ぬいぐるみ小説集「公園の廃墟で最後の絵本を読むクマ」(半分)
※こちらを含む「ぬいぐるみ小説集」をkindle出版しましたので、公開済のものの内容を半分程度にしております。
周囲を団地で囲まれた、かつての公園の廃墟のベンチでクマのぬいぐるみが絵本を広げて読んでいた。「最後の絵本」というタイトルのその絵本には見覚えがあった。紙で印刷される最後の書籍となった本だった。本屋の末期、皮肉にも「最後の絵本」は早々と売り切れ、残っていたのはその他の本たちだった。閉店とともに本の化石としてそれらは読まれることなく風化していった。
そのクマのぬいぐるみはかつて、子どもたちに絵本の読み聞かせをしていたのかもしれない。
「こんにちは」クマのぬいぐるみに話しかけてみると、夢中で読んでいたのか、大変驚かせてしまった。
「あまり驚かせないでくれないか。本の内容が消えてしまったらどうするんだ」
最後の海、最後の星、最後の楽器、最後の作家、そういう物語が詰め込まれた一冊だった。最後のページは贅沢な空白で埋められていたので、何を足してもいいようになっていた。実際にそこに物語を付け足したという話は聞かなかった。
以下こちら
(了)
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