ジョンさんのタイプライターと古い手紙
小学6年生のマコトは、夏休みに田舎に住むおじいちゃんの家へ遊びに行きました。おじいちゃんの家は古い木造の家で、倉庫には使わなくなった道具や家具がたくさん置かれていました。
「好きなものを探してみてもいいよ。」
おじいちゃんの言葉にワクワクしながら倉庫を探検していると、マコトは埃をかぶった黒い箱を見つけました。
箱を開けてみると、中には古いタイプライターが入っていました。キーの部分はところどころ錆びていたけれど、しっかりとした作りで、どこか重厚感のある機械でした。
「これ、何?」
マコトが不思議そうに聞くと、おじいちゃんが笑いながら答えました。
「それはタイプライターだよ。昔、手紙や書類を書くのに使っていたんだ。『ジョンさん』という友だちが使っていたものを譲り受けたんだよ。」
ジョンさんというのは、おじいちゃんの若い頃の親友で、外国から日本に来ていた人でした。二人は手紙で頻繁にやりとりをしており、そのときに使われていたのがこのタイプライターだったのです。
「このタイプライターで、ジョンさんが手紙をたくさん打ってくれたんだ。文字がきれいに並んでいて、とても読みやすかったよ。」
そう語るおじいちゃんの目は、どこか懐かしそうでした。
マコトはそのタイプライターに興味を持ち、試しに触ってみることにしました。キーを押すと「カチン」という音がして、金属のアームが文字を紙に打ち付けます。その感触がなんとも不思議で、マコトは夢中になりました。
「これ、なんか面白い!普通に書くのと全然違う!」
タイプライターをカタカタと動かしながら、マコトは少しずつ使い方を覚えていきました。
翌日、マコトはおじいちゃんにお願いして、タイプライターで自分の手紙を作ることにしました。おじいちゃんが紙をセットしてくれ、マコトは「こんにちは、ぼくはマコトです」と一文字ずつ打ち始めました。
タイプするたびに響く音と、紙に残る文字の形がなんとも特別に感じられました。完成した手紙をおじいちゃんに見せると、笑顔でこう言いました。
「いいじゃないか!ジョンさんもこんなふうにタイプライターを楽しんでいたよ。」
その夜、おじいちゃんは古い手紙をマコトに見せてくれました。それはジョンさんがタイプライターで打った手紙で、英語と日本語が混ざった文字が丁寧に並んでいました。
「これがジョンさんの字か……。」
マコトはその手紙を見ながら、遠い時代のやりとりを感じました。
「タイプライターって、ただの機械じゃないんだね。書いた人の気持ちが伝わってくるみたい。」
マコトはその魅力を感じ取りました。
東京に戻ったマコトは、学校の作文にこう書きました。
「タイプライターで文字を打つと、一つ一つの言葉が特別に思えました。おじいちゃんの友だちがその機械で手紙を書いていたことを知り、昔のやりとりもとても大切だと感じました。」
それ以来、マコトは手紙を書くのが好きになり、友だちに手書きの手紙を送るようになりました。
教訓
「古い道具には、人と人をつなぐ力がある。」
この物語は、タイプライターを通じて過去の人々の思いを感じることができるという、大切な発見を教えてくれます。