俳句物語0091~0100 蕪村忌にバックビートがのたりだす
開始105日で100句達成。
句作の方向性が見えてきたという感じ。一つの大きな世界の一部を切り取り続けるような。実状ももちろん入ってる。
アイデア出しも、季語を見てPCの前でうんうん唸るより、季語を覚えておいて、他のことをしながらの方がいい。家事やらトイレやら子どもの相手やら。
読書中の本の影響、聴いていた音楽の影響も顕著。
「阿修羅咳く」はP-MODEL「ASHULA CLOCK」を聴いていたので。
「神経の衰弱基準」は森内俊雄「夢のはじまり」を読んでいた最中。娘と久しぶりにトランプの神経衰弱をしたというのも影響あり。
「蕪村忌に」はDOESの新曲「BackBeat」を聴いて興奮しながら。
0091
大寒だ動かぬ動けぬ石の猫
薄く凍った空気を、手で払いながら外に出る。石の猫が寒さでいつも以上に固まって見える。「家に。こたつに」入れろと言いたいののか。石なのに。「ならばやけくそ。遊ぶ」石だから動けぬ。石の猫の背丈なら、昼までに埋もれる。「眠る」それがいい。
0092
阿修羅咳く異なる琴音六耳聴く
阿修羅は咳いた。三面それぞれ血を吐いた。触れてもいないのに阿修羅琴が鳴り、六つの耳に異なる音色を響かせた。「眠れ」「休め」「止まれ」「諦めろ」「倒れな」「戦え」阿修羅は自らの血に幾度か足を滑らせながらも立ち上がり、戦いへと赴いた。
0093
神経の衰弱基準寒き影
神経が弱っている時に見る自分の影は、人ではない形をしていたり、少し離れてついてきたり、あるいは先に行ったりする。厳冬の夜の街灯は心の影を映し出す。こちらは寒さに震えているのに、影は悠々と先を進んでいく。待ってくれ。まだ震えていたい。
0094
隼の宿りし人が山へ飛ぶ
無遅刻無欠勤を十年続けた従業員が「隼が宿りまして」という理由で欠勤の電話をかけてきた。詳しく聞けば、これから山へ飛ぶので戻るか分かりませんという。「今は寒いし餌も少ないんじゃないか」と説得したが、キッという鳴き声を最後に電話は切れた。
0095
鍋焼きの最後の最後に蛇の眼が
熱すぎる鍋焼きうどんを鍋の底まで食べ尽くそうとした。入れてもいない蛇が鍋底に貼り付いていた。煮えた眼がこちらを睨んでいた。料理の最中に飛び込んだか、元々貼り付いていたか。喉に引っかかったがどうにか飲み込むと、舌が伸び、眼が潰れた。
0096
蕪村忌にバックビートがのたりだす
朝が遅い。コロナで上の子のクラスは学級閉鎖。下の子の幼稚園は閉園中。ゆるやかなリズムで、似た寝顔の二人の寝息が聞こえる。のたりのたりと朝が進む。自分の鼓動まで遅く感じる。止まってしまわぬようにDOES「BackBeat」を流して乗り切る。
0097
この榾はかつてのねぐらと狸汁
狸汁が喋りだした。「こんな所にあったのですか」と、榾(ほた)の根株を見て言い出した。「私のねぐらとしていた木の株でね。他の所じゃよく寝付けなくて。返してくれませんか」とは言ってももう遅い。腹の中で溶けるまでしつこく狸は喋っていた。
0098
求人のチラシ眺めて春を待つ
そろそろ働き口を見つけないといけない。ポストに放り込まれていた求人チラシを眺めながら、面接での様子やその会社に入った自分の将来の姿、問題児扱いされる未来までを想像する。眺めれば働く頭になっている。眺めなければただ春を待っている。
0099
「かんびらめ!」口論中ふと季語挟む
友人と口論になり、悪口雑言の嵐となり、ついには「このチンピラめ!」と言われた。全くチンピラ風の身なりと生い立ちではない私に向けてそれは的外れだが、対抗して「かんびらめ!」と冬の季語を挟んだ。「め、目刺し焼く」仲直りした。
100
ねんねこに人の名前は五つまで
服に書く名前は三つまで、という迷信がある。四は死に繋がるのと、お古も過ぎると肌に悪いからか。ねんねこだけは五つまで許される。死人から守る服とも言われる。兄、私、妻、娘、と流れていった我が家のねんねこは、私と妻の間に知らぬ名がある。