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【Medical Emergence Talk】#13〜怪我の王道治療に物申す!痛みを早く根本から治す方法とは?(後編)〜 

前編を読んでない方は、まずはこちらから!

大事だけど、目に見えないものを物を伝える難しさ

川尻:リハビリ時のコミュニケーションって、本当に大事ですよね。例えば、足首の怪我の5年後に腰が痛くなった時に、我々がミクロな構造の視点で物を捉えてると、足首と腰の繋がりは見えないわけじゃないですか。多くの人にとって、腰が痛くなった時、その原因は腰の問題なんです。
でも実際は、5年前の足関節の不安定さが他の関節にも連鎖していって、結果的に今の腰の痛みに繋がるっていうこともある。

だからこそ、体全体の繋がりとしてイメージが持てるような理解が進めば、なるほどね〜って理解できる人が増えると思うんですよね。

朱田:リハビリをしっかり続けてくれる方は、陳旧性(古い傷や痕跡など、かつて起こった変化)の怪我から長く続く不安定さがあったり、何度も捻挫を繰り返して最近別のところも痛み出してきた、というような症状のある方。ここまで長期化すると、やっと足首の安定化の重要性に目を向けてくれる感じですかね・・・

川尻:わかります!一方で、例えば、一応ボールが蹴られるようにまで回復した患者さんに、「まだ、可動域や、感覚の問題はあるよね」 といった説明はするんですか?

朱田:僕の外来では、説明します。 ある程度 理解してくれる人だと、例え、一旦リハビリに来なくなったとしても、何か違和感があると相談に来てくれるので、それでもいいかなと思っています。 「まだ、100点じゃない」 という理解を持った上でリハビリをやめるのと、「もう100点だ」と勘違いしているのとでは、後々大きな違いになってくると思いますから。

そもそも、リハビリとは・・・・

川尻リハビリテーションというのは、「感覚のリハビリテーション」でもあるんですよね。

例えば、 怪我などで、靱帯や骨などの構造が損傷すると、それに伴って感覚の入力が変わり、体性感覚の入力が減ってしまいます。可動域が狭くなったり、筋力が弱まるというのは、感覚の入力の減少の結果として出てくるもの。だから、感覚の変化を戻すことが大事なんだということとを、少しでも理解してもらえる事が大事だと思っています。

朱田:だけど、患者さんに、「運動のパフォーマンスを 上げるためには・・・」といった内容を具体例をあげて話したりしても、なかなか「なるほど〜!」とはならないですよね(笑)

川尻:わかる!!我々の前では、「そーですね!」って言うんだけど、「あれ?来なくなった・・・伝わってなかったか(泣)」みたいなのっていっぱいありますよね。

朱田:わかるなあ〜。前に中学生にその話をしたら、寝ましたからね(笑)
だんだん目が上向いてきちゃって・・・「わかってもらうのって、なかなか難しいな」ってなりました。

川尻:あははは。そのように知識で理解できない場合こそ、急性期だろうと感覚をちゃんと戻すことが大事になると思います。関節を動かさないと、すごい速さで感覚がダメになっていくから。もちろん、構造物としての組織の修復を促すこともやりながら、同時に感覚の回復のためのリハビリのために、色々な事をやる。これを、真剣に考えた方がいいなと思っているんですよね 。プラス、患者さんへの教育も大事!!

朱田:僕らは、急性期の怪我なら、患者さんに対して最初の3週間〜4週間ぐらいまでは主に構造の話をしますね。

川尻:ほお〜。

朱田:その間は、機能や神経的な話は殆どしません。なぜなら、患者さんは怪我の治りについて知りたくて病院に来ているので。川尻さんの治療だと、もう少し機能の比重が高いかな?

川尻:もう、最初からフルスロットルですね(笑)

朱田:おお、そこは大きな違いですね!

川尻:だから、構造の回復のために「最初の二週間ぐらいは、足を固定してても良いけど・・・」って言います。「固定しても良いけど」っていう言い方ですよね(笑)早く復帰したいなら「リハビりを同時にやりや!」って言うんですよ。

例え、ギブスで固定することになったとしても、鏡の前で逆の足首を動かすリハビリ(ミラーセラピー)のようなこともやります。

「怪我をしっかり治して、早期復帰」は叶えられる?

朱田:なるほどね。一般的なお医者さんはスポーツ現場の経験がそんなに多くないんです。
口では「早期復帰を目指す!」みたいな事も言っているけれど、怪我の修復を犠牲にしてまで早期に復帰させてあげようとは思っていないですよ。怪我をちゃんと直す方が、圧倒的に優先順位が高い。重要度の割合で言うと、急性期には構造を治すことが10としたら、早期復帰は1ぐらいの感覚じゃないですかね。

川尻:大事なのはわかる。でも、優先順位が全然違うんですよね。

朱田:そうですね。

川尻:そう言う前提におられると、僕らが逆に「早期復帰のために、構造を軽視している」という風にとられることが多いんですよね。でも、そうじゃない!

早期復帰か?構造を治すことか?という、どっちか論になっていることが、おかしいなって思っていて。どちらも同じく重要な要素として、両方叶えるベストな方法を、ちゃんと考えるべきなんじゃない?って思っています。

朱田:う〜〜ん、正直に言って、整形外科医は「早期復帰」を重要視していないですね。例えば、「3ヶ月で復帰が、1ヶ月で復帰」になるんだったら、すごく意味はあると思うんですけど、「12週が10週になりました」だと、そんなに変わらないじゃん?って思っちゃう。

川尻12週が6週ぐらいにはなると思いますよ!
12週のうち、2週間をギブスで固定して動かさなかった子と、12週間リハビリを毎日きっちりやりきった子を比べると、多分、それぐらいの差は出ると思います。

朱田:そうですか。それでも、我々は早期復帰にフォーカスしろとは言わないです。

川尻:そうでしょ?やってないし、やったこともないし。

ここで忘れてはいけないのは、ギブス固定をしたことによって、体性感覚がマイナスに振れることが多くなる事。治るまでの時間が倍かかってくる。そこをちゃんとやると、すごい変化が出ます。

朱田:そうかもしれないですね。

川尻:そうなんですよ。構造の修復がいらないって言っているわけじゃなくて、急性期の場合は、僕も必要だと思っています。それを含めて深く考えていく必要性があるし、早期復帰と構造を直すことの両方を叶える方法を、私たちは目指せるんじゃないの?って思うんですよね。

朱田:二重の問題が折り合わなさそうですけど。

川尻:両方大事。めちゃ大事。どっちかじゃないです。例えば、音叉を当てたり、バイブレーション刺激とかだったら、急性期でも家で簡単にできそうですよね?そういう事をしたいのに、ギブスで固められるとそれが叶わない。「ここだけギブスに穴を開けたろかな?」って思うわけですよ(笑)

朱田:それは、ちょっとね・・・(笑)でも、今度やってみましょうか。

川尻:できるだけ、着脱可能なやつにしてもらいたいですね!

朱田:そうですね。完全に取れないやつにする事って、ほぼないんですけどね。確かにパルス治療器を当てるぐらいなら、できるかもしれないですね。

川尻:パルス治療器や、皮膚のストレッチなど、早期でも色々と感覚の入力って出来るんですよね。それだけでも全然変わります。

朱田:前向きに検討します。治療結果が変わるっていうことを伝えるのなら、それなりのデータを出さないといけないので、その研究方法を考えないといけないですね。

川尻:ぜひ!急性期のリハビリを、新しくしていけたら素敵だなって思います!

 

*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。

朱田 尚徳 (所沢あかだ整形外科 院長)
富山医科薬科大学医学部医学科卒業。国内外の整形外科病院勤務ほか、Jリーグのチームドクターなどを歴任。2020年、埼玉県所沢市に「所沢あかだ整形外科」開院。理学療法士や鍼灸師とともに、チーム医療の推進を行っている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判定医。

川尻 隆 (SASS Centrum, Inc. 代表 アスレチックトレーナー 組織改革デザイナー) 
サンディエゴ州立大学を卒業。2007年よりアメリカカリフォルニア州サンディエゴにてIntegrated Holistic Medicine Clinic/パーソナルトレーニングジム“Body Craft”を経営。2017年に株式会社SASS Centrum,を設立し代表取締役に就任。新しい医学・医療の形を「動作学」を基礎に研究を続けている。