桜の下で死ぬのをやめた。
皆既日食で世間が湧いていたが、私はそれどころではなかった。
占星術的に日食を伴う新月のダメージをくらうのは予め知っていた。
それがどんな内容までか、浅い知恵ではわかりかねた。
娘が夜家出した。
21時頃、最も娘のメンタルが落ちてめそめそ泣き始め、私が息子と洗濯物を畳んでいる間にふいにパジャマを着た娘が出て行ってしまった。
しばらくして、玄関の靴がないことに気づいた。
こういう日だから、何があってもおかしくないと覚悟はした。
自力で帰ってきてくれることを願って、息子を寝かしつけながら何かできることがあるか考えた。何も見つからなかった。
私が言うのもおかしいんだが、娘と息子はお人好しである。
ひとを下げることをしないし、ひとの横暴な振る舞いについても極限まで我慢してしまう。
生まれ持った性質はもちろんあるが、どういうひとがこの世に必要か考えて、私が願いを込めて育てたのもある。
そのおかげで恵まれもするし、愚かな人間から酷い目にも合わされる。
必要な時に引き立てられたり、助けてもらえたりすることのほうが圧倒的に多いとは親目線では感じている。
娘が泣いた理由は、トリガーはいくつもあったけれども最終的には友だちだと思っていた奴に裏切られたせいだった。
私は度々、付き合う人間を選べと言ってきた。
ほんとうに好きではない奴とデレデレすんな、と。
娘はみんなのいい子でいたくて、誰にも好かれていないような性悪の奴とも親しくしていた。
私はそいつをかなり警戒していた。
けっきょく、残念な結果になった。
娘は小学生の頃から希死念慮がうっすらあるので、星回りや精神状態によっては最悪のこともあり得る。
ものすごいビビりなので痛いことはしないだろうと思いがちだが、ものすごいビビりなのに一世一代の大勝負をそこに持って行った身内がいるので、あり得ない話しではなかった。
親子だろうと、別の人間なので考えをすべて読めるわけじゃない。
しかし、娘には特に強い信念を持って教育してきたので私は自分の積み重ねてきたものを信じた。
ダメだったら私の敗北。
大騒ぎして捜索する前に信じることにした。
40分くらい経って、娘は帰ってきた。
自室の布団に直行して横たわっていた。
息子を寝かしつけた私は娘に声をかけて、久しぶりにいっしょに入浴した。
私は、足は臭いから洗え、と当たり前のことを言った。
髪を乾かしたら娘がハグを求めてきた。
コアリクイが威嚇する時のポーズに似ている。
私たちは身長がほぼ変わりなく、体重は娘のほうが重いのでずっしりきた。
なぜ、泣いたのか話してくれた。
私からしたら、つまらぬ人間関係に翻弄される娘がバカだという顛末なのだが、いい子でいたい娘にとっては死活問題で。
でも、明日からその考えはやめろ、と伝えた。
お前のことばかり考えている奴なんかいない、
もっと好きなことで頭をいっぱいにしろ、
好きなひとにいっぱい考えてもらえるようになれ、
大切じゃない人間としょーもない付き合いすんな。
やはり娘は死のうとして高速道路の入り口まで歩いて行っていたそうだ。
そこに桜が咲いてて、あまりにもきれいだったから死ぬのをやめた、と言った。
夜桜きれいで、写真撮った、と。
同じアカウントを使っているので私のフォトアプリにもそれが入っていた。
やめた理由は、ほんとうかどうかわからないけど、どっちでもいい。
私の教育は敗北したのかもしれないけど、それもどっちでもいい。
まだ生きてやることがあると娘が思ったんじゃないかな。
そうだといいのにな。
我が子でもコントロールすることはできない。
もっと娘が好きなことや楽しいことを考えるように、
私はできることをするしかない。
覗いてくれたあなた、ありがとう。
不定期更新します。
質問にはお答えしかねます。
また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。
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