適応障害について解説します
今回はこちらを文字化しました。
本日は「適応障害」について解説します。
適応障害はよく聞きますよね。
よく有名人がなっています。
「体調を崩して心身の疲れで休んでいました。病院の先生からは適応障害と言われました」と公表される方も結構いますし、それで有名になった病気です。
ですが、いまいち「うつ病」との違いがよくわからないと思っている方も多いと思います。
今回は適応障害とはどういう病気なのか、うつ病とどう違うのか、どういう治療をしていくのか、どういうことを考えなければいけないのか、治療上のポイントはどこなのかを解説してみようと思います。
■うつ病と適応障害の違い
そもそも精神疾患とはどういうものか、ということを簡単におさらいしようと思います。
精神疾患というのは基本的に遺伝の問題、生まれの問題、遺伝子的な問題+環境ストレスの合わせ技によって発症します。
生まれつきのもので全部発症するわけでもなければ、ストレスがかかるから誰でも発症するというものでもありません。
このバランスによってなります。
遺伝的に強くても、ストレスがすごくかかっていれば適応障害を発症しますし、遺伝的に弱いからストレスが小さくても発症してしまうということはあります。
多くの人は「健康」のプールの中にいて、よりリア充側を目指そうとします。
悩んで内側に行って勝ったり、負けてリア充の外側にはじき出されたりしているのですが、ストレスがかかることで「健康」からはじき出されて「高ストレス状態」に陥ることがあります。
そして、高ストレス状態の中でぐるぐる苦しむことになる。
長時間働く、残業を月100時間以上やる、パワハラを受けるなどのストレス状況にさらされることで、うつ病を発症したり適応障害を発症したりします。
うつ病というのは適応障害とどう違うのかというと、症状は基本的に同じです。
「抑うつ状態」と呼ばれる気分の落ち込み、食欲低下、寝れない、自尊心の低下、意欲・集中力の低下などがあったりします。
臨床的にはうつ病の方がちょっと重いイメージです。
重くなくても良いのですが、あくまでイメージです。
うつ病の方が「脳病」という感じで、繰り返すようなイメージがあります。
良くなってもまた繰り返してしまうのがうつ病のイメージです。
適応障害というのはストレスの病気なので、ストレスから離れることで、比較的速やかに元の状態に戻る。
病気から症状が取れていくというようなイメージです。
うつの状態が休むことで比較的取れるようなイメージがあります。
こういう結構ファジーな概念なのです。
実際、脳科学的にどう違うのかよくわかっていなかったりしますが、臨床的にはすごくよくわかります。
休み出したらよくなったなという人と、休んでもあまり良くならず、「やっぱりうつだね」と言って薬を飲みながらゆっくりと回復していく人がいます。
診察室の中では違いがよくわかりますし、発言のいきいきさでなんとなく予想がついたりしますが、なかなかこれを定義として区別しよう、脳科学的に区別しようというと、結構難しかったりします。
脳の中で色々なことが起きているのでしょう。
■治療の経過
治療としてはストレスから離れて休むということなんですね。
基本的には適応障害は薬がなくても良いのです。
症状が重かったら、抗うつ薬を部分的に使ったり、寝れなかったら睡眠薬を使ったりしますが、基本的には薬物治療が必須というわけではありません。
良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、下がっていって休息をすることで良くなっていくという感じです。
休み始めると1回ガクッと下がります。
仕事をしていた人が1回休むとちょっと調子を崩します。
フルマラソンを走る時と似ています。
フルマラソン走るときは、ギリギリだけど走れるじゃないですか。
でもゴールを切ったら、急に走れなくなります。
それと似ていて、今までは調子が悪いながらも働けたのに、休み始めたらガクッと調子悪くなるから何が起きたんだろうと焦ります。でもそれは今までの緊張感が取れて、そういう本来の自分が出てきたという感じです。
基本的には寝て直します。だから日中も寝たりしています。
それでいいんです。
サボっているのではないかと思うかもしれないし、人によっては休んだ直後に「いい機会なので勉強したいです」「転職のために勉強したいです」と言うのですが、そういうことはできませんよと言います。
「いやいや、私はできます」と言うのですが、できないですね。だいたい寝てます。
これが普通です。
1日10時間、昼も寝て、夜も寝てみたいな生活をして、それが終わるとようやく良くなってくるという感じです。
目安としては散歩、料理、片付けとか言うのですが、だんだん寝るのも飽きてきて心身が回復してくると散歩をし始めたりします。
何食べたいなと言って料理をしたり、食べたいものが浮かんできて、片付けもし始めます。
部屋の片付けでもしようかと言って、物を捨てられるようになったりします。
これが回復の目安ですね。
片付けは結構難しいのです。料理をするというのも難しいです。
普通に生活しているときは難しくないのですが、うつとか調子が悪いときはできないことだったりします。
それが段階的に良くなっていきます。
良くなって復職するのですが、1回下がります。
復職したら1回やはり調子を崩して、でもまたゆっくりと回復していくという感じです。
だいたい3ヶ月~6カ月ですね。
一応、ストレスから離れると6カ月以内に回復するというのが適応障害の定義だったりします。
実際はそんなにかっちりしているものではないので、多少前後はします。
1ヶ月ぐらいで復帰というのはちょっと短い感じがします。
だいたい3ヶ月~6ヶ月くらいで復帰することが多いです。
6ヶ月以上になる人も珍しくないですね。
だから焦らずやりましょうと言います。
■人生とは何なのだろう?
と言いつつ、本当に休んだらストレスフルな状況から抜け出せるのかということですよね。
健康から高ストレスに来て、そこから適応障害になって、休んだことで食事がとれるようになった、眠れるようになったと言っても、戻るのは「高ストレス」なんですよね。
仕事だけで悩んでいるのではなくて、生い立ちの問題、家族、友人、恋人の問題、いろいろストレスフルな状況にまた戻るだけだったりするので、また高ストレスにいると思ったら、また適応障害に戻ったりします。
そんなに単純に「適応障害」から休んですぐに「健康」とはいきません。
臨床的には、この状況をどう打破するかというのがとても重要です。
今のストレスフルな状況からどうやって抜け出すのか、ということです。
よくある相談、話の内容としては「同じ仕事でいいのか」ということですね。
不運とか不幸な状況から健康な状況に戻るときに、このまま忙しい仕事、この業種で働いていいのかということになります。
同じ職場に戻ったら、またつぶれてしまうのではないかということですよね。
そういうことを見直したりします。
同じ仕事でいいのかということを決めるためには、「そもそも人生ってどういうものなんだろう」「自分は何のために生きているんだろう」という問題に直面します。
それは思春期の葛藤と似ています。
「人生とは何なのだろう」と考える機会でもあったりします。
人生とは何かと考えるためには、自分の生い立ちや家族のことを考えなければいけないですし、そもそも仕事って何なんだろう、自分はどんな仕事がしたいんだろう、働くって何なんだろうということも考えていかなければいけません。
そのためには社会とはそもそもどういうものなのか、この業界はどういうものなのか、人間が集団になったときにどういうことをするのか、どういう過ちを犯すのか、そういう歴史的な背景も含めて一般教養もある程度もう一回学び直す必要があります。
考え方の問題なの? ネガティブすぎるのかな? 自分の気持ちの持ち方が良くないのかな? 価値観とかそういう問題なのかな? 認知の歪みなのかな? とかそういうことも考えたり理解しなければいけないのですが、そのためには自分はどんな人間なのか、今回のストレスの原因になった他人はどんな人たちなのかという、人間理解も重要です。
一般的な脳とはどういうものか、精神医学的な常識、知るべきことを基礎教養として知っていくことが必要です。
こういうことがわかってくると、人生とは、仕事とは、考え方の問題があるのか、という抽象的な問いにも自分なりの答えが導き出せたりして、「じゃあ仕事はどうしたらいいのか」という結論も出たりしますね。
答えはない
これは答えはないのです。
「益田先生はどう思いますか?」と言われても、「それはよくわからないね」と。
僕もその状況を知らないし、人によって価値観が違うし、何が良いかわかりません。
そこまでは一緒に僕が決めてあげることはできないけれど、ただこういうことを一緒に考えていく中で、サポートすること、生い立ちの話をするときに話を一緒に整理することをサポートしてあげたり、自己、他者を理解するために、振り返りを一緒に手伝ってあげることもできます。
脳とはどういうものなのか、精神医学とはこういうものだよねということを解説したりもします。
僕も臨床経験がありますから、患者さんによっては僕よりひと回り下だったりするので、僕も人生の先輩として、多少は一般常識的なことは教えてあげることができます。
社会とは何か、業界はこういう業界だよね、とか。
僕も昔自衛隊にいましたから、組織の苦しさや、メリット・デメリットをよくわかってはいないとは思いますが、それなりに答えられると思います。
ほかのドクターもいろいろ経験がありますからね。
適応障害という機会に、一緒に考えていくのは重要かなと思います。
共感と傾聴?
まあ、そんなことをややこしく言わなくても、共感と傾聴だけしてくれたらいいじゃないかとか、ということもあります。
「小難しいことを言う必要はないんじゃないの?」「益田は小難しいんだよ」「理屈っぽいんだよ」とよく言われますし、そこまでやらなくていいだろうと思うこともあります。
共感と傾聴で良くなる人、なんとなく良くなる人というのは確かに適応障害の人に多くいます。
こんな小難しいことまで喋ったり、深く追求しなくても良くなる人は良くなるのですが、ただ共感と傾聴だけではうまくいかないケースというのもあります。
その場合は、人生・仕事・考え方という問題を振り返って考えてみることはとても重要だったりします。
それはどんな精神療法でも同じなのかなという気はします。
今回は、適応障害とはどういう病気でどういう治療をしていくのか、について解説しました。