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海外オーケストラとのサッカー交流

 こんにちは。昨日、来日中のウィーンフィルとサッカーの試合をしてきました。

ウィーンフィルはチームのペナントもあります

 「今度ウィーンフィルとサッカーする」と言うと「えっ?」と驚く日本人は多いのですが、海外のオーケストラがツアーで日本に来て日本のオーケストラとサッカーやフットサルで対戦するのは良くある事なんです。ちなみにウィーンフィルは過去に日本将棋連盟のチームとも試合をしています。

 ちなみに僕は過去にベルリンフィル、ウィーンフィル、ハーディング率いるミラノ・スカラ座、ウルバンスキ率いる北ドイツ放送響などと対戦経験があります。「客演」じゃなくて「対戦」なのがポイント 笑 これ、自分の演奏会プロフィールにも書かせて頂いてます。

 僕自身、中学からサッカー部に入って高校途中までプレーして、その後ドイツ留学から帰国して「TACET」という草サッカーチームを結成して20年以上活動して、北多摩のプライベートリーグにも参加していたので、それなりにサッカーとの付き合いは長いです。この草サッカーチームには元Jリーグユース選手から県選抜といった本当にうまい連中を始め、東京交響楽団、東京フィル、神奈川フィル、群馬交響楽団などの音楽家も多数在籍していました。

 日本の音楽家の間で初めてサッカーが盛り上がったのは1998年のフランスW杯でした。日本の初出場と共にNHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京シティフィル、神奈川フィル、東京交響楽団、東京フィルなどにサッカー部が出来て、各オーケストラと僕の草サッカーチームで対抗戦などやったものです。同時に、この頃来日したオーケストラと試合をするという交流の形が始まりました。時代を遡ると小澤征爾さんが活躍されていた時期にボストン響が日本で野球の試合をしたなんてこともあったようです。
 その後、2002年の日韓W杯でサッカーそのものの人気が日本で爆発して、フットサルコートが激増しました。「少人数で楽しめる」というのを売りに、フットサルが一気に知られるようになって、人集めに苦労していたオーケストラもみんなフットサルに移行したのでした。足元の技術が無い典型的な昭和のサッカー人間である僕にとってフットサルはなかなか厳しいのですが。

 近年では国内のサッカー人気が落ち着くと共に各オーケストラの活動も少しずつ無くなり、現在定期的にサッカー部が活動しているのは東京交響楽団と読売日本交響楽団くらいでしょうか。そういえば先日東京交響楽団と札幌交響楽団の交流戦があったので、札響も活動しているのかもしれません。

 さて、今回のウィーンフィルですが、僕自身は過去に2度対戦経験があります。「ウィーンフィルとサッカーなんて楽しそうだねえ」と言う方が多いのですが、冗談じゃない。ベルリンフィルもウィーンフィルも、いや海外のオーケストラはみんなガチ勢。下手な人はほぼいません。指揮者ウルバンスキも一緒にやってみると一切手を抜かずにガツガツ来るし味方がミスすると舌打ちしてるし、基本的に海外の人たちは趣味だろうと常に本気です。
 ウィーンフィルのホルン奏者Janezicはプロのサッカー選手になるか音楽家になるか悩んだというほどの実力で、チームの主将でもあります。確かベルリンフィルにもミラノ・スカラ座にもサッカー選手になるか悩んだ、という人がいたような。しかも今回聞いた話では、週2回くらい定期的に練習しているそうです。以前来日した時にはなでしこのユースと試合をした事もあるようですね、さすがになでしこには勝てなかったようですが。

 そんな相手だと知っていたので、試合が決まってから3週間、僕はもともとやっていた朝5kmのランニングに加え、仕事から帰ってからラン&ダッシュと坂道・階段ダッシュをやって準備をしてきました。

 試合は40分ハーフのフルコート。審判は公式に雇った方々に来て頂きました。基本的にサッカーは45分ハーフですが、東京都3部くらいになると70分ハーフだったりします。以前、読響が海外のオケと試合をする際に「30分ハーフにしないか」と提案したら「サッカーは45分でやるもんだ」と突き放された事もありました 笑
 今回はウィーンフィルチームに寝坊者が出て試合開始が遅くなった事もあって、主審から「35分ハーフ」と提案があったのですが、ウィーン側は「ハーフタイム5分でいいから40分ハーフにしよう」と主張しました。少しでも長く蹴りたいんでしょうね。

 今回の日本側は東京交響楽団が中心のメンバー。東響の主将は長い事僕と一緒にTACETで蹴っていた人で、僕にも参加しないかと声をかけて頂きました。いざ行ってみると日本は20人くらいいて、初心者に近い人も多かったようです。

東京交響楽団コントラバス首席のコーディと
サッカーで30年近い付き合いとなる東京フィルフルート首席の斎藤和志君と

 試合の前半は東京交響楽団のメンバーが中心の3-2-3-2。僕は右サイドで先発しました。ウィーンフィルはたぶん3-4-3だったと思います。
 だいたい草サッカーの時には、最初様子を見て相手チームの誰が狙い目か探るんですが、ウィーンフィルは本当にミスをしない。トラップも上手だしパスミスも少なくて、しかもポジショニングが的確なので取りに行くとパスを出されてしまう。ドリブルで仕掛けてくる事はあまりなくて、パスを繋いで体力を温存しながら攻め入ってきます。一人女の子もいたんですが、彼女も両足使えて強烈なシュートが打てるので全然隙がない。こんな時はこちらも連動して守備をしたいところなんですが、何しろ日本は東響メンバー+初めて会った人同士の寄せ集め。その実力差は歴然でした。そもそもパスが繋がらないのですぐに相手ボールになってしまうという状態が続き前半だけで0-5。

 後半、東響メンバーが引っ込んで残りの人たちになるとウィーンフィルはそれこそやりたい放題になって、PK、直接FK、ゴール前フェイントで2人交わしてゴール、GKと1対1の場面でループでのゴールなど凄まじいゴールラッシュ。終わってみれば0-15というラグビーのような点差で惨敗でした。

 指を負傷する訳にはいかない、という事で日本側のゴールキーパーはIT企業のサッカー部から助っ人が来て下さったんですが、この人がいなかったら40点くらいとられてたんじゃないかな。あれだけキーパーが大活躍して15点も取られてるってのは普通じゃありません 笑

試合後の集合写真

 今回は日本の人数が多かったこともあって僕は前半40分間のみの出場。試合前には、正直そろそろフルコートなんてキツいんじゃないかと思ってましたが、しっかり準備したお陰で全然体力に余裕があった事は少し自信になりました。

 楽しく交流も良いのですが、そろそろもう少し良い試合したいなあというのも本音だったりして、次回の対戦時にはフル出場出来るように身体を準備していこうと改めて決意したのでした。いくら交流でも向こうは本気だし、舐められたくないし、負けたら悔しいですからね。これまで本気で悔しがって周りに引かれた事が多いので、今回は雰囲気悪くしないように笑顔でいるように気をつけてましたが内心はめちゃくちゃ悔しかったです。そんな事もあって、行きはウィーンフィルの連中と同じバスで行ったのですが、帰りは一緒になりたくなくて路線バスで帰ったのはここだけの話です。
  
 ちなみにウイーンフィルはサッカー終わったあとサントリーホールでマーラーの5番の本番、僕らのお陰でさぞ気持ち良く演奏出来た事でしょう 笑


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