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【Medical Emergence Talk】#12〜怪我の王道治療に物申す!痛みを早く根本から治す方法とは?(前編)〜 


川尻:前々回まで2回連続「痛み」について話したので、今回は、実際の臨床の現場で何ができるか?を話しましょう。

朱田:具体的な対策を、もう少し掘り下げてみましょうか。前回は膝でやったんで、足首で考えてみましょう。

整形外科、王道の「痛み」治療をリポート


川尻
:いいですね!では、「足の捻挫で、びっこを引いて病院に来ました」みたいなケース。オーソドックスな整形外科での診療の流れは、どんな感じになるんですか?

朱田:最初に診察をして、圧痛があるか?腫れ具合はどうか?を見て、レントゲンを撮るか撮らないか?の判断をします。最近だと、はじめにエコーを当てることが多いので、靭帯がどれぐらい切れているか?など、損傷の程度を確認して、グレード1、2、3のどれかを判断します。

例えば、骨折のない純粋な靭帯損傷だとグレード1。僕だったら、サポーターかバンドをする治療をするぐらいですかね。

靭帯の部分断裂などがある場合はグレード2で、プラスチック製の支柱がついたような、サポーターをするかな。

グレード3だと、ギブスやシーネなどをまいて2週間固定。その後、支柱付きの装具に変えたり、アンクルバンドに変えたりしますね。いわゆる急性期の対応って感じですかね。

川尻:グレード3の急性期(怪我をした直後の時期のこと)の場合って、何かリハビリの指示もするんですか?

朱田:僕はあんまりしないかな。2週間ぐらいは、アグレッシブには動かさない。「やった方がいい」って先生もいますけど・・・

怪我した足は「とりあえず固定」治療に物申す!!


川尻:もちろん、骨折の有無などを、最初にチェックするのはすごく大事ですが、すぐに足を固定する治療方針に、僕は疑問を感じています。

理由は大きく分けて二つあって、1つ目は固定をすることで、体性感覚※の入力が減る」こと。

※体性感覚とは・・・触覚温度感覚皮膚感覚と、筋や腱、関節などに起こる深部感覚。皮膚感覚が皮膚表面における感覚であるのに対し、深部感覚とは身体内部の感覚を意味する。後者は固有感覚または自己受容感覚とも呼ばれ、筋受容器からの伸縮の情報により、身体部位の位置の情報が得られる。

体性感覚の入力が減る期間が長くなると、その分感覚を取り戻すのに時間がかかってしまうので、リハビリの期間が長引いてしまうという問題があります。

2つ目は、「固定することで、感作がおこる」。感作とは、痛みに対して非常に敏感になっている状態のこと。固定することで、脳や中枢を含めた体というシステムが、「防御しなきゃ!」という気持ちになり、どんどん敏感になっていきます。すると、簡単なことでいつもより強く痛みを感じてしまう状態になる。これも、リハビリの期間を長引かせる一因になると思います。

整形外科医は、局所の治癒が最優先

朱田:整形外科医としては、急性期(怪我をした直後の時期のこと)は、あまり動かしたくないんですよね。局所の治癒が第一です。神経活動や認知は、ほぼ考慮しない。体のシステム全体よりも、局所の組織構造的な治癒を優先させているかもしれないですね。

元通りの状態ではないにしても、ある程度繊維の繋がりが綺麗に戻って、あまり緩みのない靭帯に戻る人が一定数いるので、できることならその状態に戻したいなって思っています。

もちろん、何度も捻挫をしているような人だと、戻らないこともあるんですけど。

川尻:僕も、「怪我をしている足を、最初からガンガン動かせ!」って思うわけではないですよ。僕としても、くっつくものはくっつけた方がいいと思っている。ただ、何らかの形で固定された部位からの体性感覚の入力が増えるように、もっとできるんじゃない?って思うんですよ。

朱田:なるほど。

川尻:例えば、捻挫を何度も何度もやって、関節包(関節を包んでいる袋状の膜のこと)自体が伸びきってしまって、なかなか戻らない人がいるとします。そういう人の足関節を固定してしまうと、当然体性感覚の入力が減りますよね。

つまり、「足首からの情報量が少なくなっているので、脳の理解が進まず、初期の違和感が消えない」みたいなことってあるんじゃないかなと思うわけですよ。

ギプスを着脱可能にすれば、怪我は早く良くなる!?

川尻:例えば、ギプスも固定用のブーツみたいに、着脱や歩行可能なものにしてほしいんですよ。

朱田:はい、はい。

川尻:そうすると、90度で固定するとしても、立つ事ができるようになったりする。別に動かさなくてもいいんです。立つ事が出来るだけでも、全然違う!

朱田:以前、川尻さんが「ギプスをしていても、ガンガン動かす」みたいな話してましたよね?ギプスを巻いて、トレーニングしちゃう。

川尻:そうそう。体性感覚っていうのは表在と深部と両方の合わせ技なので、 怪我した靭帯の周りが露出できるような仕様にしてくれていると、関節自体が動かなかったとしても、皮膚からの入力はできるので。

朱田:うーん。整形外科では、通常1〜2週間ぐらいは固定をしますね。やはり怪我をした部位は炎症を起こしますから、痛いです。この痛みは感情とか脳とかで説明するものではなく、やはり局所の問題が中心ですから、まずはそこをしっかり治すべきだと思います

しっかり局所を治すことを大前提として、その上で感覚入力を維持できるなら良いですが、この関係性が逆転してしまうと問題だと思います。感覚入力のために局所の治癒を犠牲にする、っていうことはダメですね。

あとは、病院側の事情もあって、リハビリの初回の予約を入れられるのが、2週間後とかになっちゃうんで、そうするしかない・・・というのもあるんですけど。

川尻:ありますよね(笑)

朱田:結果的には、局所の修復にかかる時間を考えて、「2週間後に靭帯の修復をチェックしましょう」っていう感じで、リハビリの予約も入れてもらい、そこから、少しずつリハビリをやっていくっていう感じですかね。

そこから先は、リハビリをしながら、本人の感覚で進めていきます。本当は、再受傷を予防出来るレベルまでリハビリをしたいという思いはあるんですけど、痛くなくなると、皆さん来なくなっちゃうっていう・・・

川尻:それは、ありますね〜。腰痛が酷くてうちの治療院にくる患者さんでよくあるケースなんですが、10年前に足首の捻挫をしていて、調べてみると完治していない。実は、その怪我が腰痛の原因になっている。みたいなケースってよくあるんですよ。

きっちりリハビリしきれている方って、実はめっちゃ少ないんじゃないと思います。

朱田:そうじゃないですかね。ほとんどの人が、「捻挫は軽度の靭帯損傷」って認識はないし、そもそも足首の不安定さって自覚しにくいんだと思うんですよね。普段から動きが大きい関節なので、その不安定さが増えてもなかなか自覚しにくい。

例えば股関節とかみたいに安定性が高いところが不安定になると、「何かおかしい」ってわかるわけなんですけど。

川尻:そうです。動きの変化に、脳も気付きやすいですしね!

朱田結局、足首が不安定になったら、その不安定さは腰や膝、股関節などの別の部位で庇っているんだけど、それらの感覚を人は意識できない。だから不安定さが連鎖して別の場所の問題になっているっていう発想にはなりにくい。この複雑なシステムをどう伝えるか?自覚できないものを知ってもらったり感じてもらうって、なかなかね難しいですよね。

(後編に続く)

 *この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。

朱田 尚徳 (所沢あかだ整形外科 院長)
富山医科薬科大学医学部医学科卒業。国内外の整形外科病院勤務ほか、Jリーグのチームドクターなどを歴任。2020年、埼玉県所沢市に「所沢あかだ整形外科」開院。理学療法士や鍼灸師とともに、チーム医療の推進を行っている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判定医。

川尻 隆 (SASS Centrum, Inc. 代表 アスレチックトレーナー 組織改革デザイナー) 
サンディエゴ州立大学を卒業。2007年よりアメリカカリフォルニア州サンディエゴにてIntegrated Holistic Medicine Clinic/パーソナルトレーニングジム“Body Craft”を経営。2017年に株式会社SASS Centrum,を設立し代表取締役に就任。新しい医学・医療の形を「動作学」を基礎に研究を続けている。