
氷上ワカサギ釣り体験
知床の冬の風物といえば何と言っても流氷だが、それ以外に何があるかと問われると地元の人でも考え込む。スキー場はあるけど余所にもあるし、オオワシやオジロワシは流氷と大体セットで見られる。海にはシャチやクジラがいて夏場は客寄せしてくれるが、冬は流氷に阻まれて陸に近寄らない。先日うっかり流氷に囲まれたシャチの一家が狭い海面にすし詰め状態で林立する映像を見たが、あんな事故は冬ならではとはいえ、別に名物ではない。スノーシューで歩ける散策路も全部回ってしまった。冬季車両通行止めの知床峠を同僚がスノーシューで踏破したが、往復7時間もかかったという。一本道だから遭難はしないが、天候が荒れると地獄の修行になるな。帰京まで一週間を切ったし、あとはどこへ行くべきか。
というわけで網走湖ワカサギ釣りにチャレンジする宇宙人。地元の人の助言で「テントとイス」をレンタルできる会場を選ぶ。入漁料と釣り具一式で2200円。テントは二人用2000円から。天ぷらセット1000円。網走までのガソリン代は往復2000円程度。テントを一人でレンタルするのは割高なので、有志を募る宇宙人。すると若人が3人集まった。でも社用車を支給されているのは宇宙人だけ。じゃあ宇宙人が運転するのかい。リスキーだな。宇宙人は先日サロマ湖で溝にハマったばかりだというのに。前夜は雪が降って道路は冠雪している。参加者の一人は北海道出身の学生なので運転を打診してみたが、宇宙人とどっこいの腕前という。学生じゃ仕方ないか。ではいざ、出発なのだ!
いまいちの天気の下、雪道をゴトゴト行く宇宙人。道中の「天に続く道」ではしゃぐ若人たち。宇宙人も初めて見た時は感動したっけ。でも最近は三度も自分の運転で通ったから見慣れてしまったよ。海沿いの道の左手に見えるはずの斜里岳は曇天で見えず。右手に見える流氷は今日もバキバキ。気温はやや高いが湖の氷が解ける心配はなさそうだ。
予定の12時に会場へ到着。雪が降って来た。受付を済ませて四人用テントへ駆け込む一行。テントは十基ほど並んで設置されており、中には既に釣り用の穴がドリルで空けられている。前日使った穴だが、数日放置すると再び凍るため、念のため専用ドリルを橇に載せてテントまで運ぶスタッフ。ドリルで穴開けするところを見たかったが叶わなかった。インストラクションを受けて折り畳みイスを穴の前に据え、さあ釣るぞ!
制限時間はなく、会場が閉まる午後四時まで好きなだけ釣って良いのだが、五分経ち、十分経ち…釣れないなあ。テントの外は雪が降り続き、風も強くなってきた。バタバタと音を立てるテントの中で、四人が無言で向かい合って釣り糸を垂れ、氷穴を見下ろしている。シュールな図だ。
20分経った。「百物語でも始めようか」と水を向ける宇宙人。「それは難しい。しりとりにしましょう」と北海道の学生。「北海道限定しりとりで」「いや待て、それでは君が圧倒的に有利ではないか」と反対する3人。「では知床限定しりとりにしましょう」。更に難しくなった気がするが、条件は公平だ。知床、子熊、マス養殖場、ウトロ、ロシア哨戒機、キンメダイ、イカいぶりがっこサラダ(これは宿のメニュー)、ダイヤモンドダスト…
「宇宙人さんはロシアでダイヤモンドダスト見ましたか?」
「毎朝見たよ。でも猛烈に寒い日だよ」
「どのくらい寒いんですか、モスクワは」
「2月に入国した時、耳の皮がごっそりむけたよ。一瞬で耳が縮んで脱皮したんだね」
「…トカップ(地ワインの銘柄)」、プユニ峠、幻氷(地酒の銘柄)、ウポポイ、岩尾別、鶴、ルイベ、ベ、ベ…
「あ、釣れた」
ようやく一匹目をゲット。この後はコツが掴めたらしく5分に一匹ペースで釣り上げてゆく四人。網走湖のワカサギは他所のワカサギより大振りと聞いたが、確かに大きいものは10cm以上ある。小さいものは5cmほど。どれも活きがよくておいしそうだ。天ぷらセットを借りるからにはある程度の数を釣らないとね。テントの外は既に嵐だ。しかし防風はしっかりしていて、中に風は入らない。四人もいるから意外と温かく、釣れば釣るほど楽しくなって寒さを感じない。
こういう遊びはタイパを気にする今どきの若人には退屈ではないかと思ったが、知床にバイトに来るような面々なので誰もがのんびりしている。寒さにも動じない。しかし足は氷に接しているからぼちぼち冷えて来た。しりとりのねたも枯渇し、時計を見るともう2時間以上釣っている。お腹も空いたし、そろそろ終えますか。
釣竿とイスを持って受付へ戻る四人。雪がすごく降り積もっている。帰りの運転が心配な宇宙人。とりあえず釣ったワカサギを天ぷらにして食べよう。20匹ほど。一人5匹か。HIコンロの並ぶ小屋へ移動し、片手鍋に入れた油と片栗粉をまぶしたワカサギを受け取り、ちまちま揚げていく。揚がったものから塩をかけて頂く。うまい。やっぱり捕れたて揚げたてはうまいな。でも到底足りない。あっという間に食い終わる四人。他にカップ麺や甘酒、おしるこ等も販売しているが、宇宙人の提案で網走駅前の北見食品で店頭揚げのホタテ天を食べに行くことにする。
この店は前回臨時休業で入れなかったが、今日は首尾よく開いている。パン屋のようにトレイとトングがあり、好みの揚げ天を選んでレジへ持って行くと、その場で揚げてくれる仕組みだ。珍しい店である。四人が入店すると、ちょうど各種ねたが陳列されるところであった。ホタテ天、イカ天、鯛天、野菜天、チーズ天…どれも北海道サイズで大きく、色々あって何だか楽しい。珍しいねたをササっと選ぶ宇宙人。空腹だったので四枚も買ったら、ずっしり重い。イートインスペースはないので車に戻ってかぶりつく宇宙人。結構なボリュームだが揚げたてで体が温まる。三枚目を平らげた頃に3人が戻って来た。皆さんを食わせておき車を発進させる宇宙人。3時半過ぎだが、夕方のシフトの入っている人のために真っ直ぐ帰ることにする。他にも色々観光できなくもなかったが、結局釣りだけの一日となった。皆さんは満足気だ。ちょっと意外。
いいなと思ったら応援しよう!
