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【自然の郷ものがたり#9】変わりゆく川湯の、変わらない景色。私たちが未来に引き継ぎたい「地元」の姿【座談会】

古くから温泉街として愛されてきた川湯には、今でも全国から人が集まってきます。最近では、新しいお店がオープンしたり移住者が増えていたり。地域を愛する若い世代の思いが芽吹き始めているようです。

この座談会に集まってくれたのは、弟子屈生まれ、弟子屈育ちの4人。全員が川湯で観光客と関わる仕事をしながら、それぞれのやり方で地域の魅力を伝えています。彼女たちが川湯を愛する理由を聞いてみましょう。

井出 遥 (いで はるか)
弟子屈町川湯生まれ。小学校卒業と同時に川湯を出て、母の実家がある群馬県の中学・高校で過ごす。専門学校に進学後、川湯に戻って実家の居酒屋「いなか家 源平」に勤める。
榎本 明詞(えのもと あきし)
弟子屈町川湯生まれ。中学卒業後、秋田県の高校に進学。留学を経て川湯に戻り、株式会社ツーリズムてしかが(現在の株式会社ツーテシ)で勤務していた。現在は川湯で姉と立ち上げた「すずめ食堂&バル」を運営。
松田 亜祐(まつだ あゆ)
弟子屈町生まれ。弟子屈高校を卒業後、歯科医院での勤務を経て、着地型観光を手がける株式会社ツーテシに転職。川湯エコミュージアムセンターのカフェで、商品開発やPRに携わる。
片瀬 亜美(かたせ あみ)
弟子屈町川湯生まれ。弟子屈高校を卒業後、川湯エコミュージアムセンターに就職。自然解説員を務める。センターの維持管理業務のほか、小中学生の総合学習でガイドを担当。

※この記事はドット道東が制作、環境省で発行する書籍「#自然の郷ものがたり」に集録されている記事をWEB用に転載しているものです。

仕事を通じて気づいた、川湯の魅力

─ みなさんの川湯への思いが深まったきっかけは何でしたか?

片瀬 私は就職してからですね。川湯エコミュージアムセンター(エコミュー)でお客さんに案内するために、町の自然や歴史、文化を調べるようになりました。住んでいても知らないことが多くて、地元の方に「昔は肩がぶつかるくらい道に人が多かった」みたいに聞けると楽しいんですよ。「え、肩ぶつかるんだ!?」って。

井出 私が小さいときは観光客がたくさん来ていたから、夜は下駄の音が響きわたって眠れなかった(笑)。

一同 ええ!?

片瀬 こういうエピソードをお客さんが聞けたら、おもしろいじゃないですか。だから町のことを自分なりに吸収して、お客さんに「川湯に来てよかった」と感じてもらえたらいいですね。せっかくエコミューにいるので、川湯のことをもっと知ろうと思うようになりました。

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片瀬亜美さん

片瀬 あとは、住んでいる私たちからしたら阿寒と川湯は遠いんですけど、お客さんから見たら、ひとつの国立公園なんですよね。川湯で阿寒のことを聞いてくれる方もいるので、「いや、阿寒湖はちょっと離れているんで知らないです」なんて言いたくないなって。
だから阿寒湖や国立公園全体の魅力も、川湯から発信できたらいいですね。まずは自分たちが楽しみながら国立公園のことを知るために、エコミューのみんなで毎週フィールドワークに行っています。

松田 私は着地型観光を手がけている株式会社ツーテシに入ってから、道外のお客さんに「この町、もったいないよ」と言われたことがあって。でもエコミューのみなさんと一緒に国立公園の中を歩くと、この地域には魅力がいっぱいあるんだ、と気づくんですよ。
そうやって自分で体験したり、みなさんと地域のことを話したりするうちに、お客さんに川湯のことをもっと伝えたいなと思うようになりました。そのために自分ができることは何だろうなって。地元の方たちにも、川湯をもっと好きになるきっかけを届けられたらいいなと思います。

― 榎本さんは何度か町を出られていますが、どのタイミングで思いが変化したのでしょうか。

榎本 言われてみれば、私もツーテシで働いたのがきっかけかもしれないです。この町の観光でもっと頑張れることはないかな、とか、地域経済を良くできることをしたい、と思うようになりましたね。

― 観光に関わることは、地域と向き合うきっかけになるのかもしれませんね。

井出 私は川湯に戻ってきたばかりの頃、正直、なんでお客さんたちが川湯に来てくれるのか本当に分からなくて(笑)。それならお客さんに聞いてみようと思って、川湯の良いところを聞いていたんです。「川湯にこんなところがあるんだよ」って教えてもらったところは、全て自分で見て回って。最近ようやく、川湯のいいところを人に伝えられるようになりましたね。

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井出遥さん

― お客さんとの関わりを積み重ねることで、自分の中に発見があったんですね。

井出 川湯は、リピーターが多いんですよ。多い人は年に10回来たり、もう30年くらい毎年来ている人もいたり。うちには道外からご飯を食べに来てくれるお客さんもいて、そういう出会いが多いから、ここにいることがおもしろいなと思います。そうやって「楽しいな」と思っていたら、いつの間にかずっとここにいるんですけどね(笑)。

松田 お客さんと話したときにふと、自分たちは川湯に対してどう思っているかを向き合える瞬間があるのは、外から人が来る場所ならではのおもしろさですよね。

人と自然との関わりを未来に受け継ぐための国立公園

― ここで生まれ育ったみなさんにとって、幼い頃から自然と関わる経験は多かったのでしょうか?

井出 私は、おじいちゃんが自然公園の美化財団に勤めていたので、鳥の映像を見せてもらったり森で木登りしたり。この辺り、ぜんぶ私の庭、みたいな(笑)。そうやって自然と関わりながら、「ここは国立公園なんだ」と思って育ちました。
やっぱり、私たちの親やその上の世代が守ってきてくれたおかげで、残っている記憶や今に受け継がれている場所がすごく多いなと思います。川湯の外に出てみて初めて、子どもの頃は当たり前だと思っていた「普通」の自然は普通じゃないんだな、と気づきました。

榎本 私が覚えているのは、学校の授業で、川湯はカルデラなんだってさんざん言われてきたことで……(笑)。

一同 (笑)

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榎本明詞さん

榎本 でもちゃんと自然を意識するようになったのは、自分のお店を始めてからじゃないですかね。自然と近ければ、食とも近くなると思うんです。食も、自然の一部だから。
水がおいしいから料理もおいしくなる。空気もおいしい。こうやって「おいしい」に囲まれている暮らしも仕事も、この地域の資源があって初めて成り立っているんですよね。だんだんと「ここに住まわせてもらっているんだな」という気持ちを持つようになりました。生産者さんや自然と、お客さんとの間にいるのが食堂だと思うので、川湯を大事に守っていかないとな、と思います。

井出 子どもを見ていると、授業で町のことを知る機会が多いんだな、と感じます。エコミューに行って(片瀬)亜美ちゃんに自然について教えてもらうことが、すごく楽しいみたいなんですよ。私の世代よりももっと町のことを知っているんだろうし、好きだと思いますね。

片瀬 嬉しいですねえ。小学校と中学校では自然学習の時間があるので、私も一緒に自然のなかを歩いています。特に国立公園のことは、「豊かな自然を守っていく国立公園という仕組みがあるんだよ」と意識して話すんです。小学6年生にもなると、「もう言われなくても分かるよ」と言ってくれるんですけどね(笑)。

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― 自然のなかを歩いて楽しむだけでなく、この自然が守られている背景として国立公園の仕組みを伝えているんですね。

片瀬 私も小学生のときに総合学習でここのセンターに来て、自然について教えてもらった記憶があるんですよ。その頃は正直、国立公園について理解できていなかったと思うんですけど、当時の経験が今に繋がってて。今の子どもたちも、授業で勉強した自然や国立公園のことを、将来どこかで思い出してくれたら理想ですね。

松田 子どもたちを見ていると思うんですけど、硫黄山や摩周湖って、どの世代が見ても魅力を感じるんですよね。時代によって景色は変化しても、共通して感じる魅力がある。自然から受ける感動はずっと変わらなくて、その価値が語り継がれて、次の世代に繋がっていく。自然と人との関わりが受け継がれていくことが国立公園なのかな、と思うようになりました。

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松田亜祐さん

「帰ってきたい」をいつでも歓迎できる地域にしたい

― これから川湯がどんな場所になっていってほしいという思いはありますか?

松田 昔みたいに人がブワーッとたくさん来ている状態を、私は目指さなくていいんじゃないかと思います。来てくれる人たちが、ゆっくり静かに休める場所であったらいいですね。
でも今のままじゃ、空いているシーズンに来たお客さんには町が元気ないように見えちゃうかもしれない。だから川湯が「通りすぎる予定だったけれど、気になった」とか「居心地良いからまた来たい」と思ってもらえる状態になればいいのかなと思います。

井出 海外から来るお客さんは「火山が目の前にあって、国立公園でこんなに自然を楽しめて、温泉で身体を休められて、おいしいものを飲んだり食べたりできるなんてすごい」ってびっくりするんですよ。全部揃う場所は、世界を見渡してもあまりないみたいで。そういう場所に興味がある人は国内にもいると思うので、川湯のことをもっと伝えていきたいです。

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榎本 個人的な希望としては、「ここがいいな」と思う人に、大事に過ごしてもらえたらいいですね。自然やお店を大切にしてくれる人に、何回も来てもらいたい。あとは今日話していたら、この町にいる人も含めて、いいところだなぁと思って(笑)。

一同 (笑)

榎本 だから望む人がいるなら、移住もぜひしてほしいですね。食堂をやっていると、移住の情報がないか問い合わせがあるんですよ。この前もリピーターのご家族が「そろそろ移住しようと思って」と話していて、私に何かできないかな、と考えています。

― この地域を愛する人たちが、着実に増えているんですね。

井出 弟子屈町は人口減少がすごく進んでいるので移住も重要だし、あとはもうひとつ、子どもたちが戻ってきたい町にしたいです。
子どもたちと接していると、「ずっとここで過ごしたい」と思っている子が多い気がして。けれど、やりたいことをやるための勉強や就職が、ここだけじゃ足りない可能性があるんですよ。それで外に出た後、戻ってきた子たちが川湯のどこかに就職するにしても、仕事が必要でしょう。ここが大好きな子どもたちが、戻りたいときに戻ってこられる場所があるようにしたいですね。

片瀬 私も高校を卒業するタイミングで川湯で仕事を探したんですけど、現状だと正直、選択肢は少ないと思います。たまたまこの仕事を紹介してもらわなかったら、私が弟子屈の外に出る未来もあったはずで。あとは住む家もなかなか見つからなくて……移住してくる方がよく家を探してますよね。
せっかく「戻りたい」「移住したい」と思う人がいるなら、いつでも歓迎できる町にしたいなって思うんです。だから、仕事も家も含めて外から入りやすい環境を整えて、川湯を「戻ってこられる場所」にしていきたいですね。

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取材・執筆:菊池 百合子
撮影:中西 拓郎、國分 知貴


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