俳句物語0041-0050 ゆりかもめ浅川マキの歌で飛ぶ
週一ペースのぶっ倒れが週二に近くなってきた。
文章を書くペースが落ちたが、数少ない書ける機会には、昔ながらの作風に戻っている。
俳句とそれに連なる物語は、書けない季語の日以外は書くようにしている。
その日の季語を確かめてから、息子を幼稚園に送っていく際とその帰りに句を固めていくことが多い。
かつて三年ほど毎日詩を書き続け、小説向けの詩は小説化した。それらは図書カードや現金に変わった。厳選した詩も詩誌で毎号のように結果を出していた。「毎日○○」というのは、地力アップの近道ではある。今の俳句とそれに連なる物語は、体調優先で肩の力を抜いて書いている。
今回の分から掌編小説を二編書いた。
「紅葉散る無限掃除夫頭上また」
https://note.com/dorobe56/n/ne35be7ba5ccf
「枯園に廃線伸ばせば駅舎来る」
https://note.com/dorobe56/n/na0fddb3a7a4b
0041
足跡のおしくらまんじゅうまだ続く
お寺の境内を娘と散歩していた。裏手に回ると砂利の山があり、その上で相撲をして投げ飛ばされた。近くの砂利に無数の足跡があり、子どもらがおしくらまんじゅうしていたと知れた。まだ終わっていないらしく、音もなく足跡ばかり増えていった。
0042
厚着して市役所長居金は命
寒さが厳しくなってきたので厚着して出かける。思ったよりも長居することになった市役所の中で、厚着が邪魔になってくるが、色々な窓口に用があるので脱げずにいた。命を繋ぐ為には金がいる。そのためにしか金はいらない。集める書類がまた増える。
0043
紅葉散る無限掃除夫頭上また
紅葉は無限に散る。掃除夫も無限に必要となる。掃いても掃いても清掃は終わらない。全て掻っ攫えたつもりの掃除夫の頭上にまた紅葉が降る。掃除夫の頭上にある木々のさらに上に視線を移せば、遥か上空から木々の上にまた無限に紅葉は降り続いている。
0044
ゆりかもめ浅川マキの歌で飛ぶ
浅川マキの曲を演奏する男女がいた。聴いた娘がすぐに「かもめ」を歌い出した。終了後「歌、上手でした!」と絶賛する娘に向けて、ギター弾きの男性は「音楽、好きなの? こっち側(演奏者)はしんどいよ」と言った。かもめは歌の中で飛び立った。
0045
枯園に廃線伸ばせば駅舎来る
荒れ果てた枯園に、廃線となった線路を伸ばしてみた。廃線マニアぐらいしか寄り付かぬと思ったが、元は人間だった者やら子どもやらが割と来る。廃線を走る幽霊貨物列車が、駅舎の材料を運んできた。建てればまた人ならざる者が増えた。金にはならず。
0046
いいですかあなた殺して酢牡蠣超え
このままでは私たちは共倒れになるでしょう。そうなる前に私はあなたを殺します。私たちの間にあるこの酢牡蠣が最後の晩餐です。酢牡蠣を食べ終えたらあなたを殺して私は生きます。早く食べてください。天城越え歌ってる場合ではありませんよ。
0047
大雪(たいせつ)のノルウェー日没午後の二時
佐伯一麦「ノルゲ」を読んでいる。妻のノルウェー留学に一年間ついていった作家の、日常雑記のような話。作者が寝込むと冬が始まった。北欧の冬は暗い。午前十時に日が昇り、午後二時に日が沈む。昼がないまま、夜が空を占める。
0048
開戦日辻音楽師のレクイエム
引き続き佐伯一麦「ノルゲ」を読む。主人公の作家が辻音楽師のバイオリン弾きと知り合う場面を読む。作家の住む町で他には辻音楽師の姿はない。かつての開戦日にそのような者がいれば、破滅へと向かう決定に、レクエイムを奏でていたのではないか。
0049
転居先ボーナス配る理由あり
引っ越しのバイトをすると、稀に転居中の方が金一封を配ってくれた。その日は日雇い一日分と同等の金額を家主がくれた。私が担当した二階家には、先住の寝たきり老人がいた。ダンボールを運び込むと、腐った畳にめり込んだ。畳の方が呻き声をあげた。
0050
冬夕焼子らには「紅」叩かせぬ
X JAPAN「紅」を聴く。寿命を削るようなYOSHIKIのドラミングは、我が子には真似させたくない。数年前、娘にねだられてYOSHIKIごっこをしてエアツーバスを叩き続けた結果、私は幾度か死の淵をさ迷った。「サイレント・ジェラシー」はもっときつい。