やさしい夫に対する憎しみ。
男が機嫌を損ねるのが怖い。
そんなこと意識していなかったけど、娘とふたりで話している時に自分がいかに夫に気を遣っているか、怒らせないようにしているかを説明しながら、あぁ私は嫌っていた母と同じように、男の顔色を見ているのだなとわかってしまった。いまさら。
いちいちごねられたりすると、感情がざらついて日常生活を淡々と送るのに邪魔になるから極力そうさせないようにしていた。
どうせ他人だし、分かり合えなくて当然だから。
適当に会話して今日も終わった。そんな風でいたいのだ。
父がいつキレるかわからないひとで、ふいに理不尽に殴られたりしていたせいで、暴力的だったり好戦的な男が極端に嫌いである。
そういう人間と察したらそもそも近付かないので、人生で仕事を除いてはほぼ出会わなかった。
料理人はそういうタイプが割と多くて、生意気な口をきくと包丁を出されたりしたが、私は馬鹿め、と思って受け流した。そういう男は怖くない。
私が大丈夫だと思うのはケンカで殴り合いなどしたことがないようなひと。
もし、私に手を挙げようものなら私はやりかねないから、手が出そうな雰囲気だけでもダメだ。それくらい根深い恨みがある。
交際してきたのは、とても落ち着いた男ばかりだった。
本職でひととやり合う者はいたが、元は大人しいいじめられっ子で、極めてソフトな性格だった。
そのようなひとが機嫌を損ねた時に、すごく心がざわついた。
私は普段、強気を装っているが、そういう時は捨て猫みたいになった。
だからどうするわけではないが、自分が正気に戻るのを待たないとならなかった。
この事実を意識するのも嫌で、なかったことにしていた。
なにも怖いものなどないと、いきっていたが、いまは夫が怖いのだ。
例にもれず、夫もケンカどころか口論すらしたことがないような温和な性格で、占い的にはモテそうなのだがまったくそのようなこともなく、楽器を持ったときだけ人気がある、どこかぼんやりした男だ。
アマチュアながら、シーズンごとにどこかの楽団から出演依頼がやってきて楽しそうに練習や本番に勇んで出かけていく。
働き者で無害な人間だ。
私は対人の面倒事がとにかく嫌いで避けたくて、自分が気遣って丸く収まるならそれでやり過ごしたいと考える、ある意味ずぼらなところがある。
しっかりコミットしたいなどと思わない。
だから、適度に距離を保てそうな夫と結婚した。
夫婦喧嘩をする意味がわからない。
たまにごちゃごちゃ言い合うけれど、最小限に留めるように、引き摺らないようにお互いにできている。
それでも、夫には気に入らないトピックがありそれに触れるときはあからさまに機嫌を損ねる。それを見るのが嫌だ。
でも、「機嫌を悪くするな」と言うのは変だ。その権利はない。
仕方なく不機嫌が去るのを待つだけだ。
夫に悪いところはない。
だけれども、私が勝手に顔色を窺って、気を遣って、自分から閉ざしているのに、心を開くことができないことで、罪のない夫を私は憎んでいるように思う。まったく道理に合わないが。
私の人格のすべてを夫が受け入れられるわけではない。相手を何人取り換えようとそれは変わらない。
喚いても仕方のないことだ。
こういうときに、電車が走る横で叫んだりするのだろうか。
最近よくそんな心境になる。
覗いてくれたあなた、ありがとう。
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また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。
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