【読書感想文】月ぬ走いや、馬ぬ走い


「〇〇から△△まで幅広く〜」という表現をよく目にする。
本書を読んだあと、この物語の茫洋さと細密な生々しさを表現する言葉が僕には無いなと思った。沖縄戦から現代まで幅広く。嘉数高台で戦う兵士からハメ撮りで騒ぐ中学生まで幅広く。どれもしっくり来ない。強いて言うなら「人生から人生まで」かもしれない。もはや幅や高さや奥行きでは表現しきれない、高次元的とも言ってもいい「人生」が、14の視点で接続されていく。

とっっても、すっっごく、面白かった。
同時に、僕は本書をどう面白がったのか、という自分自身への疑問も残る。ひとつひとつの語りは別に笑えるものじゃないし、人生っていろいろあるよなという月並みな感じでもない(そもそも、人生は"面白い"のか、人生を物語と同列に語っていいのか、というのは僕の長年の問いでもある)。

この面白さの要素として、間違いなく沖縄という舞台が大きく作用していると思う。僕がウチナーンチュだからという贔屓も5ミリくらいはあるかもしれないけど、少なくとも、この14の語りは沖縄でしかありえないものだ。住民を巻き込んだ地上戦の記憶が残る沖縄で、米軍統治下を必死に生き延びた沖縄で、その傷跡がじわじわと遺伝する沖縄で、だからこそ生まれた人生であり語りである。

クソアホみたいな感想を正直に述べると、「小説みたいだな」と思った。小説なんだけど。
どちらかと言えば、岸政彦先生の生活史プロジェクトを思い出しながら読んでいた。生々しい実体験が、生々しい言葉でそのまま描かれた生活史を、僕は小説みたいだなと思って読んでいた。起承転結もなければダイナミックな展開があるわけでもない(たまにある)んだけど、だからこそ愛しいなと思う。
本書には愛しいなどと言ってる場合じゃない話もたくさんあるんだけど、だからと言って無下にはできなくて、それもその人の人生で、限られた選択肢のなかを走り回る足跡なのだから、僕らはその足跡を見てなぜこうなったのかを考えていく必要があると思う。たしかにこれは小説だけど、でも恐ろしいほど現実の沖縄と地続きで、少なくとも沖縄の人たちは、自分や自分の周りの誰かと重ねながら読んだのではないだろうか。

小説のはずなのに、上間陽子先生の本を読んでいるときのような、胸が痛んで憔悴と反省に潜っていく感じがする。それなのに、小説だからか、すらすらと読みやすい。不思議なバランスの本だ。

個人的には島尻大尉のところが一番好き。なぜか一番自分に重ねて読んでた。めちゃくちゃ仕事とプライベートと中間管理職の話やんけと思ったし、あの問題の部下のところは色々想像したくなる余地がある(そういう意味ではscpぽいとすら思った)。
いやもう全部好き。面白かった。

本書の特徴はなんといってもあの語りの接続の仕方だと思うけど、あれがむしろ一番リアルかもしれないね。人生はふとしたタイミングで他者と繋がって、無自覚なポイントで誰かと影響しあっていて、その繰り返しだもんね。
いやはや、面白かった、、、

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