読書の記録

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堂目卓生『アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中央公論新社、2008年)

主題…アダム・スミスは、個人の私的利益の追求が社会全体の利益の実現につながるという「見えざる手」を説いた思想家のイメージが強い。そのイメージは正しいのか。スミスが『道徳感情論』で展開した人間観に焦点を当てることで、スミスの思想を「同感」という人間本性に重きを置く思想として読み解く。  序章では、アダム・スミスが生きた18世紀ヨーロッパにおける社会の2側面について論じられている。  堂目氏は、スミスが生きた18世紀のヨーロッパには、光の側面と闇の側面があったことを指摘する。政

    • 橘木俊詔『新しい幸福論』(岩波書店、2016年)

      主題…現代社会を生きる人々の「幸福」とは何か。そしてその「幸福」を得るために社会はどのように変わる必要があるのか。「幸福」をめぐる現状と理想へ向けた道のりを考える。  1章では、日本における高額所得者数と貧困率、および格差社会の実態について説明がなされている。  日本において高額所得者の数や割合は、ここ数十年で変容を遂げている。橘木氏によれば、そうした変化は高額所得者が集中する創業経営者やスポーツ選手の数、割合を見れば明らかなのだという。日本はアメリカほどではないにせよ、ヨ

      • 堀啓子『日本近代文学入門 12人の文豪と名作の真実』(中央公論新社、2019年)

        主題…近代の文豪たちはどのように生き、何を考え、それをいかに文学作品に反映させたのか。日本文学の成立に影響を与えた文豪たちの生涯とその作品への理解を深める。  1章では、「言文一致体」を大成させた三遊亭円朝と二葉亭四迷の生涯と作品についてまとめられている。  「言文一致体」の着想を取り入れた表現をはじめて行ったのが、落語家の三遊亭円朝であるとされている。三遊亭円朝は近代落語を成立させた落語家としても知られている。堀氏によれば、円朝の落語である『怪談灯篭牡丹』が速記本として成

        • 菊地夏野『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店、2019年)

          主題…フェミニズムとネオリベラリズムはいかなる関係にあるのか。また日本の「ポストフェミニズム」とはいかなる状況を指すのか。理論的・実践的な視点から「ネオリベラル・ジェンダー秩序」がいかに編成されるのかを明らかにする。  1章では、ジェンダーとセクシュアリティの視点から新自由主義を分析するための視座の提供がなされている。  菊地氏は新自由主義の特徴をまとめた上で、ミシェル・フーコーの「新自由主義統治論」を取り上げる。フーコーの統治論では、新自由主義は市場と統治の関係を変転させ

        • 堂目卓生『アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中央公論新社、2008年)

        • 橘木俊詔『新しい幸福論』(岩波書店、2016年)

        • 堀啓子『日本近代文学入門 12人の文豪と名作の真実』(中央公論新社、2019年)

        • 菊地夏野『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店、2019年)

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        • 経済
          10本
        • 社会保障・福祉・格差問題
          14本
        • 文学論・文芸論・サブカルチャー論
          12本
        • 社会学
          19本
        • 社会問題・労働問題
          7本
        • 政治学・政治理論・政治哲学・政治思想
          22本

        記事

          博報堂キャリジョ研『働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方』(光文社、2018年)

          主題…女性が結婚後に専業主婦になるという選択が一般的とは言えなくなりつつある。そうした中で今日の働く女性は仕事や結婚、趣味や生活スタイルについていかなる考えをもっているのか。子どもをもたない働く女性への調査をもとに考える。  1章では、働く女性の仕事と恋愛に対する意識について取り上げられている。  働く女性は、かつては結婚後のプランとして専業主婦になることが多かったが、今日の調査によれば結婚後の専業主婦志望は6%程度であり、結婚に伴い退職をすることへの躊躇いが広く見られ

          博報堂キャリジョ研『働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方』(光文社、2018年)

          水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』(NHK出版、2013年)

          主題…資本主義は近代における核心的な原理である。今日では自明となった原理であるにもかかわらず、資本主義を取り巻く様々な事柄には謎も多い。社会学的・経済学的視点からその謎について考える。  1章では、資本主義とは何かについて説明がなされた上で、「資本主義は特殊な現象か、普遍的現象か」という問いへの議論がなされている。  市場経済を前提として合理性を追求する資本主義は、今日においてグローバルスタンダードとなっている。そうした意味では資本主義は普遍的な現象とも言えるが、資本主

          水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』(NHK出版、2013年)

          前田健太郎『女性のいない民主主義』(岩波書店、2019年)

          主題…「人民の支配」を意味する民主主義は政治学における基礎概念であり、近代の政治社会において尊重される理念である。しかし現実の政治において支配権を握るのは男性であることが多く、女性の意見が政治に反映されているとは言い難い。政治学にジェンダーの視点を取り入れることで、「女性のいない民主主義」を批判的に吟味する。  1章では、「政治」とは何かという根本的な問いをはじめ、話し合い・権力・制度といった政治学の基礎概念に対してジェンダーの視点から批判的な検討がなされている。  「

          前田健太郎『女性のいない民主主義』(岩波書店、2019年)

          石川文康『カント入門』(筑摩書房、1995年)

          主題…イマニュエル・カントは批判哲学を展開し、それまでの哲学の前提を大きく転換させた。現代においても哲学史上の評価に揺るぎのないカントの哲学は、いかなるものであり、いかに形成されたのか。三代批判書を読み解きながら考える。  1章では、イマニュエル・カントの「批判哲学」についての説明と批判哲学におけるカントの構想と「独断のまどろみ」について説明がなされている。  認識のあり方をめぐる哲学を前進させたカントの哲学は批判哲学・理性批判と呼ばれる。批判哲学とは、人間の合理的認識

          石川文康『カント入門』(筑摩書房、1995年)

          木村草太『憲法という希望』(講談社、2016年)

          主題…憲法や立憲主義は生活と深く関わっている。「個人」としての自由を保障する日本国憲法が、日常生活にかかわる問題を考えるうえで視座を与えてくれるのかを考える。  1章では、憲法や立憲主義の基礎について説明がなされている。  木村氏は立憲主義を説明するにあたり、「中世立憲主義」と「近代立憲主義」の相違を取り上げる。「身分」を前提とした自由を保障する中世立憲主義に対し、「身分」から切り離された「個人」としての自由を保障するのが近代立憲主義であり、現代の憲法を理解する上での出

          木村草太『憲法という希望』(講談社、2016年)

          岩田規久男『経済学を学ぶ』(筑摩書房、1994年)

          主題…「経済学」は、生活に身近であるにも関わらず学ぶ機会は乏しい。そもそも経済学とはいかなる学問であり、何を明らかにするのか。実際の経済の動きに触れながら、経済学の基礎知識を学ぶ。  1章では、経済学とはいかなる学問であるかについて、「価格」や「費用」「消費」といった基礎用語の解説を踏まえながら説明がなされている。  「価格」とは、モノやサービスの利用を特定の人に限定する手段の一つであると岩田氏は定義する。価格を設定することによって、その価格に同意できる人のみがモノやサ

          岩田規久男『経済学を学ぶ』(筑摩書房、1994年)

          中村高康『暴走する能力主義 教育と現代社会の病理』(筑摩書房、2018年)

          主題…教育のあり方をめぐる議論がなされる際、従来型の暗記・知識の詰め込みに限定されない「新しい学力」が示され、理想とされる。こうした「新しい学力」の提唱は、幾度となく繰り返されてきた。教育をめぐる議論における「能力」の本質はどのようなものなのか、「再帰性」の概念をもとに考察する。 1章では、「新しい学力」が求められる傾向について、それまでの学力観の分析を通して、その実態を明らかにしている。 教育制度改革が進められる際、今の時代に対応した「新しい学力」が繰り返し提示され

          中村高康『暴走する能力主義 教育と現代社会の病理』(筑摩書房、2018年)

          原武史『平成の終焉 退位と天皇・皇后』(岩波書店、2019年)

          主題…平成という一つの時代が終わった。平成時代において、天皇昭仁と皇后美智子はどのように平成の天皇のあり方を築いていったのか。天皇の「おことば」や地方を訪問する行幸啓の分析を通して、「平成」の天皇の姿を明らかにする。 1章では、昭仁上皇による「おことば」を踏まえた上で、退位や象徴としての務めについて議論がなされている。 天皇の自主的な退位は飛鳥時代から江戸時代にかけては決して珍しいことではないという。そして、原氏によれば、昭仁上皇は式年祭の際に歴代天皇の退位について講

          原武史『平成の終焉 退位と天皇・皇后』(岩波書店、2019年)

          橋本健二『アンダークラス 新たな下層階級の出現』(講談社、2018年)

          主題…現代の社会における非正規労働者の比率は4割近くに及ぶ。彼らのうち、パート主婦・専門職以外の人々の暮らし向きは悪く、過酷な環境に置かれている。彼らは「アンダークラス」とも呼べる新たな階級の一つとなっているという。「アンダークラス」と呼びうる階級の実態を示し、それを乗り越える可能性について考える。 1章では、橋本氏が「アンダークラス」と呼ぶ階級の内容とその形成背景の説明がなされている。 橋本氏はまず、現代において貧困の存在が実感できないとする世論の原因を説明している

          橋本健二『アンダークラス 新たな下層階級の出現』(講談社、2018年)

          佐々木敦『ニッポンの文学』(講談社、2016年)

          主題…「文学」と呼ばれるものと、「小説」と呼ばれるもの、それらの具体的な相違は何なのか。また、SFやミステリー、ラノベなど多様なジャンル小説がある中で、それらと「文学」はいかなる関係にあるのか。これまで「小説」と呼ばれてきたものを「文学」と扱うことで、小説を含めた日本の文学の展開を辿る。 プロローグでは、「文学とは何か」という問いへの答えの検討がなされている。 佐々木氏は、「文学とは何か」という問いに対する答えを明らかにする視点として、芥川賞と直木賞を取り上げる。一般

          佐々木敦『ニッポンの文学』(講談社、2016年)

          苅部直『丸山眞男 リベラリストの肖像』(岩波書店、206年)

          主題…丸山眞男は、戦後民主主義を確立した政治学者として知られる。丸山は戦前・戦中・戦後の社会をどのように生き、何を考え、主張を展開したのか。戦後民主主義の擁護者としてみなされるに至った丸山の生い立ち・背景・思想の内容を検討する。 1章では、丸山眞男が大正期に生まれ、いかなる環境で育ったか紹介がなされている。 丸山眞男は、近代化が進む大正時代に生まれた。そして、丸山は、教養の涵養が盛んであった山の手の中で育ち、当時の気風を吸収しながら育ったとされている。苅部氏は丸山が育

          苅部直『丸山眞男 リベラリストの肖像』(岩波書店、206年)

          北条かや『整形した女は幸せになっているのか』(講談社、2015年)

          主題…近年、美容整形はより身近なものとなってきている。しかし、その反面、整形をタブー視する見方も依然として存在する。近年の美容整形の一般化の背景には何があるのか。また、美容整形を決意した女性は幸せになっているのか。整形をめぐる議論と女性の幸福について考える。 1章では、近年の整形技術や整形に対する価値観について述べられている。 近年、整形技術はかつて以上に身近なものになっている。とりわけ、90年代後半から2000年代にかけて、「プチ整形」が一般的なものとなり、整形技術

          北条かや『整形した女は幸せになっているのか』(講談社、2015年)