「会いたい」って言われたら。~30年前の彼女
私の愛はしつこい。
一度好きになったら、まあまあ酷いことがあったとしても気持ちが減退することはほとんどない。
時間経過とともに薄れることはあるが、更新される出来事があればまた再燃する。
ただ、話し合って別れたらよりを戻すことはない。
彼女とは高校1年で出会った。
初対面で、同じクラスのある男子に好かれているが自分は興味がないのにその男子を慕っている女子に目の敵にされて大変だ、という悩みを私に話してきた。
私はすぐに変な女だと思い、好きになった。
顔は眠そうで、ぼんやりしていて、どこが美しいということもなかった。
全体的に和装が似合う風情があった。
女子には好かれないタイプだった。
なぜならあざといと誤解される話し方、仕草、姿をしていたから。
本人は至ってふつうに暮らしているだけで、熱烈に好かれたり、痴漢にあったり、女子に憎まれたりしていた。
先日、インスタで久しぶりに本人の動画を見たら全然変わっていなかった。
ぼんやりしているところも間抜けな感じも。
彼女は当時から音楽を志していて、上京して名門大学に進学して、順当にプロになった。
私は大学を除籍になりフリーターになったが、付き合いは続いた。
たまにツアーなどで戻ってきて私に会うときは「充電中」と言っていた。
東京で大きい舞台の仕事が決まったら、チケットを取って招待してくれた。
振り返ると、著名な演出家の舞台や、大物俳優カップルが交際するきっかけになったような舞台など、高額でレアなチケットをプレゼントしてくれていたのだった。
私は貧しかったのでいつも甘えて奢られていた。
彼女は私に勇姿を見せたかったのだろうし、私は見たかったので足繫く東京まで夜行バスで通ったものだ。
いまはお互い家庭人で、こどもが小さく、頻繁に会うことはない。
自由な時間がほとんどない。
時間とお金は家族に吸い込まれていく。そういう感覚。
私がちょうど、そんな生活で鬱積していたときに、私の実姉がスタッフとして携わっている舞台に彼女を起用したから見においで、と言ってくれた。
彼女にインスタでそれを伝えると「会いたい~」と言った。
私からするとほんとうにおかしな女で、いろんな悪さを悪気なく行うので私が何回もキレたことがあった。
私の家に泊まるつもりで置かれていた荷物を玄関の外に出して追い出したこともあるし、「二度と会わない」と宣言したこともある。
そんなことはお構いなしに、帰郷するときなど「会いたい~」と言ってくるのだ。
こちらはどんな顔で会えばいいのか、などといつも身構えるがあちらは毎度なにも気にしていない様子である。今回も。
自分はいつでも愛されているとでも思っているのだろうか。
それとも面倒なことになった記憶もすべて忘れたのだろうか。
どうでもいいことと受け流して生きているのだろうか。
私はけっこう大事なことをうっかり忘れたりしてしまうことがある。
家族のそれぞれの行事予定とか。振り込みとか。
自分のちょっと先の予定でさえ危ういのにほか3人分までは無理だ。
ところがずーっと前の、例えば20年、30年前の、女や男のことをしつこく憶えていて反芻することがある。
たぶん、ずっと好きだから。
家族を好きじゃないとかではなくて、それは別の種類の愛のこと。
分厚い本の間に挟んで忘れてしまったクローバーみたいな。
そういう大切なのに隠していてどこかにいってしまったものたち。
どこにあるのかわからなくて見えないけど、ありありと思い出される。
現実に疲れたので、家族には予告家出と称して、そういう思い出たちに会ってくることになった。
中学校の同級生の特別な彼女と、高校生の頃いっしょに暮らしていた彼女に。
家族を置いて、丸一日家を空けるのは今回がはじめて。
前回、東京入りしたのは日帰りだった。
今回は、学生時代のように夜行バスで。
そのまま失踪したりしたら、このnoteは更新しなくなる。
無事に現実に戻ったら、また四方山話を気まぐれに書いていこうと思う。
覗いてくれたあなた、ありがとう。
不定期更新します。
質問にはお答えしかねます。
また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。