『池上彰のやさしい経済学2』/池上彰
主題…インフレ、デフレ、金融政策、年金、リーマンショックなど、現代の経済をめぐる問題はどのように捉えればいいのか。リアルな経済の態様を辿るためには、前提としての事実の理解と知識の定着が必要となる。ニュースを通して経済を理解するために必要な知識を身につける。
1章では「インフレ」と「デフレ」の説明と、それらへの対処について、各国の経済史を辿り説明がなされている。
一般的に「インフレ」は物価水準が徐々に上がっていくことを指し、「デフレ」は物価水準が徐々に下がることを指す。池上氏は「インフレ」と「デフレ」のメカニズムを説明するにあたり、「合成の誤謬」という考え方を強調する。「合成の誤謬」とは、一人ひとりの個人は合理的な行動をとっていると考えていても、その合理的と考えられる行動を多くの人が同時にとることで、全体として見たときに非合理な結果が生じる現象を指す。この「合成の誤謬」が「インフレ」と「デフレ」のメカニズムを説明するのに最適な現象であると池上氏は考える。例えば、物価が持続的に上昇している中で、人々は安いうちに購入しようと合理的に考え、行動する。しかしこの行動を多くの人が同時に取ることで、商品の需要が増加し、それがきっかけとなり「インフレ」がどんどん進んでいくことになるのだという。
後半では急激なインフレで金融危機に陥ったジンバブエの例が取り上げられている。ジンバブエは急激にインフレが進む中、自国の通貨への信用の低下に働きかけることで難を逃れたという。具体的には、ジンバブエは自国通貨に代わりドルを通貨とすることで、通貨に対する信頼性を回復させたのだという。
2章は「財政政策」と「金融政策」について取り上げられている。
「財政政策」には公共事業や税制の調整などがあるが、日本は「減税」による効果が乏しいという点が指摘されてきた。その理由として、日本が「源泉徴収」が税の徴収に一般的に用いられている点が挙げられている。他国の申告制度とは異なり、給料から引かれるのが一般的になってしまっているため、納税者としての意識が芽生えず、「減税」に対する関心も湧きづらいのだという。
3章では日本の「バブル経済」が起きた経緯とその様子、影響について論じられている。
「バブル経済」は1985年の「プラザ合意」に端を発する。「プラザ合意」では、アメリカのドル高を是正することを目的として、各国の為替に「協調介入」を行った。その結果として85年以降、ドル安円高が急激な速度で進むこととなった。日本はこの事態に対処するために、「公定歩合」の調整を行い、企業と銀行間での融資を行いやすいようにした。このときに「公定歩合」が下げられたことを契機として、銀行による低金利での融資が進み、そして「土地」が投機の対象として運用されるようになっていった。この風潮が「土地神話」へとつながり、「バブル経済」が始まったのだという。
「バブル経済」が終焉した後は、緩やかにデフレが進むようになり、ここから「失われた20年」が始まったとされている。
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4章では国際金融体制について取り上げられている。
1945年に短期融資を中心とした「IMF」と途上国へ向けた長期融資である「世界銀行」そして関税障壁をなくし自由貿易の実現を図る「GATT」からなる「ブレトン・ウッズ体制」が成立した。戦後はこの「ブレトン・ウッズ体制」を中心に、国際経済体制が形成されるようになる。金融という側面については、71年の「ニクソンショック」や73年の「変動相場制」の導入などが特に重要となっていった。
5章は「年金」と社会保障について取り上げられている。
6章では世界的な金融不安である「リーマン・ショック」について、起きた経緯や影響について取り上げられている。
2008年に起きた「リーマン・ショック」はアメリカの「投資銀行」であるリーマン・ブラザーズが経営破綻したことが、世界の金融機関に波及的に影響を及ぼした。この「リーマン・ショック」はアメリカの「サブプライムローン」をめぐる問題が背景にあると言われている。 「サブプライムローン」とは、信用が低い顧客に対して高金利で融資を行う住宅ローンを指す。この「サブプライムローン」が当時の住宅ブームと結びつき、多くの人が「サブプライムローン」を利用して住宅ローンを組むようになった。そしてこの「サブプライムローン」を提供した住宅ローン会社は、その債権を投資銀行に売却することで利益を得ようとしていたとされている。そして投資銀行はこの債権を金融商品として他の証券などと組み合わせることで、新たな投資対象を提供していた。
こうした「サブプライムローン」を軸とした複雑な関係が形成される中、住宅ローンの「不良債権化」が進むことで、「リーマン・ショック」へと帰結していったのだという。
7章では戦後日本の高度経済成長期について取り上げられている。
一行抜粋…こういう言葉があります。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」愚かな人は自分の経験からしか学ばないけれども、賢い人は歴史から学ぶのだということです。そういう意味で、歴史を学ぶ、あるいは経済学を学ぶということは大事なことなのだと思います。(135頁)