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宇宙人の山レコ2024年8月

 「山宿すったもんだ」事件のせいで予定していた夏登山を遂行できなかった宇宙人だが、それより前に立山室堂から南へ下った五色ヶ原へ一泊登山をしたので、備忘録を書いておこう。
 この登山、やや印象が薄いのは、出発点の室堂が既に高所のため空気が薄くて記憶が明瞭でないことも一因だが、何と言っても初日は浄土山から雨になり、風がなかったことを幸いに道中傘を差して歩くことになったことが大きい。傘を差して歩けるほど危険の少ない山歩きだったせいで、あまり「登った」感がない。とはいえほとんどのハイカーが人気の立山三山を目指すのに背を向け、南へ延びるひと気のない登山道を突き進むと、視界はゴツゴツとした灰色の岩ばかりになり、雨に濡れて黒光りする岩の上に安全そうな足場を探して踏み進むのは、それなりの集中力と体力が要った。雨よけとはいえ傘は動きの妨げになるし。宇宙人は眼鏡をかけているから、雨や霧でレンズが曇ると足元が見えなくて危険なのだ。だから傘は重宝したのだが、なんだか登山している気がしない。クサリ場もハシゴもあったのに、構わず傘を差したまま下って行く宇宙人。街歩きのようで風情がないなあ。なお、このコースは往路が下りで、復路が上りになる。引き返さずに突き進めば憧れの薬師岳まで続く道だが、二日の行程ではとても到達できないので、五色ヶ原の真ん中に建つ山小屋に一泊したら引き返す予定だ。薬師岳はまた来季以降に持ち越しなのだ。

 道中の景色は、晴れていれば見どころが沢山あるのだが、霧に阻まれて視界はほぼゼロ。一本道のお蔭で道に迷う心配はないが、やはり楽しい気分にはなれない。今回も修行の山旅を耐え忍ぶ宇宙人。5時間半ほどで五色ヶ原山荘に到着する宇宙人。結構混んでいる。台湾からの団体客がいる。日本人だって滅多にここまで足を延ばさない秘境なのに、よく知っているな。
 五色ヶ原山荘は、事前の調べでは結構いい食事が出るというので二食付きにしてみたが、残念なことにそれは昔の話で、今は「食料持参すれば良かった」と思うほど割高感ある食事であった。それもそのはず、当地は致命的にも飲み水が枯れて来ているらしい。「事前の調べ」によれば、この山小屋はかつて水が豊富で、宿泊客は入浴ができたということだが、今や入浴どころか飲み水さえ有料なのだった。予約の電話を入れた時に「飲み水はできるだけ持参して下さい」と言われたので持って来たが、馬力のない宇宙人はあまり荷物を重くできないので最低限に絞った。500mlのペットボトルを二本。宇宙人にはこれが精一杯だが、同室の女性は3リットル持ってきていた。恐れ入ったよ。いくら往路は下りだからといって重いじゃないか。
 フロントに300円払ってコーヒーを淹れる宇宙人。飾り気のない素朴な山小屋にボタン式自動コーヒーメーカーがあるのは妙味である。インスタントコーヒーよりは美味しい。休憩室の本棚から『バリ山行』を選んで読み始める宇宙人。芥川賞作品なのだな。知らなかった。外は雨が上がってわずかだが夕焼けが見られた。翌日の天気予報を宿主に尋ねると「電波が届くので自分のスマホで見てくれ」という。スマホを見る宇宙人。場所が悪いのかな、繋がらないな。後で知った話では、この宿主は奥さんとの喧嘩が絶えず、アルバイトの女の子が間に入って仲裁するのが常という。こんな秘境の山奥で夫婦喧嘩かね。干上がっているのは飲み水だけではないようだ。
 幸い、翌朝は雨も乾き、天候は徐々に回復。復路は往路に見られなかった美しい山々や奇岩、湿地に広がるお花畑を堪能できた。特に登山道から遠くの山小屋を見晴るかす景観は、画像の通りメルヘンチックだった。赤い屋根が可愛い。

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