スラムダンクの人物描写が眩しい

GW中は実家に帰って、のんびりとしてしまいました。
ついつい甘えがちになってしまうのは良くないですね。

実家にある本や漫画は定期的に見返すのですが、今日はふと目についたスラムダンクに読み耽っていました。
読む度に感情移入する相手も着目点も変わり、少しずつ作品への解像度が上がっていく感覚を覚えます。

今回の一番の発見は、登場人物達のデフォルメについてでした。

普通、物語は全体の流れがあって、それを切り分けた各部分で作者の思い描いた役割を登場人物が果たしていくことで進展していきます。
その際に、登場人物の属性はある程度分かりやすく読者に提示されなければいけません。余程設定や魅せ方が練られていない限り、ややこしい特性を持つキャラクターは扱いが難しくなります。
故に、性格や外見は一般的に受け入れやすい形で記号化されていきます。

ただ、曲りなりに創作をしてきた身として、このデフォルメの作業はなかなか骨が折れます。
登場人物はあくまでも枝葉であり、本筋から外れた要素が過多になると読者に迷いを生じさせます。
一方で、余りにも画一的な描写をしてしまうと、彼らが歯車に過ぎないことが透けて見えてしまいます。
息遣いを感じる人間性と物語の収束感はトレードオフの関係から逃れられません。
そのバランスが絶妙な作品こそ名作と呼ばれるのだと気づきました。

スラムダンクの具体的な例でいうと、山王の河田(兄)がかなり面白い役割を担っていました。
山王工業高校は秋田県代表、インターハイの第2戦で当たった全国連覇の絶対王者です。
湘北の精神的支柱である赤木を圧倒的な実力でねじ伏せるラスボス的存在が、河田(兄)でした。
エース沢北と共に最大の強敵として立ちふさがった彼は、作中でも屈指の描写がなされています。

まずは彼の強さの説得力。
本職センターでありながらガード、フォワードをこなした経験から身につけた多彩なテクニックを持ちます。加えて筋骨隆々のフィジカル。
理由付けとして成長期による体格の変化、それに伴ったポジションの変遷が作中で語られています。
現実的であるかは置いておくとして、試合中の絶対的なプレーヤースキルに対しての納得感はなかなかのものです。

もう一つは、主人公の桜木花道の実力をかなり高く評価している点です。
作中最終版の登場で、5巻分あるとはいえ実質1試合の関わりしかないものの、明らかに特別視している描写が見受けられます。他の誰も気づかないだろうプレーへの言及や怪我を心配しつつも手加減せずに相手する様子は、花道の成長を間近で見守ってきた読者にカタルシスを与えてくれます。
(ちなみに作中では仙道も同じく花道を高く評価しており、こちらもトップクラスの選手)

短い登場に反して、彼の果たす役割は重要かつ多岐にわたります。敵としての絶望感を与え、主人公の数少ない理解者であり、プレーヤーとしても緊迫した各場面には悉く姿を見せています。
これほど印象的なキャラクターはいないでしょう。

小説を時々書いていますが、こういった名作中の名作かつ屈指のキャラクターを目の当たりにすると、感動と併せて敗北感、最後にその完成された姿へ神々しさを感じます。
今まで読んでも気づけなかったのは、眩しさで直視できなかったからかもしれません。

以前感動した創作物に時間を空けて触れてみるのもいいなぁと感慨に浸ったGWでした。

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