電子媒体は本当に文化財の保存に適しているのか

私はデジタルアーカイブ化に携わってきました。

こういった活動の目的としては、歴史的資料のデジタル化による長期保存や活用が挙げられます。

スキャナーやカメラなどによる電子機器によって、版木や石版に紙といった媒体に刻まれた情報をデジタル的に再構築し、新たな電子媒体に保存します。

撮影現場で目の当たりにする文化財は、ほとんどが修復を必要とするほど傷んでいることも多かったです。
そのデジタル化には大いに価値があったと自信を持って言えます。

しかし、電子媒体として残すこと自体が本当に保存方法として最適なのかというのは甚だ疑問です。
紙、石、粘土、木と自然物から生み出された媒体は、数百年数千年単位で生き残ってきたことを見逃されがちです。
一方で再現性や複製に長けたデジタルデータは保存の観点から言うとむしろこれほど脆いものはありません。
ハード上のトラブルにそれを読み込むソフトウェアのトラブル、記憶装置の紛失やコーデックの不適合など、ただの画像データの取り扱いにもたくさんの危機が予想されます。

また、保存するということに重きを置きすぎて、ただ撮影して記録したから一安心。現物はもう無くてもいいということにはなりません。
デジタルデータは予備に過ぎず、あくまでも本物あってこその偽物といった扱いに過ぎないです。
だからこそ記録者として模造品の作成や撮影データの公開については人一倍気を使います。

電子媒体は保存自体が目的では無くて、データとしてどのように扱うか、何に利用できるか、オリジナルの価値を高めることに繋がるかといった点に重きを置かないといけないのです。

最近、NFT (Non-Fungible Token) という言葉が話題になりました。
複製可能であり符号化しない限り代替可能であったデータ資産に、オリジナルの概念を導入したと言う点で面白い技術だと思います。
今まではデータとして作られた作品は、法律や倫理の点を除いて技術的にコピー可能な状態で、著作権の無法地帯と化していました。
オリジナルが確立されることによって、物理空間上の骨董品のように価値を損なわずに扱うことが出来るのは画期的です。
私の思う文化財とそのデジタルアーカイブへの考え方にも近いところがあって、あくまでもオリジナルの価値は失われず利益も得られる形でデータの活用が活発に進めば、技術×ITとしてはかなり win-winに近い形で双方発展させられると気がするのです。

電子媒体も手段であって、あくまでも文化財を受け継ぐための保険に過ぎないことを覚えておかないといけません。
今後の課題としては、より多くの人間へ周知させるための活用方法を考えなくてはいけないと思っています。

世間ではマーケティングと言うらしいです。文化財にもマーケティングは必要なのだと思い知らされます。

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