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文学キョーダイ!!

 早朝ラジオを聴いていると、定額減税などという手間ばかりかさんで効果の薄い政策よりも、消費税を一律まるっと8%なり5%なりまで下げた方が、国民の消費意欲が上がり、モノが売れることで税収もアップし、労せずして国庫は豊かになり、賃金も上がって、景気は回復する、という至極まっとうな理屈をどの経済学者も言うので、宇宙人もその意見に賛成なのだが、もう何年も同じ話を聴き続けているにも拘らず消費減税は一向に実現しない世の中に、宇宙人は頭をねじらせている。財務省が何某かの理由でどうしてもこの案を受け付けないらしい。アクセルを踏みつつブレーキをかける我が国の経済政策。まあ宇宙人は門外漢なのでこれくらいにしておこう。
 同じくラジオで聴いた話だが、大阪万博とはその後IR(総合カジノランド)に転用する予定で誘致された代物だそうだ。開催が迫っているのに工事が遅れているとか、各国が出展を見合わせているとか、入場料が高すぎて集客が危ういとか、色々負の話題ばかり聞こえてくる割には危機感を煽らないのんびりした世間(或いは大阪)の態度が腑に落ちなかった宇宙人は、カジノに転用と聞いて合点がいった。カジノ運営で儲ける見込みがあるから万博で失敗しても心配ないというわけだ。そういえば大阪万博のマスコットキャラ、焦点の合わない両目といい溶けそうな体といい、まるで正気を失ったギャンブル狂のようではないか。このキャラを選んだ運営側のセンスを疑ったが、成程、もとよりギャンブル依存症を暗示したデザインだったわけだな。ならば秀逸だ。宇宙人は頭のねじれがほどけるのだった。

 ねじれがほどけても気分は良くならないので、やはり読書で正気を取り戻そう。良書の紹介だ。奈倉有里×逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』。以前奈倉氏の『夕暮れに夜明けの歌を』でいたく感動した宇宙人は、ほぼ同時期にベストセラー『同志少女よ、敵を撃て』を世に出した逢坂氏がその実弟と聞き、この対談本を楽しく読んだ。姉はガチのロシア文学者だが、弟は特にロシアとは関係がなく、でも結果的にどちらも文学の世界に棲むこととなり、価値観も似ていることから、これはやはり二人の育った家庭環境に秘密があるのではないかと目星をつけていた。果たしてその通りであった。実に痛快なご両親に育てられていた。どこかで見た風景だと思ったら、米原万里姉妹の成育環境に通底するものがあった。興味のある方は是非両書をお読み下さい。ここでは例によってお時間のない方のために、宇宙人の付箋を立てた個所を抜き出しておくよ。※印は宇宙人のつぶやき。

――「私にとって祖父は、トルストイが好きで明るくて優しいおじいちゃんは…「トルストイが好きで、農業をやる」という思想と生き方が一体化した人(だった)…心から尊敬できる生き方です。――
(※心から尊敬できる親なり祖父母なりがいることが、子供の精神を強く豊かにするのだ。世の親御さん、あなたは子供にとって「心から尊敬できる」人間ですか。そうでなければ、どんなに教育熱心にカネや時間を注ぎ込んでも、子供は真っ直ぐに成長しはしないのだ。)

――(軍隊で終戦を迎えた祖父の話として)敗戦が決まってから米軍が実際にやってくるまで、武装解除したのに海岸に並んでいた大砲をそのままにしておくわけにいかないから、ものすごい勢いで解体して、ひたすら海に捨てるという作業をずっとやっていた――
(※せっかく作ったのに使わずに解体したり破壊したりするのが現代社会…この不毛を止める議論を人類はした方がいい。環境問題云々よりも先に。)

――弟:(二人が育った家庭環境の話)割と放任主義だった両親が、こと文化に関しては、あんまり過激なものは見せたくないという思惑だけはあったような気がする。…やっぱり『ドラゴンボール』みたいな少年漫画ってあんまりいいものだとは思っていなかったようなところは感じます。戦って勝つというのがすべてだから。血も出るし。
姉:人が戦ったり倒れたりすることが中心の話、私はいまでも読めないんです。うちにはその基準はすごくありました。…(両親は自分達の子供に与える本として)いいものを選んでくれるという安心感があった。…安易に血なんか出さなくても面白い作品は作れるのにっていう認識がずっと(家庭内に)漠然とありました。――
(※宇宙人が子供の頃読んでいた少年漫画は、当然ながらバトルものも混じっていたが、それほど嫌悪感は抱かなかった。『聖闘士星矢』とか、岩山に叩きつけられても岩が砕けるばかりで全然死なないし、「所詮はマンガ」と思っていたせいかもしれない。でもハリウッド映画の暴力性は実写の主人公の正義とがっちり結びついていて、その主人公に全く共感できない(いつもそう)と、「独りよがりの正義」や「独善」が暴力と抱き合わせになるので、ただもう醜いものとして映っていた。二次元のマンガと違って汗とか血泥とか見た目も汚く不潔であった。暴力シーンのない作品であっても、制作側の意図した「正義」が自分の正義の基準に全然合っていないことが、宇宙人がハリウッド映画を観ていられぬ理由の一つである。)

――(両親はマンガでも映画でもその背景にある文化を子共に諭していたという思い出から)『風と共に去りぬ』ならスカーレット・オハラの造形の魅力を語りつつ、作品としては実は極めて人種差別的な価値観があるから、そこのところは気を付けてくれというような感じのことも言ってた。子供だからといってあなどらず、事実を伝える。
…『ベルサイユのばら』は読ませてくれたが、親はフランス革命が成立してからの後半の解釈がおかしいと思うとか、結構辛辣なことも言ってたな。王政というものに対する美化があるんじゃないか、とかね。…作品を批判的に見るということも教えてくれた。…いい作品の中にも変なところはあるし、評価が低い作品にも思わぬ良さがある…という読み方ができていた。…市場の選択というものが実はものすごく偏ったものだということを、親の方が何となくわかっていたということなんです。男女の恋愛がイコール素晴らしいという価値観から入ってもらいたくなかったみたいだし、戦って勝つという価値観で男らしさが決まるわけでものあいというのは分かっていた。――
(※宇宙人もこんなお宅で躾けられて育ちたかったなあ…)

――周りに合わせると一時的に楽なんですけど、長期的に見れば、自分の中の信念というものが死んでいく苦痛の方が勝っていくんですよ。――
(※そうそう、苦痛だし、自分自身に嘘をついている感じ。)

――やっぱり、本があればあんまり孤独じゃないよね。…本じゃなくたっていい、小説じゃなくたっていいわけです。本当に好きなことを楽しんでやっていると、いつか同じような人に出会えるんだよ、というふうに子供たちに言いたい。――

――本ってすごく思考に近いんですよね。人間の思考に一番近いものが文字であるというか、文章というものなんですけれども、映像ってそれに比べると格段に現実に近いというか、見ているものですよね。目に映るもの。で「何を考えているか」というのと「何が目に映るか」というのは、根本的にやっぱり違う。――

――人間関係で常日頃人が求めているものって、自分と共感できる相手と語り合えることであるとか、その反対の未知の価値観の持ち主と出会って「世の中にはこういう人がいるのか」という驚きを得たりすることだと思う。そういう体験は、実は小説でもできるんですよ。(なおクリスチャンはこれを『聖書』という本を以って行なっている)――

――高等教育の在り方って、言ってみれば国家から独立した人間を育てる過程でもあるわけですよね。一元的な教育から離れて知的に独立した人間を作るという。でも知的に独立した人間を作るという発想そのものを憎悪している節が、現在の日本には見られるように思います。単なる利潤の追求や実学志向とも違う、知性の独立を恐れるという。――
(※「知的に独立した人間を作る」くだりは、ロシアにおける高等教育で宇宙人も実見している。よくぞ言ってくれた。)

――(『同志少女よ、敵を撃て』が)2022年の年間ベストセラーランキングで小説部門一位を頂いたけれども、総合ランキングを見たら、他の本はみんな年齢の話とお金の話ばっかりしているんです。とにかく「金稼げ」「自己啓発しろ」「健康でいろ」という、そんな要素をみんな推している。出版業界の中でさえこれなんです。そんなに何かに追い立てられて、そして年老いていくことを恐怖するよりも、知的な営みの中に楽しい事って沢山あるよ、と教えられるのが小説だと思うんです。――

――現代は文字を書いて人に見られるという作業をあまりに大量にやらされ続けている。…シェアするために書く文章みたいなものを書く作業がSNSだったりする。…既存の言論にちゃちゃっと手を入れて尖ったふりをしたような文章が大量にシェアされる。それはあなたの本当に言いたい事ですかというような文章を、SNSでは沢山目にする。結局それって本人がすごく消耗すると思うんだよね。それが自分の言語世界になっちゃうっていうのは。――
(※そうそう、「消耗」するんだよ。いい表現してくれるなあ。皆さん、すり減ってませんか。)
――「小説とか本を読むのはなんのため?」って聞かれたら、答えは二つ。一つは、「必ず世界が拡張するから」。知る前の自分と読んだ後の自分というのは、確実にちょっとだけでも変わっている。…もう一つは、「そもそもなんで何かのためじゃなきゃ(読んでは)いけないの? 僕はこれが好きだから読むんだ。以上」で充分。――

 どうですか。文学が素敵に思えてきましたか。尤も土星裏の閲覧者は多かれ少なかれ読書愛好家であることは宇宙人も気付いている。土星の裏側noteを始めてからは尚更だ。ロシア文学に限らなくてもいいので、自分の内的世界を広げるために、宇宙人は土星の裏側から地球へ向けて文学を奨励するのだ。

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