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テーマは良かったが中身が

 有名タレントの女性問題でフジテレビがCMの顧客にそっぽを向かれたことが報じられている。ジャニーズ事件は男色話だったがフジは女色か。やっていることは等しく不埒で、報道されない同様の不道徳はテレビ業界全般に蔓延っていると思われる。そのうち他局や他事務所も同じ憂き目に遭うのではないか。腐った病巣は膿を出すなり切除するなりして治すしかないから、これでいいのだ。治さないと社会全体が腐ってしまう。いやもう手遅れか。手遅れにならぬよう、人の道に外れる行為は身近で小さなものからこまめに正しておくのが良い。見て見ぬふりも程度問題なのだ。おかしいことはおかしいと言おう。言いにくかったら、せめて宇宙人のように頭頂をドーナツ状にねじれ上がらせて、「わが頭頂は宇宙人だからこのようにねじれるのであろうか、それとも地球人の皆さんもねじれているのであろうか」と不特定の読者に問い掛けよう。宇宙人は土星の裏側から問い掛けるが、皆さんは火星や天王星の裏側からでも問うてくれ。星は無数にある。このところ晴れると金星と木星と火星が日没後によく見える。土星も見えるが、今日は金星に近すぎてぼんやりだ。数日経てば離れてまた良く見えるようになる。世相も同じだ。時宜というものがある。

 先日、ロシア関係のイベントで「アニメーションは戦争体験をいかに伝えてきたか」というテーマのセミナーを聴きに行ったのだが、結論から言ってお粗末だった。東大の某研究センターが主催だというからさぞかし中身の濃い話が聴けるのだろうと期待して行った手前、ガッカリ感が深かった。テーマの組み合わせは新しくて良かったのだが、登壇者の力不足と中立性の欠如が露呈しており、それは宇宙人だけが気付いたことではなく、他の聴講者も気付いたほど明白であった。それほどお粗末なレベルだったということだ。
 ざっくり掻い摘むと、まず登壇者が二人しかいないのは仕方ない。土曜夜の開催で時間も短かったからだ。しかし一人目の、一見して日本人でない登壇者はそのプロフィールに出身地を書いていない。この人のテーマは『ジョバンニの島』という日本の降伏直後に北方領土に侵攻したソ連軍と島民を描いた90年代の日本アニメが主体だったので、登壇者が旧ソ連人なのかそうでないのかのバックグラウンドは重要な要素となる。それを故意に隠したところがまず「宇宙人の頭がねじれる」点であった。正直に「ロシア人です」と言えばいいではないか。戦後80年で今更現代日本人が文化セミナーでロシア人を糾弾するとでも思ったのだろうか。韓国人じゃあるまいし。ねじねじ。
 しかも発表の内容が、「『はだしのゲン』ではエノラ・ゲイの搭乗員(勿論米国人)がほんの数秒、血の通わない非情な人間として描かれているが、『ジョバンニの島』では歯舞島に以前から住んでいたソ連軍人とその家族との交流を描き、日本人島民が侵攻者としてのソ連人を憎みきれない、つまり血の通った人間として接している」という結論へ導くものであった。ロシア人としては手前味噌な結論なので、学術に必須な公平な視点の欠如を指摘されかねない。だからそれを補うためにあれこれ資料を作ってきて見せるのだが、その資料が既に公平性と中立性を欠いており、聴講者から早速その点へ質問が飛んだ。厳しいツッコミというやつだ。さすがロシア関係の聴講者だ。「見て見ぬふり」が常態化した一般人とは違うぞ。
 ここで宇宙人はデジャヴを見る。その太った登壇者(ロシア人かもしれないしウクライナ人やベラルーシ人かもしれない風貌。日本語は流暢だがロシア語風の訛りは否めない)は聴講者からの厳しいツッコミを受けた時、とっさに質問の主旨がが理解できないというフリをして笑ったのだ。あれあれ、どこかで見た顔だ。そうだ。何度も見て来たぞ。学生時代もロシア滞在中も。日本語ができるが、本人が思っているほど高いレベルではない日本語であることを、本人だけが知らないロシア人学者や学生にありがちな顔だ。エリート意識が謙虚さを駆逐した人間の顔だ。一番最近では、ウクライナ侵攻直後にロシアとウクライナ双方の駐日大使の言い分を比較したニュース動画で見た顔だ。ロシアは確かガルーシン大使だったかな、この人もあまり誠意ある顔つきで話してなかったが、ウクライナ大使よりはマシだった。ウ大使はロシア大使の言い分を先に動画で見てからコメントを求められたのだが、その時の顔がコレだった。人をバカにして嗤う歪んだ顔だ。自分だけが正しくて、相手は常に間違っている、そんなこともキミは判らないのか、と目の前にいる日本人記者をも嗤う顔だ。実に胸糞悪いニヤケ顔である。そこには根底にエリート意識があるので、エリートでない人間はこういう笑い方は基本的にしないし、できない。日本人でもたまに外国かぶれの「意識高い系」に見受けられるが、顔の作りは日本人なので彼らとは違った顔つきになる。ロシア近辺の民族がこの笑いをすると、太っていようが痩せていようが判で押したように同じ形に歪む。だからデジャヴが起こったのだ。勿論いずれも不愉快な思い出と共に。

 その厳しいツッコミをした聴講者は大人の日本人だったので、「セミナー後半に設けられたフリーディスカッションの時間に改めて伺います」と一旦引き下がったのだが、宇宙人はあのニヤケ顔をまた見せられるのは不快だったので、フリーディスカッションの前に退場した。だからどうやって問題が解決を見たのかは知らない。修羅場になったのかもしれない。
 せめて二人目の登壇者がしっかりしていたら終演まで聴講したのだが、二人目も同じくダメであった。こちらは秋田大学の老教授で、テーマはソ連時代の戦争アニメの表現分析と、現在のアニメ作家のウクライナ侵攻に対する態度であった。これも興味深いテーマだったので期待したのだが、内容は個人的趣味と感想の域を出ていない感じで、第三者に問題提起を促すような膨らむ話ではなかった。
 何より宇宙人がねじねじしたのは、ウクライナ侵攻直後は戦争反対とプーチン批判を内外に公言していたロシアのアニメ作家たち(ロシアのアニメはソ連時代から人形アニメで、その手間暇からアニメ作家は芸術家として尊敬されている)が、二年経った今ではプーチン擁護の発言をしているというところ。「どうして彼らの意見がこの二年で180度変わったのか、私には理解できない」というのが教授の結句だった。しかし宇宙人は佐藤優氏のマンスリー講義を聴いているので、当初戦争反対を理由にロシアを出国した大勢のロシア人が、西側諸国で展開されている米英プロパガンダの虚偽の世論操作を現地で目の当たりにして、「事実無根だ。西側はこんなウソばかり並べてロシアを悪者にしているのか。そんな西側に加担などできない。プーチンの方が遥かにマシだ」と次々と帰国したことを知っている。それほど最近の話ではない。開戦から半年後くらいにはもうそういう状態だったのだ。プーチンは徴兵を逃れたい国民が出国するのを禁止しなかった。そんな国民を兵士にしても役に立たないからだが、結果的に彼らは帰国し、プーチンの始めた戦争をやむなしと考えるようになった。アニメ作家らもこれと同じである。しかしウクライナでは成人男性は今でも漏れなく出国禁止である。こういった事実は日本では報道されない。報道も学術同様、公平・中立でなければ役に立たないのに。
 このアニメ学者がロシア語でネット検索できるほどの語学力を持っていながら「どうして彼らの意見が反転したのか理解できない」という発言の方が、宇宙人には理解しがたいのであった。ロシアの国営放送その他報道はネットで自由に視聴できるし、今般の戦争についてのロシア国内のディスカッション番組も検索できる。北朝鮮のような政権称賛しか許されない番組だと誰も見ないし信用しないので、議論には専門知識を持った学者や政治家、軍人らが参加する。番組は一般国民に人気である。ロシア文学を見よ。ロシア人はリテラシーが高いのだ。くだらない食レポ番組などロシアではバカにされるので見ないのだ。ウクライナ人とてリテラシーは高いはずだが、国のトップがテレビ業界人では仕方ない。倫理より視聴率の方が大切なのは、フジテレビやジャニーズと同じである。風景は通底している。そうではないのか、地球人の皆さん。

 そんなわけで、セミナーを中途退場する宇宙人であった。あの太った登壇者は名前が典型的なロシア名ではなく、もしかしたらイスラエル人かもしれない。しかし今のイスラエル人は過半数が旧ソ連からの移民なので、母語がロシア語である可能性が高く、実質上ロシア人(ウクライナ人・ベラルーシ人を含む)と同じだ。まずその訛りがロシア訛りであった。日本語はネイティブのレベルではなく、欧米人のアクセントとも違った。そんな外国人に日本は国立民族学博物館の研究員のポストを与えて国税から給料を支払っているのである。そこが業腹であった。
 外国の研究施設から給料をもらっている外人が日本で何を発表しようと勝手だが、日本人の収めた税金から給料をもらうからには、別に日本人におもねった研究をしろとは言わないから、せめて公平性と中立性を保った中身の濃い、人類全体の幸福にわずかなりとも寄与する研究をしてくれと言いたい。自分だけしか納得できない独りよがりな結論を導くための研究に、日本の税金も施設も発言機会も使ってほしくないのだよ。
 日本政府よ、税金の使い方をもっとしっかり監視せよ。こんなことだから少数与党に転落するのだよ。東大もだ。もっと発表の中身を精査してから世に出せなのだ。知的レベルを疑われても文句は言えぬぞ。尤も、宇宙人は最初不思議には思っていたよ。この種のセミナーを東大が開催する時は、必ずロシア研究の第一人者である○○先生や○○先生が参加して最後にコメントを出したりするのに、今回はたった二人の名の知れない登壇者と、やはり聞いたことのない司会の女性研究者だけだったからだ。アニメがテーマだったせいかとも思ったが、こんなお粗末な内容では一流の先生方は参加する価値を見出すまい。納得がいったのはこの点だけであった。
 ともあれ、『ジョバンニの島』は見たことがなかったし、その他戦争アニメ関連の書籍の存在も知ることはできたので、得るものがないわけではなかった。しかしやっぱりガッカリ感と不快な思い出の甦る一日であった。

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土星の裏側note
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