【創造のタネとは】 鈴木康広展 「ただ今発見しています」
「台風一過の青い空」を、「台風一家の青い空」だとかなり長い間思い込んでいた。そうか、台風家族の末っ子は青い空なんだ、お父さんお母さんは足が早いから置いていかれちゃったんだ。だから台風が通り過ぎた後はスカッと晴れあがるんだ、と妄想していた。全て間違っているわけではない辺りがわけわからない。
私の脳は、回転させればさせるほど真実から遠のくシステムを搭載している。
「サミット参加国」を「サミット3カ国」と聞き間違えた時は、業務に支障が出かけた。訳しながら「残りの4カ国は欠席してるのかな」などと不思議に思っていた。妄想に立脚した疑問は、やはり真実から遠ざかる。「そもそも」論である。
だが、そういった些細な思い違いや聞き間違いが、アートの種になることもある、らしい。
それを視覚化してくれたのが、こちら。
「ただいま発券しています」という切符売り場の自動音声を、「ただいま発見しています」と空耳したことが、そのままタイトルになったそうだ。「発見」についての話は、大抵が「過去」の話だ。でも、このタイトルの「発見」は、現在進行形。人間は、いつだってどこでだって発見することができる。能動的に、自由に。
「上」と「下」の立体展示では、下に「上」があると「上」になり、同じ造形物が上にあると「下」になる。
眼が描かれた葉っぱが舞うと瞬きが舞い散る「まばたきの木」。クリーブハイプさんの「愛の点滅」は、それにインスパイアされた作品だそうだ。
ファスナーが、水面を開いていく。この船、まだどこかに保管されているらしい。また現れてくれないかな。この光景に、会いたい。
コンパクトな展示だけれど、小さなものも含めて逐一面白かった。足元にもたくさんの言葉が咲いていた。子どもがたくさん楽しんでいた。
自分の聞き間違いや思い違いも、もしかしたら何かの作品のタネになるかも知れない。そう思ったらワクワクして救われた。
台風一家のパラパラ漫画とか、誰かいつか作ってくれないかな。他力本願にすぎるかな。
明日も良い日に。