山形 大沼百貨店に見る事業再生の難しさ⑤
山形 大沼百貨店倒産に関する最初の記事をアップしたのが2月。
なぜか3月、4月になっても大沼関連のアクセスは増え続け、私も「?」だったのですが、以下の記事が3月半ばにアップされたことを知り、ウイルスとか色々ある中で、まだまだこの件は社会の関心を集めてるんだなと思い、ついに連載5回目です。
今回のテーマは大沼の事例から考える「事業再生の難しさ」と再生できるかの分かれ目になる「現実を直視する力」です。
大沼のケースは「地方企業の縮図」であり、考えさせられることが多いです。企業経営や地方創生に関わる方に読んでいただければ幸いです。5分程度で読めます。
東京商工リサーチ(TSR)「大沼」2年半前の幻の破産
この記事で明らかになったこと
・2017年5月時点ですでに大沼は資金ショートし、破産状態にあった
・大手家電量販店、百貨店、投資会社にスポンサーを打診し、再生ファンド
など4社の投資会社が買収を検討し、最終的にMTM社にスポンサー決定
・その裏側で密かに大沼の関係者らは破産と会社更生法を検討していた
この記事で明らかにならなかったこと
・誰が何の意図でこの時期にTSRの取材に応じたのか?
・なぜ、2年半前の段階で破産を選択できなかったのか?
他の企業にとっても重要な点の抜粋
「破産の5年前に抜本的な再生計画を立てていれば、大沼の歴史は変わっただろう。だが、ルールに縛られ、目的を達成できない状況だった」と裏側の事情を明かした。
再建には大沼の創業家、ステークホルダー、地域など、それぞれが覚悟と責任を示すべきだった。だが、既存ルールが壁になり、抜本的な改革はできなかった。取引銀行も大沼に長期間、様々な支援を続け、「限界の狭間で苦悩した」(関係者)という。
泥沼にはまった名門企業には、しがらみも多い。大沼の破産は、地方の名門企業が陥りかねない「将来の縮図」かもしれない。
考察
・「明らかになったこと」は概ね過去記事で想定した内容の範囲内
・「明らかにならなかったこと」の疑問は残るが、
「他の企業にとっても重要な点の抜粋」にある「ルール」は法律ではなく
銀行、大沼側の何らかのルールと想定される。
・職業上、厳しい守秘義務のある弁護士は取材に答えないので、この記事は
銀行、大沼側に取材したものと考えられる
「現実を直視する力」は残っているか?
これまで地方企業の再生に関わってきた私の経験と、今回の大沼の件を踏まえ、改めて考えさせられたのは「現実を直視する力」です。
再生のためには現実を直視しなければなりません。
しかし多くの場合、現実とは身も蓋もなく、しがらみに何のソンタクもなく、既得権に不都合です。
例えば、以下のような内容です(大沼のケースではなく一般論です)
・地域の人材が流出する中、本店移転や業界転換も戦略の一つである
・取締役5名中、3名はマネジメントとして機能していない、降格が望ましい
・創業者の思いつき事業のA店舗は赤字垂れ流しであり、撤退すべき
こういった口にすると嫌われそうな「不都合な現実」を直視できるかが大きな分かれ目になります。
投資ファンドはコンサル、弁護士、会計士らと連携し、買収前にその企業を徹底的に調査します。場合によっては内部の人よりもその企業に詳しくなることもあります。(取締役会議事録など、一般社員に開示されない資料も確認するため)
そこから再生プランを立てますが、企業によっては内部の人、特に幹部にとってはシビアな内容になります。
そのプランを示した時に
「認識していました。競合も厳しい中、うちだけ例外ってわけにはいきませんよね。私にも責任の一端はあります」
となって同意してもらえるか
「ふざけるな!業績が悪化したのは俺の責任じゃない!社長のせいだ!そんなことを言うやつは出ていけ!よそもの!! (以下、罵詈雑言)」
となるかは大きな差になります。(当然、ファンド側は相手側に配慮し、丁寧に説明します)
この「現実を直視する力が残っているか」は再生プランの実行に大きく影響します。
前者だと非常に楽で、淡々とタスクをこなせば業績改善します。
後者になると大変で、客観的に事実を示しているだけなのに、ファンド側を悪く言い、酷い場合は暴言になります。
私も実体験として「人殺し」と罵られたことがあります。(完全に言いがかりですので、いい迷惑です…)
確かに、ファンドが株主になると
・創業家一族は株主から外れ、取締役も退任
・不正をしていた社員は全員懲戒解雇
・その代わり、不遇な扱いを受けていた社員を登用
のように過去の膿を切り出しますので、望みませんが、結果的に「嫌われ役」になってしまうケースはあります。
社内的には権力者だった役員に対しても厳しいことを突きつけますので、会議が荒れることもあります。ここが、事業再生の難しさになります。
状況的に「嫌われ役」が必要な場合もあるので、そこはプロの覚悟をもって引き受けます。「1人のために9人が死んではならない」という「みんな仲良し」を捨てる覚悟が必要になってきます。
ファンドの仕事にあこがれる金融、コンサルの若手がこの記事を読んでいたら恐縮ですが、正直、メンタルと体力がタフでないならやらない方が良い仕事です。
大沼に現実を直視する力は残っていたか?
大沼の場合、第2回で書いたように、本格的に経営の悪化する2005年より前に、現実を直視し、抜本的に経営を見直す(業態転換、他の小売の傘下に入るなど)必要があったと私は考えています。
その段階で、
「外部から不都合なことを言う人達を引き入れて、しがらみを超える覚悟」「誰かが嫌われ役になる覚悟」
「権力者に不都合なことを言って理解してもらう覚悟」
が大沼関係者にあったかどうかだと思います。
これは、言うは易し行うは難しで、業績が本格的に悪化する前に厳しい判断をするのは非常に合意を得にくいですが、一方で傷も小さくなります。
時間が経過し、業績が悪化するほど経営の選択肢は減っていきます。
好業績の会社には、必ずといっていいほど「厳しさ」があります。
大沼の事例を踏まえ、厳しい状況にある会社、特に地方の会社が「みんな仲良しを捨てる覚悟」について考えていただければ幸いです。
また別記事で書きますが、地方の人材は15年連続で首都圏に集まっています。企業も8年連続で地方企業が首都圏に移転する「移転超過」が続いています。
人材が地方を離れる理由の一つに「しがらみ」があります。
実際に「しがらみ」を嫌って本社を東京に移転した地方企業もあります。
みんなが「しがらみ」に囚われているうちに、人材も企業も地方からいなくなる。この現実を直視できるかが、分かれ目になると私は考えます。
その一つの例が、以前書いた京都の事例です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
過去記事 検証 大沼百貨店倒産
第1回:どうすれば生き残れたのか?
第2回:伏線はもっと前
第3回:"うさんくさい"ファンドがなぜ選ばれたか?
第4回:続報 倒産から1カ月 割と悲しい現実
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