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Tom Waits「Grapefruits Moon」
”グレープフルーツみたいなお月さま”
独特の比喩ではじまり、月夜の美しい夜に聴きたくなるナンバー「Grapefruits Moon」。
今回紹介するこの曲は、Tom Waitsの1stアルバム『ClosingTime』に収録されています。
時は70年代。
ウエストコーストロックが世間で注目を浴びる中、トム・ウェイツは73年24歳で西海岸ロックの象徴と言われるアサイラムレーベルよりデビューを飾ります。
私がトム・ウェイツを知ったきっかけは、ジム・ジャームッシュ監督の「コーヒー&シガレッツ」にトム・ウェイツが出演していたことからでした。 オムニバスで成り立つドキュメンタリーのようなこの作品の一場面においてイギー・ポップとトム・ウェイツがとあるカフェで待ち合わせているシーン。
そのシーンでイギー・ポップがトム・ウェイツに向かってこんな一言を言い放ちます。
『ジュークボックスにお前の曲は入ってないよ』
ひとりになったトム・ウェイツは、それを確かめにジュークボックスへ。
『あいつの曲もないじゃないか…….』
と、ひとり呟くトム・ウェイツ。
イギー・ポップとトム・ウェイツという音楽ファンにはたまらない二人の会話が、とてもユーモラスで、そしてとても印象的でした。
話し声もそうですがトム・ウェイツは超個性的な歌声の持ち主。特徴的な嗄れ声は唯一無二であり、最初はその歌声に衝撃を受けましたが、聴いてくうちにどんどんはまってしまうのは叙情的な詩や切ない旋律に心を奪われたからかもしれません。
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*画像は全てhttp://www.tomwaits.comより引用
そんなトム・ウェイツのルーツですが、彼はアメリカのカリフォルニア州生まれ。父親はスコットランドとアイルランドの混血で母親はノルウェー人。と、トムには北欧の血が流れています。幼少期に父親の弾くギターに合わせて母親が歌うのを聴いたり、父親と旅したメキシコで伝統音楽にふれたりと、いつも音楽が側にある環境で育ちます。
10歳の時に両親の離婚を経験し、その寂しさをまぎらわせてくれたのがラジオから流れてくる音楽だったとか……
高校時代、彼が好きだったアーティストはジョージ・ガーシュインやレイ・チャールズ、フランク・シナトラなど今となっては渋い顔ぶれ。
高校を中退し10代半ばから夜の世界で働き、そこで流れていたジャズにブルーズ、フォークやR&Bに影響を受け、夜の街に似合う音楽と大人の世界に触れた経験から、たくさんの名曲は生まれてきたのだと思います。
さらに。
酔いどれ詩人という異名を持つ彼は、ジャック・ケルアック等のビートニク小説に影響を受け、文学に傾倒する事でシンガーソングライターの道に目覚めたそうです。私自身、子供の頃から本を読むのが大好きで、活字の持つ魅力ももちろんですが、「音にのった詩の持つ力」にとても魅了されます。
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当時西海岸で流行っていたファッションはというと、今季の春夏コレクションでもサンローランが西海岸をイメージソースに発表するなど再注目の兆しがみられるインディアンスタイルに影響をうけたヒッピースタイル!!そんな中トム・ウェイツはというと、やはり独自路線で、良い意味でクタっとしたシャツにジャケット、細めのタイに細身のスラックス。そこにハットやハンチングなど被り物を合わせるというスタイルでした。
20代の頃から60代になった今も変わらない、スタンダードな装いがしっくりはまっていて最高です。
『Closing Time』に収録されているもので他にも好きな作品は沢山ありますが、
今回紹介する”グレープフルーツムーン”は歌詞も素敵なので紹介させていただきます。
Grapefruit moon, one star shining
Shining down on me
Heard that tune, and now I’m pining
Honey, can’t you see?
‘Cause every time I hear that melody
Well, something breaks inside
And the grapefruit moon, one star shining
Can’t turn back the tide
グレープフルーツみたいなお月さま
ひとつの星が輝いて
僕を照らしている
あの歌がもう一度聴きたくて
焦がれている僕のことがわかるかい?
あのメロディを聴くたびに
心の中でなにかが壊れてしまうから
グレープフルーツみたいなお月さま
ひとつの星が輝いて
潮の流れを戻すことなんて出来ないのさ
味のあるピアノの音色ではじまるメロディ。
なぜだか切なくなる詩が心に沁みてきて、夜が深くなるほどしっくりきます。
”グレープフルーツみたいなお月さま”
今宵の月夜はどんな月?
そんなことを想像しながら聴きたい一曲でした。
written by 内田由美