仮面の告白⑤
でも逃げていた。
自分がやりたくないこと、苦手なことから。
会社の危機なんてものは存在しない。
ただ僕が煽っていただけだ。
そして僕はチームリーダーとなった。
不安はあったが、さほどではなかった。
実際にリーダーになったことはない。
でも近いことをやっていた。
表現をすることもあった。
リーダーにもなれる専門家。
僕はずいぶんと自信をもっていた。
しかしどうだろう。
うまくいかない。
というより、なんだか身が入らない。
目標を達成したから?
そうだ。
きっとそうだ。
歪んでいたとしても、初めて自分で見出した道だ。
ずいぶん時間はかかったが、満足をした。
納得?
妥協?
わからない。
わからないフリをしよう。
本当はわかっている。
だが、わかったから何になる?
無駄。
考えるだけ無駄だ。
では新しい目標を考えよう。
目標とは。
リーダーになる?
自分のリーダー像を実現する?
リーダーとして新たに実績をつくる?
何もなかった。
燃え尽きていたのだ。
そして感じた。
潮時かもしれない。
もうこの会社ではやりつくしたのだろう。
新しい場で挑戦をしよう。
僕はそう思うようになった。
新しい場とは?
挑戦とは?
そんなものはない。
逃げた。
もう何度目かわからない。
逃げた?
それは悪いことなのか?
今まではなんとか切り抜けてきた。
でも今回は違う。
気づかれてしまう。
いや、すでに気付かれている。
ねじ曲がった表現が通用しないのだ。
おかしい。
なぜだ。
実力なんて伴ってなくていいんだろ?
話が上手ければ、表現できれば、それで上にいけるんだろう?
それが社会だ!
だから僕は身に着けたんだ!
目には目を!
歯には歯を!
毒を持って毒を制す!
それが僕のやり方だ!
社会のやり方だ!
そしてここのやり方なんだろ!
間違っているはずがない!
そして僕は会社をやめた。
理由?
もちろんあるさ。
自分の目標を達成した。
新しいところで自分を試したい。
嘘。
真っ赤な嘘。
うまくいかないのは身が入らないからなんかじゃない。
実力なんてなかった。
わかっていた。
怖かった。
気づかれることが。
既に気づかれていたのかもしれない。
逃げた。
怖かった。
塗り固めた仮面がはがれ、本当の自分が現れることが。
そして僕は会社をやめた。
次の仕事は決まっていなかった。
でも心配はなかった。
僕は成長した。
武器となった数字。
裏打ちされた結果。
誰が見てもわかる。
数字の前で人は平等となる。
迎えた最終面接。
緊張はしていた。
でも自信があった。
自分には数字がついてる。
表現だって手に入れた。
仮初の表現?
わかるわけがない。
それだけが心のよりどころであった。
結果は、不合格。
なぜ?
実績は出している。
ビジョンも固まっている。
吸収する能力もある。
表現だってうまくできたはずだ!
なぜだ!!!
「謙虚さ、素直さに欠けている。」
僕は気付いた。
怪物は自分自身であったのだ。
そして、すでにはっきりとした、その姿をあらわしていることに。
そして怪物の表す感情が僕を支配していた。
怒り?
いや違う。
今ならハッキリとわかる。
奢り。
仮初めの自信。
いつしか自分の能力と思っていた。
思うしかなかった。
ではなぜ赤い色をしているのだろう。
それも塗り固めた赤。
何回も重ねたムラのある、決して綺麗とは言えない。
赤。
自分を隠すためにひたすら塗り重ねた。
嘘。
真っ赤な嘘。
嘘で塗り固めて身につけた自信。
そして奢った。
もう嘘だろうが真実だろうが関係ない。
自分には実力がある。
そう思っていたのだ。
そういうことか。
奢っていたのか。
わかっていた。
嘘?
もちろんついたさ。
バレない嘘をついた。
嘘で固めたさ!
それがなんだ!
結果を出したじゃないか!
感情を殺して、やりたくないことだって進んでやった!
嫌いな奴とも仲良くしてきた!
でもそれは本当の僕じゃない!
演じていた!
生き残るために!
勝つために!
仕方なくやった!
そうしなければ僕は淘汰されていた!
自分を出したら勝てるわけがない!
生き残れない!
もう無能はいやなんだ!
自分を守る術がそれしかなかったんだ!
鏡を見た。
僕の顔は赤く染まっていた。
きっと夏の暑さのせいだろう。
嘘じゃないさ。
僕は嘘なんかつけない。
だって僕は、バカがつくほどの正直者で素直さだけが唯一の取り柄なのだから。