(没)DArkSide
パンドラによって遍く厄災が解き放たれた匣には、希望だけが遺った。
では拭えぬ闇に囚われたこの世界に遺ったものとは。
無明の闇に閉ざされ翳や陰が跳梁する末法の世にあって光を放つものに近づいてはならぬ。逢魔はそう教えられてきた。
それは人魂を薪に焚べた輝きであり、捕まれば最後、虚にされた肉体に闇を吹き込まれた幽鬼となって人を狩る末路を辿るからだ。
だが眼前のこれは違った。
何ともつかぬ奇怪な鉄塊が林立する荒廃した大地にひっそり鎮座する〈巨像〉の纏う影は、この世の何の闇よりも深く濃く、漆黒の中にあってなお強く存在感を示した。だが胸を掻きむしる威圧を持たぬ。
光が、陰鬱な凶意に満ちた叫喚が、死神の黒い羽搏きが、背後から迫る。それは逢魔を求める切実な哀愁の声だった。逢魔の魂を啜りたいという飢餓の訴えだった。
逢魔は巨像の足元に臥している。
妖を退ける聖蹟の破片は尽きた。片方の千里義眼は割れ、尸鋼の義肢はひしゃげて使い物にならぬ。
終わりか、俺は。
ならば潔く自害せねば。
この世界の死に方は二つ。聖蹟の膝元で死ぬか闇夜の中で死ぬか。
義肢の指先を己の頭蓋に押し当てる。
つまらぬ人生であった。願わくばこの呪われたる闇夜に災禍のあらんことを。そう呟き、目を閉──。
巨像が纏った影を解き放つ。箍を失った影は逢魔を巧妙に避け、巨像を中心に広がった。
逢魔は、影が擦過熱で背後の鬼燈篭どもを塵まで焼き尽くしたのを見た。あとには赤熱し朧に光る大地が残った。
影を脱ぎ捨てた巨像はその胸郭に皺を寄せ、穴を穿ち、その裡を晒した。中には一人の、赤子。
「おお…」
喜悦が胸を満たす。
これぞ天啓。
この力は闇を祓い、邪を退けることも叶うだろう。
欲しい、欲しくてたまらぬ。逢魔は巨像ににじり寄った。
時は暗黒時代。黯黝律により闇に覆われた世界。
その中心で、逢魔は強く拳を握った。
〈続〉
没理由:話が駆け足すぎる。