり、全身を骨折させながら転がることで移動しているのだった。
 
 マキ。
「ずっと一緒にいたいよ」とここに誘ってくれたマキ。
 大好きだったマキ。
 もう、その心も体も完全に失われているマキ。
 注射器を握り込むリサの拳に、白い筋が浮き上がる。
 彼女を、殺さねばならない。

 迷いはなかった。リサは注射器を自分の首に突き刺し、医療分子を注入した。
 変化はすぐに訪れた。
 どくん、と胸に痛みが走る。その直後、ブレード化した肋骨が彼女の胸を突き破り、怪物に襲いかかった。

つづく

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