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「家族」と「自然」は幸せの原点——絵本「14ひきのシリーズ」刊行40年

作者・いわむらかずおさんが語る「14ひきのシリーズ」【動画】


1983年7月に『14ひきのひっこし』『14ひきのあさごはん』が同時刊行されスタートした、「14ひきのシリーズ」

2022年、栃木県那珂川町の「いわむらかずお絵本の丘美術館」にて、「14ひきのシリーズ」作者のいわむらかずおさんへインタビューを行いました。

「14ひきのシリーズ」誕生の背景にあった“2度のひっこし ” 、「14ひき」を描くことへの思い、国をこえ、世代をこえ愛されるシリーズにこめられたもの――など、いわむらさん自身の言葉でじっくりと語った、貴重なインタビューです。

「14ひき」に出会えそうな自然豊かな美術館の風景も、今回の映像の大きな魅力となっています。

「14ひきのシリーズ」がうまれたとき――いわむらかずおさんの言葉

 「14ひきのシリーズ」の発想は、私たち家族の「ひっこし」からはじまりました。1970年、私が移り住んだのは東京、多摩丘陵の公団住宅でした。31歳の時です。周辺には雑木林や農家など田園風景があちこちに残っていました。雑木林との再会は私の心にしまわれていた原風景を呼び覚ましました。


いわむらかずおさんが最初の「引っ越し」をした、東京の百草団地にて(いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)

 それはあの悲惨な戦争が終わったあとの、家もなく食べるものもろくにない貧しい子どもの時代。8畳一間に8人家族が暮らす狭い間借り生活でしたが、両親が少しでも生活を改善しようとさまざまな工夫をするのを、小学生の私は見ていました。父が庭につくったバラックの台所と風呂場、濡れ縁の上の取り外し式屋根、布団収納兼ベッドなどなどです。外に出ると周りは広い雑木林でした。いつも日暮れまで兄弟や近所の仲間と駆け回って遊びました。夏の夕暮れのヒグラシの声、林を駆け抜ける風の音、山栗の渋の味、目にしみる風呂炊きの煙……。

 雑木林と再会しうれしくなって歩き回っているうちに、「14ひき」のイメージがふくらんでいきました。構想を練るうちに、これは自分にとって大切な作品になるに違いないと思うようになりました。私は主人公たちと同じような暮らしをしながら、この絵本を描いていこうと決め、物を創る若い人たちが大勢いる焼きものの町・益子を選んだのです。この2度目の引っ越しは、自然のなかの私たち家族の暮らしと「14ひき」の世界を重ねることになっていきました。

2度目の引っ越し先の益子にて、雑木林で家族と過ごすいわむらかずおさん (いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)


 1983年、『14ひきのひっこし』『14ひきのあさごはん』が同時刊行されシリーズが始まりました。

『14ひきのひっこし』『14ひきのあさごはん』(いわむらかずお・さく 童心社刊)

それから40年、シリーズは12作となり、今も増刷を続けています。海外では、フランス、ドイツ、中国、台湾、スイス、ルーマニア、ベルギーなど16か国語で翻訳出版され、読者は世界に広がっています。

2003年、フランス・モントルイユで行われたブックフェア会場でのサイン会の様子 (いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)


 1998年、栃木県那珂川町に、家族や地元の人々と力を合わせ、「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開設しました。絵本と自然の実体験がともにある、「14ひき」の世界の空間表現ともいえる美術館です。このごろうれしいのは、大人の来館者の多くが子どものころからの読者だということです。むかし好きだった絵本を我が子と共に楽しんでいる人たちが増えているのです。親から子へ孫への継承、ロングセラー絵本ならではの結実なのでしょう。


「14ひきのシリーズ」作者・いわむらかずおさん


いわむらかずお・プロフィール

1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。栃木県益子町在住。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひきのシリーズ」、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの? To See My Friend!』(童心社)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。2014年にはフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章している。


「14ひき」が描く幸せの原点「家族」と「自然」

いわむらかずおさんは、「14ひきのシリーズ」の物語を描いていくとき、2つのことを大事にしたと語っています。

ひとつは、自然をしっかり描くということ。

野原の草や花、森の木、そこで暮らしている昆虫や鳥など、作品の題材となる自然の姿を丁寧に取材します。

14ひきの視点になり、たんぽぽを見上げて描いた『14ひきのぴくにっく』、昼から夜の変化を何日も観察したという『14ひきのおつきみ』など、自然と向き合い多くの作品が生まれました。


益子にてスケッチをして取材するいわむらかずおさん (いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)
美術館のフィールドにあるため池で『14ひきのとんぼいけ』の取材をするいわむらかずおさん (いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)

もうひとつは、10ぴきの子どもたちを描き分けるということ。

いっくんからとっくんまで、個性豊かな10ぴきの子どもたち。それぞれにモデルがいるわけではなく、自分の中に1ぴき1ぴきが確かに存在しているのだと、いわむらさんは言います。

「絵で語る絵本作家になりたかった」といういわむらさん。『14ひきのあさごはん』のある場面で10ぴきの子どもたちを個性まできちんと描けたとき、「14ひきの絵本をつくっていくことができる」と確信したそうです。

『14ひきのあさごはん』(いわむらかずお・さく)童心社


いわむらかずおさんが創作の中でとことんこだわったのは、「家族」と「自然」を描くということでした。それはいつの時代も、どの場所にくらす人にとっても「幸せの原点」です。世代をこえ、国をこえ「14ひきのシリーズ」が愛されている理由もそこにあるのではないか、といわむらかずおさんは語っています。


「14ひきのシリーズ」40周年記念展開催中!

栃木県那珂川町の「いわむらかずお絵本の丘美術館」では、2023年6月3日(土)より「14ひきのシリーズ」40周年を記念して「ほら、みて! みつけた『14ひき』」展が開催されています。「14ひきのシリーズ」12作の貴重な原画を楽しむことができます。


「ほら、みて! みつけた『14ひき』」展ポスター (いわむらかずお絵本の丘美術館 提供)


◆ほら、みて! みつけた「14ひき」展
絵本のカバーと表紙で絵が違い、小さな物語が描かれていること、『14ひきのあさごはん』で、ろっくんがケガの手当をしてもらっているわけ、『14ひきのかぼちゃ』の生長とともに描かれたものは…。読者が知ってることも、知らなかったことも、作者自身が書き下ろしのエッセイで紹介し、世代を超えて読み継がれる「14ひきのシリーズ」の魅力にせまります。


前期:2023年6月3日(土)〜2023年9月3日(日)
後期:2023年9月9日(土)〜11月26日(日)

【いわむらかずお絵本の丘美術館】

〒324-0611 栃木県那須郡那珂川町小砂3097 TEL 0287-92-5514

HP http://ehonnooka.com/

いわむらかずお絵本の丘美術館

「14ひきのシリーズ」特集ページ


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