もしもあの時
Netflixにたまたま『オレンジデイズ』があることに気づき、昨日の夜からなんとなく見始めたらやっぱり面白くて、つい一気見してしまった。大学4年生のキャンパスライフが舞台で、このドラマが放送されていた頃、私もちょうど大学4年生だったので、ドラマに出てくるファッションとか東京の街並み、流れる音楽が当時の思い出とリンクして、とても懐かしかった。
主人公の二人がついに両想いになったとき、柴咲コウ演じるヒロインが「生まれてきてよかった、あなたに会えたから」的なセリフを言うシーンがある。
それを見て、あぁ、私もかつてそんなふうに思っていたこともあったなと、ふいにあの頃の純粋な感覚が蘇ってきた。
ドラマの中では主人公の二人は最終回でヨリを戻してハッピーエンドで終わったけれど、私は大学4年生のときに当時付き合っていた彼に振られた。私は就活のために自主留年することに決めていて、同い年の彼は一足先に社会人になり、彼の研修中に電話であっさりと振られたのだった。
当時はずっと一緒にいるつもりで付き合っていたので、その頃はとにかく悲しくて毎晩お風呂の中で泣いてたけれど、今日オレンジデイズを見て、「生まれてきてよかった、あなたに会えたから」的なセリフを聞いたとき、私はあの頃振られてよかったのかもしれないと思った。
雑誌の編集者になりたくて、もう一度就活をやり直すことにしたけれど、大学4年生のあの頃、もう一度就活したからって出版社に入れる保証なんてどこにもなかった。当時ファッション誌の編集者になることは本当に狭き門で、憧れてはいるものの、現実的には手の届きそうにない遠い世界だった。
あの頃もし彼に振られなかったら、もしかしたら大好きな彼と一緒にいられる幸せな日々に満足して、編集者の道を諦めていたかもしれない。どこかの会社に就職して、週末は彼とデートをして、本とか雑誌とかファッションは趣味として楽しむ。そんな生活も案外悪くないなと思ってしまっていたかもしれない。
振られた私は失うものもなくなり、二度目の就活で運良くファッション誌の編集者になるという切符を手にした。そして約20年経った今でも編集者としてなんとか生きている。
人生は選択の連続で、自分の選択がきっと一番正しい道なんだと思う。でも、もしあのとき別れてなかったらその後の人生はどうなっていたんだろう?と思わないわけでもない(私は振られた立場なので、別れるしか選択肢はなかったんだけれど)。そして20年後に近所のスタバで偶然会うことになるなんて、毎晩お風呂で泣いていた21歳の私は知るよしもない。
『マチネの終わりに』という小説に「過去は未来で変えられる」というようなセリフがあったけど、振られた苦い過去は、未来の再会によってなんだか懐かしい思い出として完全に成仏したような気がする。
ドラマはハッピーエンドで終わるけど、現実は当然ハッピーエンドの後も続くわけで、だから現実はドラマよりも面白いのかもしれない。