【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 六
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「フンフンフーン、フンフフーン♪」
上機嫌で鼻歌を歌うマリーと、いつも通りの仏頂面をぶらさげた衛。
二人は今、白浜第三小を後にし、君島の自宅へと向かっていた。
彼らが小学校を出発する際に、林田は車で送ろうかと申し出てくれた。
だが衛は、これ以上お世話になってしまっては申し訳ないと、丁重に断ったのである。
林田が書いてくれた地図によると、君島の家は、小学校から歩いて十五分ほどの場所にあるようであった。
幸い、外は曇り空であったが、まだ雨は降ってはいなかった。
そのため、彼らはタクシーなどを使わず、徒歩で向かうことにした。
その間に彼らは、簡単な情報整理と、クールダウンを行うつもりであった。
「随分と機嫌が良いな」
「当然よ! だって、さっちゃん探しがこんなにスムーズに行くとは思わなかったんだもん!」
そう言うと、マリーはスキップをし始めた。
さっちゃんに辿り着くまで、あと僅かだ——そう思うだけで、マリーの心は弾み、大きく舞い上がった。
「上機嫌になるのはまだ早いぞ。その君島って人が、今のさっちゃんの居場所や連絡先を知っているとは限らないんだからな」
「だいじょぶだいじょぶ! 担任の先生だったんだから、きっと居場所を知ってるって!」
衛が忠告するも、マリーは上機嫌のまま聞き流す。
「ああ……楽しみだなぁ……! 早くさっちゃんに会いたいなぁ……!」
マリーは期待に満ちた表情を浮かべ、想像に浸っていた。
その様子を見て、衛は一度、肩を竦めるのであった。
それから十五分後。
二人は今、とある一軒家の前に立っていた。
立派な家であった。
少々年季は入っているものの、どっしりとした構えをしており、多少の揺れではびくともしないという自信が、家から湧き出ているように感じられた。
表札には、『君島和久』、『波江』と書かれてあった。
「……」
衛が地図を見る。
家の場所も一致していた。
間違いなく、君島の自宅であった。
「ここみたいだな」
「う、うん」
マリーがぎこちなく返事をする。
表情が固くなっていた。
「どうした。緊張してんのか」
「……ちょっとだけ」
声が震えていた。
どうやら、訪問する直前になって不安な気持ちが湧き出たようであった。
「肩の力を抜けよ。一旦深呼吸しとけ」
「う、うん」
衛の言葉に従い、マリーは静かに目を閉じた。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出していく。
そのまま、二度深呼吸をした。
「……うん、もうだいじょぶ」
マリーが目を開ける。
大分落ち着いたようであった。
それを確認した衛は、君島の自宅に向き直った。
「よし、行くぞ」
「うん」
衛がインターホンを鳴らす。
マリーはその様子を、静かに見つめていた。
君島先生が、さっちゃんの居場所を知っていますように。
さっちゃんに、辿り着けますように——そう願いながら。