俳優みたいな男
いらっしゃい。
お、お兄さんイケメンですね。なんか見たことある気がします。
顔立ちがはっきりしてて、睫毛なんか俳優さんみたいだ。
そうだ、今日は気分がいいから面白い話をしてあげますよ。
カカシってなんか不気味だと思いません?
カラスや害獣から作物を守ってくれるのはとても助かるんですけど、なんかねぇ。
こっちをじっと見てくるような気がするんですよねぇ。
私が小さい頃住んでいたのは田舎の小さな村なんですけど、そこにはこんな言い伝えがありましてね。
「******」
っていうんですけど、あ、これあんまり言いふらしたらだめですよ?
万が一なんかあったら困りますからね。万が一ね?
その言い伝えの内容っていうのが、結構面白くてね。
どの時代にも悪党ってのはいるもんじゃないですか、やはりわたしの住んでいた村にもいまして。
当時は、「嘘ふき」と呼ばれていたらしいのですけど、今で言ったら詐欺師みたいなものですね。
その「嘘ふき」は、主に年をとった老人ばかりを狙っていたらしいのですよ、たちが悪い。
その日もいつもと同じように、とある老婆に狙いをつけて金をせしめに行ったらしいのですが、これが大当たり。
老婆はとても優しく、「嘘ふき」が嘘をついているなんて疑いもせずお金をかしてあげたんですよ。
「嘘ふき」は、これに味をしめその老婆からどんどんだまし取っていった。
その結果、その老婆はお金に困り家で一人亡くなっていたらしいんです。
亡くなったのが、お金のせいなのかはっきりとはしていないんですけど、私は関係していたのではないかと思いますね。
村でもそのことが噂になり、犯人の男が捕まったらしいんですよ。
それが意外な人物で、みんなから親しまれていた好青年だったらしいんですよ。
みんなびっくりしたらしいです。その好青年が今までしてきた悪事というのが明るみに出ましてね。
村の皆で話し合った結果、男を処刑しようということになったらしいんです。
その処刑方法というのが結構残酷で、
まず、男を棒にくくりつけて動けなくするんですよ。その後、顔に布をかぶせて外に野ざらしにします。
すると、勝手に息絶えて処刑完了ということらしいんですけど、残酷ですよね。
身体は鳥が食べてしまって骨だけが残るらしいです。
その様子はまさに「カカシ」なんですよね。
本当は、鳥を追い払うものなのに、逆に鳥がわんさか寄って来るんですよね。
おかしな話ですよね。
こんな話を、小さい頃に母親にされましてね。
その日からカカシなんだか怖くなってしまって。
未だに苦手なんですよ。なんだか見られている気がしてね。
そういえばその母親が、先月亡くなりまして。病気もなくて元気だったのにですよ。
何かと思ったら、何やら詐欺に引っかかってしまって。
私の父は、若い頃に亡くなっていたんですが、詐欺師はそこに目をつけたらしくてね。
母親は、男に貢ぐだけ貢いで最後には、男に裏切られて自殺してしまった。
悔しいんですよね。
今考えると、おかしなところもあったんですよ。
恋人ができて、更には結婚まで考えていると、母親は私に報告してくれました。
それで、写真を見せてもらったんですけど、その男は母と比べると不自然なほど若くてね。ましてや、とてもイケメンなんですよ。睫毛が俳優みたいな。
まあ、今は年の差婚も珍しくはありませんし、楽しそうに話す母親になんか言うのは無粋な気がして何も言わなかったんですよ。
その結果がこれですよ。
私は許せなくてね。若い頃に父親を亡くして女でひとつで育てくれた親をなくしたんですから。
私は、復習することを心に決めました。言い伝えのようにカカシにしてやろうと。
それから犯人の顔だけを頼りに探し始めたんですよ。
時間はかかったんですけど、もう少しってところまで来ました。
あれ、どうしました?
汗がすごいですけど、室温下げますか?
あ、もう帰られるんですか。残念ですね。最後にもう少し話してみたかった。
すごく眠そうですけど立てますかね?
まあ、立てるわけないですよ。これだけお酒飲まれたらね。少しばかり話しすぎたみたいです。
それにしても、お客さんは俳優みたいだ。母が惚れるのも納得ですよ。
やっぱり、今日は気分がいいですね。
少しだけ、カカシが好きになりそうだ。
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