唐蜘蛛の旅人殺し
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かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
昔々ある村に、二人の老夫婦がおりました。
二人の間には子供がおらず、寂しい時もあったけれど二人で助け合いながら暮らしていました。
村の住人達は老夫婦に子供の世話から畑仕事を手伝ってもらっていて、優しい二人に何かできないかと考えておりました。
そこで、ある噂を聞いていたのです。
“村から出てすぐにある山にいき、山奥にある祠に大切に育ててきた作物を差し出せば子宝に恵まれない人間に精を与えよう”
そんな噂がありました。
その話を聞いた老夫婦は気遣ってもらえて嬉しかっ たが、その行為だけを受け取ろうとしていました。
夜のこと。
寝ているお爺さんに何者かが声をかけてきました。
『村から好かれる心優しき夫婦よ。
もう我慢する必要はありません。
私の祠へお供え物をしていただきたいのです。私はずっと二人を観ておりました。何か力になりたい。
私の祠へお越し下さい。噂は届いているのでしょう。
私は待っています。』
夢だと思っていたお爺さんはすぐには信じませんでした。
目も冴えてしまい、お爺さんは悩んでいました。
すると、隣のお婆さんも同じ声を聞いたのでしょうか?悩ましい顔をしてお爺さんを見ています。
二人は山へ行くことを決意しました。
村人にその事を伝え、山へ行く時には沢山の応援がありました。
「やったぞ。俺達にまた新しい仲間ができる。」
自分達が昔世話をした子供達からそんな言葉が出てきました。
楽しみにしてくれている。
しかも、子供達から。
「本当にわし達に子供が授かれるのだろうか。」
「山の神様のお告げがあったでしょう?大丈夫ですよ。」
期待と不安に胸を膨らませていく二人。
随分と行っていないあの山の噂も本当なのかわからないけれど、諦めたくない二人は山道に入っていきました。
こんな山だっただろうか?
そもそも山頂にある祠という事しか情報がないのですが老夫婦にとっては厳しい旅路でした。
迷う事はなくとも長年この辺りに住んでいるのに今聞いたこの噂。
それでも山へ入った二人にとって、戻る選択肢はありませんでした。
「この苦労が報われる。山頂を目指そう。」
二人は共に離れないよう手を握って歩いていました。
三時間が経過しようとしたときに、山に霧がかかってきました。
もうすぐ山頂だろうか。
だがまだ果てしない。
霧をかき分け進むと一人の若い女が倒れていました。
「お嬢さん、どうされたのですか?」
心配になったお爺さんが若い女に話しかける。
「申し訳ございません。
この先の村に用があり、ここまで歩いて参りました。でも、足を挫いてしまって途方に暮れていて。」
老夫婦は心配になり、若い女の介抱をすることにしました。
「お優しいのですね。」
老夫婦は挫いたという足を治療する。
まるで娘ができたように。
「お二人はこの山で何をしにいらしたのですか?」
若い女は老夫婦に質問をした。
「わし達はこの先の祠に用があっての。
今日一日ずっとこの山を登っておるんじゃよ。」
「この山の祠の事は最近知ったのだけれど、いつも私達村人がお世話になっているのにお供え物をしなかったのが申し訳なくて。」
願いよりも先に、二人は正直にそう思っていました。
子供ができなかった事もそうした姿勢が神様に気に入られなかったのだろう。
願いが叶わなくても二人は祠にお詫びをして帰るつもりでいました。
「そうだったのですね。
…なら、私が祠の元へご案内いたしましょう。」
老夫婦は驚いた。
「村に用があるんじゃないのかい?」
「祠へのお供え物が済みましたら、後でじっくりお二人に祠まで案内していただきます。」
そして喜んだ。
出会ってそれ程の時間が経ってなくても若い女と老 夫婦は親子のような関係になっていた。
三人は山頂を目指す。
「申し訳ないね。
私事に巻き込んでしまって。」
「大丈夫です。」
「ありがたや、ありがたや。」
若い女は霧がかかった山奥というのにまるで自分の 住居のように道を案内してくれました。
「私は子供の頃から親に育てられた事がありません。
ずっと一人で過ごしていました。」
老夫婦は若い女の話を聞いている。
「お二人に会えて、少しだけ親子という関係がわかった気がします。」
「わし達も子供がいなくての。
村にいる他の子供達を世話していく度に寂しくおもったものじゃ。
でも、もうそれも良い思い出じゃがのう。」
「そうですか。あと少しで祠に着きますよ。」
もうすぐ目的地に到着する。
長いようで短い時間だった。
こんな立派な祠があったとは。
二人は持ってきたお供え物を祠に置き、この出会いの時間を与えてくれた事を深く感謝する。
「婆さんや。それじゃ、帰るとするか…」
お爺さんが話かけた時、お婆さんが履いていた草鞋が一つだけ落ちていた。
不安になったお爺さんが気付くと霧だと思っていたものが白い蜘蛛の糸になっていてお爺さんにまとわりついていた。
「うふふふふ。まんまと引っかかったわね。」
そこには白い顔に蜘蛛の鎧を纏った女が口から血を 流しながら祠の中央に座っていた。
この祠もよく見るとその女の住処のようだった。
「な、なんてことを。婆さんをどこにやった!」
「うふふふふ。美味しくいただきましたよ?」
残酷な笑みを浮かべる不気味な女。
「私の名前は“唐蜘蛛"
ずっと貴方達二人を待っていました。」
「あ、あの時の声はお主か?」
「はい。噂を流したのも私です。願いを叶えようとする旅人を食べたい。
だから種を撒いていたのです。」
そんな!
まんまと引っかかったというわけか。
お爺さんは涙を流しながら後悔していました。
「優しいお二人に都合の良い願いを叶えさせ、喰い殺す。
今すぐにお婆さんの元にお送りします。」
悲鳴が山にこだましました。
一方村では。
「あれから二人は帰ってこないのう。」
「心配だね。だれか迎えにいかなくてもいいのかい?」
「お二人の場所を知っておりますよ。」
「君はあの時山について知っている娘か?」
「またお伝えしたい情報がございまして。」
完