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これ以外のお雑煮があると知った日の衝撃。
鳥取県在住。
子供の頃から、お正月は小豆雑煮だ。
山陰を中心に、一部地域で食べられているらしい。
中学生くらいの正月番組だったか、お雑煮特集で味噌やすまし汁のものばかりが紹介され、唖然とした。
大根や人参、青菜できれいに飾られ、いかにもめでたそうな色合いになったお椀の映像と、自分の食べている甘ったるい、適当によそったぜんざいみたいなやつを見比べて、激しく「お雑煮」に憧れた。
そのあと実際に作りもした。
しかし、ダメだった。
両親も生粋の鳥取県民。父は独身の頃あちこち転勤しまくったが、食べ物には無頓着。
結果、家族全員が小豆雑煮しか食べたことないので、正解がわからなかったのだ。
母が言うには鳥取は東部が小豆雑煮文化だそうなので、当時西部地域で暮らしていた私は、もしかしたら味噌やすましの小洒落たお雑煮を食べているクラスメイトの知らないところで、自身も知らぬ間に孤立して、小豆雑煮を食べていたのかもしれない。
だいたいその地域にいれば同じような文化を持っていると思い込むものなので、聞かれることはなかったし、私も小豆雑煮以外の存在を知らなかったので「お宅のお雑煮調査!」というような発想もなかったから、今となってはわからない。
ちなみに軽く調べたら山陰全域が小豆雑煮文化というネット記事が多かった。あの頃君たちはいったいどんな正月をすごしていたんだ。教えてくれないか。気になって午後10時から午前7時30分までしか寝られないんだ。
結婚して、(当時の)旦那の実家である島根のド田舎にいたとき、正月に義母が「あんたはお雑煮は味噌か?」というようなことを心配そうに聞いてきたので「すいません、ずっと小豆雑煮だったので味噌とか作り方がわからないんです」と弁明したら、義母はものすごくほっとした顔で「よかった! うちげも小豆雑煮。あんたげが味噌だったら作ってやらなー(作ってあげなきゃ)と思って心配しちょっただがん」とゆで小豆(甘い)の大きな缶詰を取り出した。
何もかも勝手の違うド田舎の農家での0歳児孤育て生活で疲れ切っていた私は、懐かしい小豆雑煮によって、自分を思い出した気分だった。
鳥取に帰ったけど。
結局、若い頃は味噌やすましのお雑煮に憧れたが、いまは正月といえば小豆雑煮、とすっかり体にしみついている。
うちは大晦日でもいつも通りに寝て、正月の朝起きたら小豆雑煮を作る。小豆を甘く煮た缶詰をあけて、カラになった缶を計りにして小豆と同量の水を入れる。塩を気持ち多めに少々。餅は市販のナントカ製菓みたいなありきたりなやつで、お湯に入れてレンジでチンしてから鍋に入れて少し煮込む。
同居の両親はもう朝から餅なんて元気はなくて、基本的にふたりの子供の朝ごはんになる。ここ数年は正月も仕事の私にとっても、時間が限られているなかで楽ちんに正月の朝を演出して、冗談めかしたご挨拶をしたりお年玉を出したりするきっかけになる、いいアイテムである。
夜にはおせちをみんなで食べる。ここにも小豆雑煮。私はここでようやくありつけるというわけだ。塩っ気のある数の子を食べて、甘い小豆の汁をすする。おいしいかおいしくないかはよくわからないが、正月だな〜という気分になる。
まあ、ぜんざいの箸休めに塩昆布とかついてるので、なくはないと思う。
しかし、0歳児孤育て懐かしい。
その子も今年は高校受験だ。
餅をしっかり食べて粘り強く、、と書きかけたけど、お散歩がてら試験を受けるぐらいのふわふわ〜っとしたノリで行って、終わったら鼻歌でも歌いながら帰ったらいいよ。
また来年も、再来年も、この家にいるうちはずーっと、小豆雑煮で一年を始めようね。