「真面目」コンプレックス
「真面目ってほめ言葉ですか?君は真面目だねって言われるたびに馬鹿にされているように思う。」
ドラマ『相棒』 seasonⅣの第11話で出て来るセリフ。相棒は父の影響で小さい頃からよく観ていたが、この話は再放送で何回か観た記憶がある。
葉月里緒奈さん演じる、一見地味な銀行員の女性。彼女から発せられるこのセリフに、妙に共感してしまったのはいつだっただろうか。
私は、真面目と評価されることが嫌いだった。
小学校の頃から勉強は得意だった。先生に叱られることより、褒められることの方が多かった。小学校3年生の時には学級委員をやった。4年生の林間学校の夜、同室のみんながおしゃべりしてた中、私はひたすら静かに寝たふりしていた。
勉強をしっかりして、ルールは守る。今にしてみればこの時、自分は正しいことをしている、という自信を持っていたのだと思う。「優等生」であることが私のアイデンティティだった。
4年生の時、毎週土曜日に学校でソフトボール教室があった。ある時友達が、誰もいない教室に入ってみようと誘って来た。私は止めた。授業がない土曜日に、いくら校舎が空いてるからって、勝手に教室に入っちゃいけないと思った。
その時だった。友達に「真面目すぎるよね」と言われたのは。
その友達は、すごくつまらなさそうな顔をしていた。私はショックだった。ルールを守ろうとしているだけなのに、それを、「つまらない」という理由で否定されたことが、その後もずっと心に引っかかった。
そこから私は、少しずつ、「真面目」を捨てたかったんだと思う。
中学2年生の春、クラス分けがあって間もない時に、先生があるレクリエーションをやってくれた。2チームに分かれ、自分のイメージを他の人に黒板に書いてもらう。書いている間教室の外にいたもう一方のチームに、書かれているイメージから誰か当ててもらう、というゲームだった。
私のイメージは、「真面目で背が高い」。その一言だった。
悲しかった。書いてくれたのは幼稚園からお互いに知ってる友達だったから、余計に。そして、もう一方のチームに一発で私だと当てられた。それもすごく悲しかった。
自分には何もない気がした。それまで正しいと思っていたものを信じられなくなった。
「真面目」は、その時の私にとって、空虚とイコールだったのだ。
それからの私は、努めて明るく振る舞った。不思議ちゃんアピール、とまではいかないけど、こんなところもありますよ、真面目な堅物じゃないですよ、誰かと会話するにつけて、そのことをわかってもらおうと必死だった。
高校に上がって、そんな必死な日々は終わりを告げた。高校は、中学の付属校にそのままエスカレーターで進学したけど、少人数の特進クラスみたいなところに入った。みんな、勉強を真面目にやる人たちだった。成績の良さが個性として見られない環境は、私にとって居心地が良かった。「勉強ができる」というのは、深い関わりを持たない限り、それだけの人間として見られるような気がしていたから。
今思えば。別に、あのレクリエーションの日より前だって、私は十分明るかったし、友達とバカな話もしてたし、おふざけもよくしてた。がんばらなくても、十分だった。多分、黒板に「真面目」と書いた友達だって、私を貶すつもりなんてなかった。
勉強が得意で好きなら、「授業だるくね?」なんて言葉に共感はしなくて良い。誰かの悪口を言って楽しんでる人と笑顔は共有しなくて良い。ノリが合わなかっただけ。
今ならわかる。真面目は空虚なんかじゃない。すごく良いことだと思う。勉強するにしろ、スポーツをやるにしろ、人と接するにしろ、真面目なのは良いことだ。
今の私が、10年前の私に伝えたいこと。
どうか、真面目であることを誇って。真面目でい続けて。
大学3年も終わる今、私はどうやらそんなに真面目ではない、ことを自覚している。そもそも大学受験は一回明らかな勉強不足で失敗したし、浪人して第一志望に入ったものの、課題はいつもギリギリ、文献を一冊通して読み込んだことはない…まぁ、単位は落としたことないし、進級要件もその都度クリアしてきてはいるので、真面目なのかもしれないが…というか、フル単とか留年とかいうものは、真面目かどうかをはかる尺度には必ずしもならないし。もう一つ例えを言うならば、これを書いているのは就活解禁初日で、私が今書き上げるべきは1年近く放置していたnoteの下書きではなく、ESの方なのだ。うーん、やる気が起きん。
話がやや逸れたが、要は、「つまらない」と言われて傷ついたあの日の私が思っていたよりも、私はそこそこに力の抜けた人間だ、ということである。それが元々の性質なのか、中学以来、必死に真面目を捨てようときた結果かは分からない。
けど、10年前の私に会えるなら、「そのままでいてほしい」って声をかける。そんなことを思うくらいには、私も年を重ねましたとさ。
締まらないオチですが、この辺で。
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