俳句物語0061~0070 寒凪にまだ浮かんでる昨日の子
年末進行という感じ。
年末年始の特別企画で慌ただしかったり、主力パートの主婦層が休むために人員が少ない職場、ということから解放されている現在。前の職場の同僚達は大丈夫かと心配はする。どのような形でもヘルプメッセージは送られてこないので大丈夫なのだろう。寂しくない。ほんとに。大丈夫。大丈夫。
夜一から日記帳まで。体調崩すとその様子をすぐに反映させている。ホラー句入ってるのは恒川光太郎読みの影響か。
0061
一茶忌に眠れず夜一茶器さすり
四楓院夜一(しほういん・よるいち 漫画「BLEACH」に登場する、すぐに服を脱ぎたがる褐色の死神)は小林一茶の命日に眠れずに屋根の上に登っていた。一茶を茶人と勘違いして茶器を持ち出していた。茶よりミルクが好きなので、茶器をさするばかり。
0062
アアアーア! 冬至の朝にもツェッペリン
息子は昨日腹痛で幼稚園を休んだ。固い便がたくさん出た。今朝は軽い咳が出ていた。市販のシロップを飲めばすぐ治まるやつだが、念の為休んだ。園に連絡を入れた直後から元気になり、レッド・ツェッペリンを歌っている。そんな冬至の朝。
0063
底冷えて生涯一の頭痛来る
目が覚めると体が冷えていた。起き上がれない程の頭痛がした。何も腹に入れずに頭痛薬を飲んだ。トイレでは腸壁全て剥がれるほどの便が出た。一日二回が限度と書かれた頭痛薬を三時間ごとに飲む。何をしても治まらないので、いつものように本を読んだ。
0064
一日を風邪薬のみで生き延びる
昔具合が悪い時にどこにも行けず風邪薬だけで一日を過ごしたと語る人がいた。だがよく聞けばおかゆに薬を混ぜたとか焼酎で割ったとか鼻から吸ったとかおかしなことを言う。おかゆ食べてるじゃないかと言うと、俺おかゆなんて言ってないと言い張る。
0065
沈みつつまだ息を吸う年暮るる
空気の底に沈んでいる。水ではないから息は出来る。退職した会社から年末に振り込まれた退職金で、しばらくは生き延びることが出来るが、一年は続かない。この年の暮れは二度と来ない。これまで吐き続けてきた息を吸い戻す。底の空気は濁りやすい。
0066
お椀から鮫の飛び出す根深汁
葱汁のことを根深汁とも呼ぶと聞いて浮かんだのは、フカ(鮫)が泳ぐ味噌汁だった。お椀の中から飛び出した小さな鮫がテーブルの上で跳ねる。箸ではつまめない。幻であるからかき消える。「骨にいいのに」と悔しがるが箸も汁も消える。お椀は残る。
0067
煤逃げて本能のまま岩開く
逃げた。走った。駆け続けた。果てに岩戸があった。開けた。入った。籠もった。大掃除は嫌だ。きれいさっぱり片付けたくはない。煤払いから逃げ出した。誰が来ても開けず、返事もしなかった。岩戸の中には何もなかったのに、二日で本で埋め尽くされた。
0068
寒凪にまだ浮かんでる昨日の子
昨日から海が凪いでいるから、陸から流れ出したあれこれが、遠い沖まで流されずに留まっている。粗大ごみや獣の死骸に混じって、冬の海に泳ぎ出した男児が浮かんでおり、こちらに手まで振っている。引き込まれないよう、目を合わせず手だけを振る。
0069
春支度今後記憶を諦める
新年の用意を始めようと、必要なあれこれを思い出そうとするが、これまで人任せにしてきたので、何も浮かばない。勉強しようかと思うが興味を持てない。今後記憶することを諦めて生きよう、という決意も、すぐに忘れる。餅か、餅を何個だ。年の数だけか。
0070
「明日から」ただ一行で日記果つ
一文字も記さなかった日記帳を発掘した。捨てるのも忍びなく、十二月三十日の項に「明日から」と記す。大晦日に今年の総まとめとなるような、素晴らしい文章を記そう。年記だな。一年分だから丸一日かかるだろう。必ず、きっと、絶対、書かない。