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サツマイモ・リアリティ

先週生協さんでサツマイモを注文していたのに、
それを忘れて今週また買ってしまった。
我が家の冷蔵庫はサツマイモ祭り。

(※生協は前週注文したものが、今週届くしくみ)

大量のサツマイモを目の前にして
私は中学生時代の美術の時間を思い出した。

私は美術が決して得意ではない。
でもそこまでド下手でもない…と思っていた。
あの時までは。

~~~~~

中学一年生のある日の美術の時間、

校庭のどこでもいいから写生しましょう

という課題があった。

今でも忘れもしない。
その日は秋晴れの大層よいお天気の日で
校門から校舎に続く両側に欅のある道を
私は遠近法を使って描いていた。
欅の葉はいい感じに紅葉しており、
空は雲一つない快晴。
真っ青だ。

写生、というのは
見たままを書くものだから
私は欅の葉には色鮮やかな黄色や赤やオレンジの絵の具を
空は青のグラデーションで濃淡をつけて描いていた。

我ながらなかなかの出来。

と思って満足しているところに
美術教師はやってきた。

私の絵を見るなり彼女…美術教師は怪訝な顔をして

「空が青すぎる。」

と言って、私の絵をおもむろにとりあげた。

すると彼女は絵筆にたっぷり水をつけて
私の空をなんとか薄くしようと
何度も”私の空”を絵筆でなぞる。

けれども”空”の絵の具はすっかり渇いていたために
彼女が何度水をたっぷり含んだ絵筆でなぞっても
ちっとも薄くならない。

「仕方ないね。」

と言って彼女は私を連れて
校庭の隅の水道まで行った。

するとあろうことか、
水道から水を出し
”私の空”を洗い始めたのだ!

がーん

と本当にこんな音が頭に響くぐらい
ショックだった。

私の空、水道で洗ってる!

真っ青だった”私の空”は
水道で洗われて他の絵の具の色と混ざりあい、
どんより曇り空になった。

美術教師は満足して

ヨシ!

と言った。



どこがヨシじゃー!!!
ドイヒー!!!



と今の私なら
悪態の一つや二つ…
いや10個や20個は
心の中でつくのだろうが
当時はいたいけな中学生だったので
それはそれはがっかりしてうつむいた。

それと共に、
私って絵の才能ないんだなあ
とすっかり絵に自信をなくした。

それから時は流れ、一年後。
中学2年生の秋だ。

芋掘り遠足の後の美術の時間に

遠足の思い出を描きましょう

という課題が出た。

私はサツマイモのインパクトを狙い、
土とサツマイモとツルを大きく全面に押し出す
ちょっとデフォルメしたサツマイモを描いた。

それは自分でも上手く描けたと思っていたのだが
何かが足りないような気もする。
美術教師はこの絵を見てなんと言うだろうか…

美術教師の彼女はみんなの机を回って、
一人一人にアドバイスを与えて行く。

先生はなんと言うかな?
もしやまたサツマイモが洗われちゃう?

ドキドキしながら彼女がやって来るのを待つ。

一人、また一人と彼女は級友の机の間を
うなずいたり、アドバイス与えたりして
近づいてくる。

そしてとうとう後ろからやって来た彼女は
私の机の横で立止まる。

審判の時。
緊張が走る。

待ち望んだ彼女の口から発せられた言葉は、


「写実性が足りない」


だった。


写実性?

国語が好きだった私はすぐに正岡子規を思い出した。

ああ、あの野球が好きな横向き写真の人。
(わかる?)

柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺、だ。

ふふーん、なるほどね。
私のサツマイモにはリアリティが足りないってことかな?

と私は勝手に解釈し
このサツマイモにリアリティを出すにはどうしたらよいかを考えた。

その頃私の両親は家庭菜園にハマっており、
家庭菜園というには広すぎる、
もはや畑ともよべる敷地で色々な野菜を作っていた。

中でもサツマイモは家族みんなが好きな野菜だったので
両親もたくさん作っていたし、
私も何度も掘るお手伝いをしていたので
掘り立てのリアルサツマイモを私はよく知っていた。

もう一度絵の中のサツマイモをよく見る。
何が足りない?

私はピンときて急いで描き足した。



リアルサツマイモ


そうだ、そうだ。
掘り立てのサツマイモにはヒゲがある!
と自分の思い付いたリアリティに気分を良くし、
無数のヒゲを描き足した。

するとどうだろう。
あろうことかそれはサツマイモというより
巨大なピンクのくっつき虫のようになった。

ああ、これはヤバイ。

と思った時には後の祭り。
修正の方法が思い付かない。

また水道で洗われる覚悟で彼女のところへ持って行く。

するとしばらく私の絵を眺めたかと思うと
彼女はにっこりして

いいですよ。

と言って私の課題はあっけなく終わった。

あれ、いいんだ…

あの中1の時に描いた青い空はダメで
毛むくじゃらのサツマイモがよいとは
芸術って理解不能だ。

そう思った数日後。

教室にみんなの描いた芋掘り遠足の絵が張り出された。

みんなが普通のサツマイモを描く中、
写実性を重視した私のサツマイモは異様で
張り出された途端、
早く剥がしてくれないかと
私は心の中で思った。

誰にも無数のヒゲを指摘されませんように。

そればかりを祈った。

しかしこんなツッコミどころ満載な絵を
友達が放っておくわけもなく

みずたまのサツマイモから毛がたくさん出てるー!

とクラス一おしゃべりな男子に見つかり
みんながドッと笑った。

すると親友の一人が

今日からみずたまのあだ名はイモゲ(=イモの毛)にきまりだね。

と親友とは思えない発言をした。

~~~~~

あれから何年の月日が経っただろうか。
30年ちょっと?

今年も年賀状の季節だ。
中学時代の友人が年賀状に書いてくる挨拶は一つしかない。

「イモゲ、元気?」


毛むくじゃらのくっつき虫のようなサツマイモの絵を添えて。


買いすぎてしまった大量のサツマイモを前に
私は美術の時間というアオハルを思い出した。



#絵がトラウマ #外でイモゲと呼ぶのはやめて#アガサクリスティみたいなタイトルになった#私だけかもしれないレア体験




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